国産材と向き合うフェアウッド・プロジェクトの挑戦

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「フェアウッド・プロジェクト」とは、空間づくり等を通じてフェアウッド(合法性・持続可能性木材)を利活用することで、林産業の自律的な経済活動や日本の森の保護・成長に貢献するため、乃村工藝社グループが2018年より取り組んでいる試みです。このセッションでは「フェアウッド・プロジェクト」の概要と、そこで得られたソーシャルグッドの視点を掘り下げていきます。

本稿は、乃村工藝社グループの「ソーシャルグッド」なプロジェクトをご紹介するイベント「ソーシャルグッドウィーク 2021」のレポート記事です。

*「ソーシャルグッド」の詳細はこちら
乃村工藝社グループが考えるソーシャルグッド(前編後編
*「ソーシャルグッドウィーク2021」のレポート記事一覧はこちら

フェアウッド・国産材活用プロジェクト

右:乃村工藝社 フェアウッド・プロジェクト リーダー 加藤悟郎
「フェアウッド・プロジェクト」と伝統技術を取り入れた空間提案を行う「JAPAN VALUE Project」のリーダーを兼任。産地見学会の主催、セミナー登壇、寄稿など多彩な活動を通じて、木のストーリーとクリエイティビティのある循環型の木質空間づくりを目指しています。

左:乃村工藝社 クリエイティブディレクター/デザイナー 大西 亮
ミュージアムデザインを起点に企業ショールーム・店舗デザイン・ワークプレイスまで分野にとらわれないプロジェクトを経験。情報デザインとインテリアデザインの領域を融合した空間づくりを主軸とし、デザインプロセスを包括的に捉えたクリエイションを展開しています。

中央:乃村工藝社 プロダクト本部 事業企画部 尾花弥栄子
プロダクト本部に所属し生産性を高めるための様々なしくみを開発。その一環として協力会社様との関わりを活かし、これからの材料調達について検討を開始。

私たちが国産材を選ぶ理由―日本の木は今、新しい出番を待っている

加藤
フェアウッドとは、簡単に言うと出処(産地)のはっきりした木材のことです。伐採地の森林環境や地域社会に配慮した木材・木材製品で、リデュース・リユース、リサイクル、違法伐採をしていない合法性などを重視しています。その中で、乃村工藝社グループでは、とくに国産の木材に注目しています。

国産材に力を入れる理由は五つあります。一つ目が、日本の森林は、今が伐(き)り時だということです。二つ目が、国の政策が国産材利活用に動いていること。三つ目に、ウッドショック*と違法伐採と価格のお話が関連してきます。四つ目が、乃村工藝社グループと木材流通には親和性があるため流通改革への期待があり、五つ目が、木そのものへの期待感です。

日本は国土の約7割が森ですが、そのなかで人工林が約4割、その人工林の約7割が戦後に住宅需要を支える目的で大規模に植えられたスギ、ヒノキです。植えてから50年以上経った木が全体の51%以上あり、木材として使いやすい時期(=伐り時)を迎えています。しかし、日本では木造住宅が減り、木材自体も使わない傾向にあり、豊かな資源を活かせていないのが現状です。

樹齢50年以上が過半数となった日本の森は伐り時を迎えている

ウッドショックとは
2021年3月ごろから始まった輸入木材価格の高騰のことを指します。米国や中国で木材の新築住宅需要が急増したことや世界的な輸送用コンテナ不足など複合的な原因により、特に柱や梁につかう輸入木材が手に入りにくくなり価格が高騰しています。木材の6割以上を輸入に頼る日本とって大きな問題となっています。

一方で2019年に森林環境譲与税が創設されました。基本的に森を育てるためのお金で、地方自治体に対し譲与されます。森を持っていない都市部の自治体では、木材利用促進に使うことができます。ちなみに従来は、住宅での木材活用が主でしたが、人口も減少している中、住宅需要には限界があり、今後は非住宅分野での木材の需要拡大が求められています。

そしてウッドショックと呼ばれる、SPF材や米松の集成材が品薄になっている社会課題がある一方、私たちの業界では、合板に使うラワン材も手に入らなくなってきています。ウッドショックはロジスティクスが原因で一過性のものとする見方もありますが、デフレの日本は世界的な価格競争力が弱く長期化する可能性もあります。また、ラワン材はトレーサビリティが担保しにくく、違法伐採のリスクが高い木材なので、これを機に国産材を使っていくことを進めていきたいと思います。外材ではなく、日本で伐った木を日本で使用すれば、輸送の負荷も減ります。

そして、乃村工藝社グループがいかに物流システムと連携を図れるかという点では、従来の流通を活かしつつ、一回だけしか使用しない、オリジナリティを出す使い方をする場合は、産地と直接つながることでいままで流通されなかった木材も価値高く活用することができます。私たちが多様な国産材を活用していくことで、山側に需要をつくり「伐って、均して、植えて、育てる」という100年以上にわたる大きな森の循環に寄与することができます。

産地と直接つながることで、通常は流通しない木材も活用が可能

都市側で木を使うことで、山側の経済も回っていきます

デザイナーによる木づかいー空間だけでなく、プロセスをデザインする

加藤
ここからは大西から、時系列に「フェアウッド・プロジェクト」の事例をご紹介します。

大西
最初にご紹介するのは、マテリアルとしての木を最大限に使ったプロジェクトです。少し前の事例になりますが、弊社のデザイナー・鈴木恵千代と一緒に取り組んだ「3×3 Lab Future」です。ここでは、流通材ではなく希少種の木材をたくさん使い、キャプションで木材を情報化しました。また、日本の伝統的な木造建築工法・板倉工法を紹介するVIPルームや、尾鷲香杉という香りの強い杉の断面を活かすデザインでレセプションカウンターを作り、入ったときから木の香りでおもてなしをするなど、木材の性質を生かして空間を創造し、木材の豊かさを訴求するためにマテリアルの情報媒体化に取り組みました。

20種類以上の希少種の木材で作った木の扉

木の香りで出迎える、尾鷲香杉を使ったカウンター

次の事例は、木を利用したこと全体を「ものがたり」として発信した神田明神文化会館「EDDOCCO」のプロジェクトです。「にぎわい施設で目立つ多摩産材推進事業」の補助金をいただいて、内装は多摩産材を活用した神社らしさを感じるデザインにしています。神田明神は、だいこく様、えびす様、平将門様を祀っていますが、多摩産材の産地である多摩地区にはたくさんの将門伝説が残っています。将門ヶ原、将門の瀧、将門神社…、実は多摩は、神田明神と縁(ゆかり)が深い土地でした。そこで、このつながりを「ものがたり」にして、神主さんに語り部になっていただきお伝えいただくようにしました。空間デザインだけでなく、神田明神を記号化し、記憶して、「ものがたり」を記事化する、その連鎖によって多摩産材を広めるプロセスをデザインしました。

多摩産材をふんだんに使った1階の物販スペース

この2つは、自分が仕掛けたプロジェクトであると同時に、自分自身の認識が変わるきっかけにもなりました。そしてもう一つのきっかけとなったのが、弊社が手掛けた林野庁補助事業・もりまちドアの「産地体験会」です。最初は遠足の気分で参加したのですが、製材している方や山で木を伐っている方に直接お会いしお話を聞いているうちに、川上・川中・川下という木材の流通のプロセスを意識し、このプロセスの中で、木をどうやって使っていくべきかを考えるきっかけになりました。それと同時に自分の仕事でのかかわりが、川下であることを改めて意識することができました。

3ヶ所の産地を訪れたもりまちドアの産地体験会、大西は多摩、尾鷲に参加

木を使うことだけではなく、持続可能な仕組みづくりを、プロセスからデザインしようとしたのがパラ卓球を題材にした「PARA HEROes展」です。通常、開催期間が限られている展覧会ではリースパネルを使います。しかし今回は、そのパネルを木にするだけでなく、ユニット化して再使用できるようにし、最終的には再生利用することまで考慮した、持続可能性の実現に取り組みました。また、展示台に箱馬を利用し、展示後も使い回せるようにしました。絵画が飾ってある壁面の下地には、通常、使い捨ての経師紙を使いますが、ここではキャンバス地を採用し、展示会が終わったらきれいにはがして、作家さんが油絵を描くときに利用できるようにしました。

こうした思いを設営する大工さんたちに伝えると、大工さんたちの木に対する触れ方が優しくなった気がしました。これはデザインで思想を広めることへのヒントになるかもしれないと気づきました。一足飛びにみんなに伝えることも大切ですが、まずは身近な川下の人たちへ。そこから少し川上の人たちへ、とメッセージを伝えていくことが重要だと感じました。

展覧会の持続可能性に挑んだ「PARA HEROes展」

つくる立場からーみんなで取り組む、フェアウッド・プロジェクト

加藤
限りある資源をどう使っていくかということが、これからのデザインの役割だと思います。
では、ここからは、尾花から弊社の生産側でどのような取り組みをしているかをご紹介します。

尾花
プロダクト本部 事業企画部の尾花です。ものづくりを担うプロダクト本部の⽴場として、このフェアウッドの取り組みに関わらせていただけるようになりました。

プロダクト本部では、施工に関わる計画から現場管理といった、ものづくりの最前線を担っています。しかし弊社は、自社でものづくりができる工場を持っていません。そこで多くの協力会社様と一緒になって生産体制を組んでいます。したがって弊社だけでは、100%国産木材を実現することはできないので、ぜひ協力会社様と一丸となってフェアウッドに取り組めたらと思っています。

いま話題になっているウッドショックについては、⽊材に関わる⽣産体制の維持に⼤きな危機感を感じています。木材の種類によっては価格がコロナ禍前の2.5倍にもなっています。メディアでは住宅用の集成材が話題になっていますが、私たちの業界でよく使われるラワン材も入手困難になっています。この危機的状況だからこそ、フェアウッドって何だろうと改めて考えています。国産材をもっと活用していくことを、具体的に考え、取り組んでいくべきではないかと思い始めています。

今後は、協力会社様にも林業体験、国産材産地との交流を進めていければと思っています。ノムラ協力会のCSV委員会では、100%フェアウッドの什器を試作しています。フェアウッドであることの意味や意義を協力会社様と共有し、国産木材100%利用の可能性を一緒に模索していきたいと思っています。

ノムラ協力会のCSV委員会が試作した100%国産木材什器(右下)

フェアウッドの空間デザインで、事業・社会・環境を豊かに

加藤
ありがとうございます。最後にまとめということで、お二人から一言ずつ。

尾花
乃村工藝社グループの施工協力会社様は何千社もありまして、今すぐにフェアウッドに取り組むとか、意識を変えていくことは難しいかもしれませんが、そういった皆さまに少しでも意識を持っていただき、フェアウッドに取り組める環境を一歩ずつつくっていきたいと思っています。

大西
まさに、こういう会が大切だと思います。まだまだ足りない部分がたくさんありますが、フェアウッドを使うことが早く当たり前になるように、そして、世の中の流れをいち早く察して次のステップを考えていきたいと思っています。

加藤
乃村工藝社グループのフェアウッド・プロジェクトは、国産材を活かした空間デザインにより、事業性を向上させるだけではなく、その制作プロセスにおいて地域社会への経済循環や森林保全など社会・環境に多様なプラスの効果を生み出すプロジェクトです。

最後に、これからソーシャルグッドの視点で、取り組んでいきたい四つのことをお話します。
一つ目、木材利用自体を増やす意識を持つ。二つ目、ピンポイントで効果的に無垢材を導入する。三つ目、国産材ベニヤが使えることを検証し、なるべく国産材ベニヤに変えていく。四つ目、今まで金属やプラスチックを使っていたところを木に変えることができないか考え、チャレンジする。
ご清聴ありがとうございました。


乃村工藝社グループには、デザイナー・プランナー・プロダクトなど空間づくりに関わるさまざまなつくり手がいます。まずはそれぞれの立場から、一人ひとりがマテリアルとしてのフェアウッドや国産木材を意識する。それらを積極的に使うことが、豊かな環境・循環型社会につながることを知る。そしてさまざまなアイディアで、空間化することにチャレンジする。本セッションを通じて、ソーシャルグッドとは社員一人ひとりの意識改革から始まることを改めて共有できました。今後の「フェアウッド・プロジェクト」の活動にご期待ください。(ノムログ編集部)

文:岩崎唱/写真:安田佑衣(イベント時)

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