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- ノムログ編集部
地方創生は、乃村工藝社のソーシャルグッドの考え方においても重要な課題の一つとなっています。このセッションでは、さまざまな立場から地方創生に取り組んでこられた乃村工藝社のクライアントの皆さまをお招きし、その取り組みにおけるソーシャルグッドなアイディアをお聞きしました。
本稿は、乃村工藝社グループの「ソーシャルグッド」なプロジェクトをご紹介するイベント「ソーシャルグッドウィーク 2021」のレポート記事です。
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乃村工藝社グループが考えるソーシャルグッド(前編/後編)
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ソーシャルグッド・ブートキャンプ 「都市と地域の関わりをデザインする」
東急不動産株式会社 都市事業ユニット スマートシティ推進部/都市事業ユニット 都市事業本部 渋谷プロジェクト推進第一部
眞明大介さん
オフィスビル・商業施設のプロパティマネジメント会社を経て2016年に東急不動産に入社。商業施設のアセットマネジメント、東急ハンズの事業開発、東急プラザ銀座 NewsPicks GINZAの立ち上げ等に携わる。現在は都市事業ユニット管轄のオフィスビル・商業施設の新収益獲得やデータ活用、渋谷駅桜丘口地区再開発のスマートシティ推進業務を責任者として担当。
株式会社KADOKAWA ビジネスプロデュース局 アカウントビジネス部 アカウント2課課長 兼 マーケティング戦略室 兼 2021年室 地方創生推進プロジェクトマネージャー
小見広之さん
広告代理店勤務を経て2013年にKADOKAWA入社、Web・雑誌の広告セールスを担当。自社のメディア展開力を活かした企画、またIPコンテンツを活用したさまざまな企画を展開。自治体との協業イベントやPR・プロモーションなどの業務に従事し現在に至る。
株式会社三井住友銀行 法人戦略部
杉山ひろみさん
主に金融機関で不動産関連の業務に従事。SMBC信託銀行から三井住友銀行に出向して5年目。街づくりを通して様々な社会課題を解決したいと考え、昨年「SDGs 安心して住み続けられる街づくり・スマートシティPJ」を部内に立ち上げ、全国の街づくり案件の相談窓口として活躍中。
株式会社乃村工藝社 プランニング統括部 新領域創発部/ビジネスプロデュース本部 ソーシャルグッド戦略室
乃村隆介
商業施設の開発、地域活性化、ワークプレイスの空間デザインのコンセプト立案などに従事。本日の会場となったコミュニケーションスペースのディレクションも手掛ける。
地域課題解決のためのデザイン
乃村
本日は「都市と地域の関わりをデザインする」というテーマで話し合っていきたいと思います。「都市と地域をつなぐソーシャルグッド」という案もあったのですが、ソーシャルグッドというと捉え方が様々で難しいところがあるので、少しかみ砕いて「デザインにしました。よく「アートとデザインの違いは何ですか?」と聞かれることがありますが、私は「アートは問題提起で、デザインは課題解決」とお答えしています。そういう意味も含めて今回はデザインという言葉を使っています。
さっそく本題に入りますが、本日は次の3つのテーマに沿ってお話していきたいと思います。一つ目が「地域×情報発信」で、地域の魅力を伝える店舗のメディア化というアイデア、二つ目が「地域×コンテンツ」でローカルに人を惹きつける仕掛けづくりのアイデア、そして三つ目が「地域×金融」で人の助け合いと街づくりのアイデアについてお聞きしたいと思います。それでは最初のテーマ「地域×情報発信」について東急不動産の眞明さんからお話を伺いたいと思います。
店舗のメディア化に挑戦したNewStore by TOKYU HANDS
眞明
2020年7月1日に、東急プラザ銀座7階に、国内最大規模の経済ニュースプラットフォームのNewsPicksさんと「NewsPicks GINZA」をオープン頂きました。フロアは「学ぶ、創る、稼ぐ」をコンセプトとしたプロジェクト型スクール「NewSchool」、新しいモノの売り方とコミュニケーションを考える場の「NewStore by TOKYU HANDS」の他、「NewCafe」というカフェも併設しています。この中で東急ハンズは2つ目の「NewStore by TOKYU HANDS」(以下、NewStoreと表記)を実験型店舗として出店しました。
当初は別の企画を考えていたのですが、コロナ禍でリアルの集客が難しくなったので企画を大きく変更し、お客様に店舗に来て頂くのではなく、店舗が情報発信をすることでお客様との接点を持とうと考えました。そこで、YouTubeの東急ハンズ公式チャンネル内でNewStoreの情報番組「NewStore Studio」の配信を開始しました。2020年7月から毎月ライブ配信をしたところ、Panasonic FUTURE LIFE FACTORYさんから「一緒にコラボしませんか」とお声がけをいただき、10月から「DIG UP!TALK」というオンライントーク番組もスタートしました。
「DIG UP!」とは「発掘」という意味で、家電や住宅など異なる領域のデザイナーが集い、様々な業界の方とオープンに議論し未来を構想するという企画です。製品のプロトタイプはリアルの場であるNewStoreで実際に展示もしました。
私は前から、東急ハンズは都心一等地をはじめ全国に店舗があるので、そこでモノを売るだけでなく、メディアとして使うという考えをもっていました。さらに、東急ハンズのTwitterアカウントのフォロワーが現在18万人ほどいるので、これをもっと活用できないか、とも思っていました。
Panasonicさんとの取り組みでは、YouTubeのオウンドメディアとリアル店舗であるNewStore、告知ツールとしてのTwitterを組み合わせてご提供しました。この手法が、次にご紹介する愛媛県や熊本県あさぎり町のPRのお仕事につながり、NewStoreというリアル店舗をメディアとして活用していくきっかけとなりました。
愛媛県とコラボした「愛媛百科POPUP」は、2021年2月に開催し、東急ハンズ新宿店で愛媛の「すご味・すごモノ」商品を販売。NewStoreで愛媛の「ヒト・モノ・味」とお客様をつなぐオンラインのイベントを配信しました。
熊本県あさぎり町とのコラボでは、NewStoreで熊本県あさぎり町の商品を展示し、NewCafeでもコラボメニューを作成しました。こちらはオンライン配信をしていないのですが、NewStoreと現地をオンラインでむすび、NewStoreにいらっしゃったお客様と現地の生産者の方がリアルタイムで会話ができるような企画も用意しました。
今までの東急ハンズは商品を仕入れて売ることで利益を上げていましたが、NewStoreはリアルとオンラインを連携し、店舗をメディア化することで、PRをするなら雑誌に広告を出しますか?それとも東急ハンズにしますか?という選択をお客様に迫ることになっています。
乃村
眞明さん、ありがとうございます。この取り組みが新しいと思ったのは、スタジオ機能まで持ってオウンドメディアを上手に使いながらリアルの店舗と融合させているところです。
KADOKAWAの小見さんは、メディア媒体に関わることも多いと思うのですが、店舗のメディア化をどう思われましたか。
小見
我々の出版社ってコンテンツを作ることしかできないので、その先のモノを売り買いするリアルな接点まで一気通貫できるのは、とてもうらやましいと思いました。
IPコンテンツで集客・創客に成功した福山市立動物園
乃村
では、2番目の「地域×コンテンツ」というテーマでは、IPコンテンツ※を活用した地域活性化の事例をKADOKAWAの小見さんにお聞きしたいと思います。
※IPコンテンツ:IPとはIntellectual Property(知的財産権)のことで、IPコンテンツとは、知的財産(主に著作権)を使ったマンガやアニメなどのコンテンツのことを指す。
小見
地方自治体さんからの相談で多いのが、一つが「地域を活性化するために小冊子を作りたい」というもの。もう一つが「IPコンテンツを使って何かしたい」というものですが、後者の場合、その地域とIPコンテンツの親和性がとても重要なポイントになります。その地域が舞台となったコンテンツならわかりやすいのですが、そうでない場合は何か親和性をつくりだす必要があります。
今回ご紹介するのは、広島県福山市にある福山市立動物園と当社のIPコンテンツの一つである「けものフレンズ」のコラボレーション事例です。きっかけは、我々が受注した福山市の情報誌を制作するときに、動物園にサーバルという比較的珍しい動物がいることを知り、「けものフレンズ」のキャラクターにもサーバルがいるので動物園紹介ページで起用したことです。
ただ、それだけでは広がりがないので、動物園内にキャラクターを起用した動物の説明パネルを設置しました。
こうしたIPコンテンツを使う場合、そのIPコンテンツのファンが喜んでくれるような使い方をするのがとても大切になります。使う側が作品をちゃんと理解しているか、特別感などの「そこだけ」のものがあるか、初めての試みか、などがチェックポイントになります。幸い動物園なので作品との親和性に無理がなく、動物園とのコラボも中国地方では初めてでした。
その後、バラ祭という大きなイベントが福山市のいくつかの公園で開催されたので、そこでも「福山市立動物園×けものフレンズ」のパネルをたくさん展示しました。このパネルをバラ祭に来た方やけものフレンズのファンが写真に撮ってSNSに載せてくれたことで福山市立動物園への注目も集まりました。県外からわざわざパネルを撮りにくるファンもいたようです。オフィシャルなものを一度にたくさん見ることができるのはファンとしてはうれしいことで、そこに行かないと見られないということもポイントになったようです。
また、動物園の説明パネルには、飼育員が説明文を書いて、それをKADOKAWAの編集スタッフがキャラクターの口調に書き換えて載せました。あと、キャラクターごとに福山市のためのコメントを書いてくれたこともファンの間で反響がありました。
それに加えて動物園側もパネル展示ツアーなどファンに配慮した企画を実施してくれました。こうした連携によりコアなファンを県外から呼び込むこともできました。結果、ファンの方々が、イベント内容、動物園へのアクセス方法、動物園周辺の情報などをこまめにSNSに投稿してくれて予想外の広がりになりました。
このようにIPコンテンツは、使う側もファン目線で作品に愛情をもって起用すると大きな力になります。しかし一歩間違えて作品を粗末に扱うと炎上する危険もあります。ですから地域とIPコンテンツの親和性を考え、作品をよく理解し、ファンの目線で考えることが、成功の鍵になると思います。
乃村
福山市の市立動物園のような施設って、日本中にたくさんあるので、他の地域でも生かすことができる事例ですね。眞明さんも都市部でいろいろな商業施設を手掛けられていますが、そこでIPコンテンツを起用することはありますか?
眞明
販促的に使いませんか?というお声がけはよくいただきます。郊外型のショッピングモールなどでは、キャラクターで来客を促進して、そのついでにフードコートに寄ってもらったり、アパレルのお店で買い物をしてもらったりできると思います。しかし都心の施設は食事もお買い物も高価格帯になるので、なかなか「ついで」が成り立ちにくい。施設のキャパシティも広くないところが多いので、都心部よりも郊外型のショッピングモールに適しているかなと思います。
地域の人の思いが実現した四国水族館
乃村
ここで次のテーマ「地域×金融」に入りたいと思います。人との助け合い、街づくりということでここからは三井住友銀行の杉山さんにお話をうかがおうと思います。
杉山
最初になぜ金融機関が街づくりをやっているのか、どんなことをやっているのかをご説明させていただきます。SMBCグループではサステナビリティ宣言を出していまして、積極的に社会課題を解決しようと考え、金融機関としての高い公共性を認識して「街づくり/スマートシティ」に対するご支援をしていきたいと思っています。
今までは建物をつくるとき、プロジェクトが決まったときにご融資のご相談を受けるというのが金融機関における街づくりとの接点でした。これからは、お客様がプロジェクトを考えるところからお手伝いしていきたいと考えています。いま社会は非常に複雑化していますし、ファイナンスも多様化していますので、私たち金融機関が早い時点から関わることで、プロジェクトを実現できる可能性が高まると思います。
また、街づくりが終わった後も、そこに住む人、働く人に対して、SMBCグループとして様々なサービスをご提供し続け、サステナブルな街づくりにコミットしていくことが私たち金融機関の役割だと感じています。
SMBCグループのお取り引き先は、企業だけではなく、自治体、学校、病院、NPO法人などさまざまなので、その皆さまに私たちをプラットフォームとして上手く使っていただき、それぞれの地域での社会課題を解決していただければと思います。
街づくり/スマートシティで大事なのは、そこに住む人たちが安心して、この街が好きだ!この街にずっと住み続けたい!と思う街をつくることです。「SDGs 安心して住み続けられる街づくり・スマートシティPJ」を立ち上げて以来、全国からいろいろなご相談が来ていますが、それぞれが地方創生につながる案件になっています。
SMBC信託銀行が中心となった香川県宇多津町の「四国水族館」プロジェクトをご紹介します。きっかけは、宇多津町を活性化させるために水族館を作りたいという地元からの強い思いでした。その思いを受けて、構想段階から私たちが関わらせていただき、まず都市再生特別措置法の規定に基づく申請をし、民間都市再生整備事業計画として認定されました。そしてSMBC信託銀行がアセットマネジャーとなり出資を募りました。また、地元の方や、それ以外の地方創生の重要性をご理解いただいている方から匿名組合出資の形で資金を集めています。今は単に利回りだけを追求しない投資家の方もいらっしゃいますし、寄付をしたいけどどこに寄付をしたらいいかわからないという富裕層の方もいらっしゃると聞いています。これからは、そういった方々からのお金を地方創生に活かすために動くことも重要だと思っています。
地域の人の思いに寄り添うのがソーシャルグッド
乃村
ありがとうございます。地域にこういう場所ができると、そこが拠点となって、そこに来た人が他のところへも行くというエリアマネジメントにもつながります。また、地域の思いが一つになってコンセプトに賛同しお金が集まる、そういう時代になってきているのを感じます。
私も地域のお仕事にかかわらせていただいていますが、地域によって熱量の高い地域とそうでない地域があるように感じます。小見さんは、どんなことに気を配っていますか。
小見
私たちがご相談をいただく場合は、その地域で何かしたい!と強く思われている方々なので、お互いの波長が合えば仕事は進むのですが、例えば、その人の後ろにいる人の熱量があまり高くない場合は、目の前にいる人にどれだけ武器を渡して、私たちがどれくらい援護射撃をしてさしあげられるかということですね。
乃村
眞明さんの会社でもスタートアップを支援されていると思いますが、投資する立場として何かご意見はありますか。
眞明
質問の答えと少しずれるかもしれませんが、地域の人に何かをしてあげようという目線があるとだめなのかなと思っています。イベントのテーマであるソーシャルグッドという言葉を考えてきたのですが、“ソーシャル”の捉え方は人によって違いますし、“グッド”も価値観という意味では人によって捉え方はさまざまです。なので、こちらが「何かをしてあげる」というよりは「地域の皆さんにとってハッピーなことを一緒になってやっていく」ということが大事かと思っています。
乃村
今日は、「地域との関わりをデザインする」というお話をしてきたのですが、最後に地域と持続的に関わるために必要なことって何だと思いますか。私は、地域を良くしてあげるという思いよりも、地域のさまざまな人たちといろいろな関わり方をしていくことがソーシャルグッドなのかなとも思いました。その人とのつながりを持続的にするにはどうしたらいいかをお聞かせいただけますか。
小見
KADOKAWAは基本的に作品やIPコンテンツを持っているメディアなので、地域に捕らわれず日本全国のいろいろな人に見ていただきたいと思っています。しかし地域との関係について個人的に思うのは、その地域に行ったときに、その土地の良さに気づくということを意識していると、見えていなかったものが見えてくると思います。「地域の人たちはこういうふうに見えているけど、我々からはこう見えています」ということを伝えていくことが大事かなと思っています。
杉山
私も「してあげる」ということではないと思います。地域の人の思いにしっかり寄り添うことが大事。また病気のときの話になるのですが、お世話になったボランティアの方に「ありがとう」と言うと、向こうから「あなたが元気になったことで、私も勇気をもらいました」と言われました。ボランティアってそれまで「してあげる」ことだと思っていたので驚きました。「してあげる」ではなく「やりたいからやっている」、この視点って個人でも企業でも同じだと思います。地域のためにしてあげるなんておこがましいことを考えるとうまくいかないのだろうな、と眞明さんの言葉にはっとしました。
眞明
地域と持続的に関わっていくには、興味を持って、相手の目線で物事を考えることが大切だと思います。それと、ソーシャルグッドというと、どうしてもボランティア的な目線になりがちで、何か良いことをするというイメージが強くなりますが、企業がソーシャルグッドを継続的に実行していくには、経済的なことがついてこないと続きません。企業としての事業収益と社会貢献のいいバランスを考えていくことが大事だと思います。
乃村
たくさんの有益なご意見ありがとうございました。短い時間だったのですが、このメンバーでお話ができたことをとても幸せなことと思いながら、改めて皆さんに感謝いたします。ありがとうございました。
地域の魅力を伝える情報発信、ヒトを惹きつけるコンテンツによる仕掛け、金融による街づくり支援、など各業界ならではの取り組みに、空間づくりという知見もまた地方創生に寄与できる可能性は多分にあると感じるプログラムでした。事業者として、その地域と持続的に関わっていくことの重要性やその意識の持ち方についても改めて共有され、会場からは大きな頷きや拍手があがりました。乃村工藝社では進行役の乃村が企画した緑茶・農業・観光の体験型フードパーク「KADODE OOIGAWA」など、空間づくりを軸とした地域課題解決をお手伝いしています。「KADODE OOIGAWA」についてはこちらの記事をご参照ください。(ノムログ編集部)
文:岩崎唱/写真:安田佑衣(イベント時)
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“空間と体験”を追求するチーム
プロの目線で“空間と体験”の可能性を切り取ります