oto reaが導く、音響による空間体験の進化とは?(前編)

高野 次郎
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高野 次郎

未来の都市「スーパーシティ」を見据えた未来のインフラづくりを目指すAR/MRスタートアップである株式会社GATARIと「デジタルイノベーション×場づくり」をテーマとする乃村工藝社のラボラトリーであるNOMLABとで共同開発した、「音」による空間体験拡張のプロトタイプをご紹介する記事を、2020年9月23日のノムログにて掲載しました。

本記事では、長引くコロナ禍において「音」による空間体験拡張装置:oto rea(オトリア)の改良を続ける両社のメンバーに、体験会からのフィードバックやディスカッションを通じて見えてきたoto reaの魅力とアフターコロナを見据えた今後の展望について語っていただきました。

左から、竹下俊一(GATARI代表)、中村瞳(NOMLAB デザイナー/エンジニア)、林みのり(NOMLAB プランナー)、黒木洋平(GATARI プロダクションディレクター)。座談会の進行は株式会社乃村工藝社広報部の岡村有希子が担当しました。

1.XRとリアル空間の視点で長引くコロナ時代を振り返る

岡村
本日は音声MR技術であるoto reaについて、共同で開発を進めている株式会社GATARIの竹下俊一さん、黒木洋平さんと、株式会社乃村工藝社のオープンイノベーションラボであるNOMLABの中村瞳さん、林みのりさんにお話を伺いたいと思います。皆さま、よろしくお願いします。

一同
よろしくお願いします。

岡村
早速ですが、新型コロナの流行が始まって1年以上が経とうとしています。本日、皆様にはコロナ禍でも継続してきたoto reaの開発について語っていただきたいと思うのですが、まず始めにこれまでの1年間を振り返り、AR(Augmented Reality:拡張現実)やMR(Mixed Reality:複合現実)のようないわゆるXR業界や、集客空間の業界において、どのようなことが起こったのかをお話ししていただけますか?

竹下
商業施設や展示施設に関してお話ししますと、特に緊急事態宣言下においては、リアル空間に人を呼べない状況下でoto reaのような装置の体験を提供すること自体が難しかったと言えます。一方で、ある展示施設において、感染防止のため集客を6割程度に抑えたところ、全体の売上は減ったものの来場者の満足度は向上したといったデータもあります。コロナ後に施設の売り上げを戻していくには、集客数をコロナ以前に戻すことを目指すことはなかなか難しいと思うので、お客様の満足度を向上するかたちで単価を上げられるような選択肢を増やしていきたいと考えています。oto reaはその付加価値を高めていく施策のひとつになると思っています。

岡村
なるほど。現状はリアル空間の安心感と満足度の両方を高めるというフェーズなのでしょうか?

竹下
リッチな体験を提供しようとする際に、例えばテーマパークのアトラクションなどは初期投資がどうしても大きくなりますが、oto reaは大きな工事をせずに新しい体験を提供できます。比較的、導入しやすい施策だといえるのではないでしょうか。

岡村
確かに、施設側もこれまでのような集客や新たな投資が難しい中で、安全性を担保して導入できるという意味では、高い満足度と大きな工事がいらない音声体験というのは大きな可能性を感じますね。

中村
外出頻度が減っている中で、スマートフォンアプリのclub houseが流行ったりしましたが、音のコンテンツの重要性は増していて、市場規模も拡大していると言えます。音に対する関心が高まる中で、音のリッチな体験と言うのはXR、MRやARにおける、ひとつの効果的な要素になると考えています。


特にoto reaは、視聴デバイスの存在自体がそのまま特徴になっているとも言えます。デバイスさえあれば、既存の空間をそれほど変えなくても新しい体験を多くの人に提供することができます。

中村
oto reaは人の行動に合わせて自然に音が再生されます。スマートフォンを利用した音声体験なので、体験者がVR(Virtual Reality:仮想現実)やMRのゴーグルのような大きなデバイスを装着する必要がないのも利点と言えますね。

竹下
ARは様々な企業が取り組み始めていますが、(生活者レベルではまだ普及しているとは言い難い)ARグラスが必要な限りは、その取り組みは実証実験から先に進めるのが現状では難しいと言えます。oto reaのような“音のMR”は即効性のあるソリューションとして提供しやすいサービスだと考えています。

中村
oto reaは乃村工藝社の空間の知見と、“音のMR”のGATARIさんの知見を上手く活かしたソリューションになっていると思います。

岡村
もしかしたら、oto reaは「コロナ禍を受けてARがMRに進化したもの」と言えるのでしょうか?

竹下
oto reaの体験制作に取り組む中で「空間のふるまい」をつくっていくようなプラットフォームなんだということに気付きました。これまでの空間体験は、そこにいる人に同じ内容のものを提供していたのですが、デジタル技術を活用することで、それぞれが異なる体験を、インタラクティブに提供することが可能になります。体験者が空間と対話できるような、ゲームのような新しい体験です。(音声情報だけでなく)空間としての取り組みも不可欠なので、ARと呼ぶよりもMRと呼ぶ方が相応しいのではないかと考えています。

2.乃村工藝社RE/SPでのoto rea体験会を振り返って

岡村
2020年9月に実施した乃村工藝社RE/SPでの体験会の際は、コロナ禍で限定公開ではありましたが期間中150人の方々にoto reaを体験いただきました。体験者の方々からは、どんなフィードバックがあって、それをどんなかたちで開発に活かせたのでしょうか?


体験会にはたくさんの人に来てもらいましたが、皆さん子供のように喜んでいまして、「(動作に合わせて)うわ!音が聞こえる!」みたいな歓声が上がっていました。やっている動作は椅子に座ったり、見上げたりといった普段からやっていることなのに、参加者の皆さんにとっては驚きがある新鮮な体験に変わっていて、そこに付加価値があると気づきました。

中村
スマホのARは画面を見ながら体験する訳ですが、oto reaはスマートフォンを首から下げて、画面を見ずに体験します。視覚情報がない分、かえって新鮮な体験に驚きがあり、かつコンテンツの世界観に没入しやすいことがわかりました。

岡村
GATARIさんも空間への取り組みは継続されてきたと思うのですが、この体験会で、音と空間の関連性を強く感じた発見はありましたか?

竹下
乃村工藝社のプランナー堀井さんがoto reaを体験中に「RPGの主人公になったみたいだ」と言っていたのが非常に印象に残っています。リアルの空間を三次元の広がりを持ったゲームとして取り組んでもらえる装置になるなと思いました。

黒木
oto reaは現実世界に「プレイ体験」を付加できるものだと強く感じています。物理的には存在していないデジタル情報を(その場で認識できるかたちで)持ち込める。自分の身体の動きで音声を再生するなどして受け取れるという一連の行動が、オリジナリティの高い、強い体験につながったと思います。

竹下
デバイスを感じない、つまり「インターフェースを介在させずに、空間と直接向き合っている」という緊張感がこれまでの体験にないところですね。体験会で「スマートフォンのAR体験にはないおもしろさがあった」という感想を聞いた時は嬉しかったです。

中村
空間に対して、ここ(特定の場所)に音を置けるので、例えば「展示物に音を置ける」というのは、さまざまな空間の訴求力を高められると思いました。(後半に続く

本記事中の写真の撮影はoto reaプロジェクトを推進する津本祐一が担当、本記事の執筆はノムログ前編集長で、NOMLABのディレクターを務める高野次郎が担当しました。

後編の記事では、コロナ禍での体験会で見えてきたoto reaの可能性にはじまり、人と社会とデジタル技術のニューノーマルにまで話が膨らみます。お楽しみに!

oto rea体験について
お台場の乃村工藝社、またはGATARI秋葉原スタジオにて体験が可能です。本記事をご覧になって興味を持たれた施設運営者の方々は、こちらまでご連絡ください。お手数ですが”お問い合わせ内容”入力欄の冒頭に「oto rea体験希望」と明記ください。新型コロナウィルス感染対策における政府や東京都の指導によってはご期待にそえない可能性もあります。あらかじめご了承ください。

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高野 次郎

高野 次郎

初代ノムログ編集長/NOMLAB ディレクター
これからもずっと、空間のことを考え続けます。

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