- text and edit by
- 勢古口 遥
千葉県北西部を供給エリアとした都市ガス事業を主に展開する京葉瓦斯株式会社が、2021年8月にショールームをコミュニティスペースとしてリニューアル開業した「KeiyoGAS Community Terrace(愛称 てらす)」。「こどもと、おとなと、まちを照らす。」をコンセプトに、地域の人々の暮らしや活動をより豊かにすることを目指した施設へと生まれ変わりました。
乃村工藝社は、このリニューアルの企画・設計に加えて、開業後もアドバイザーとして運営をサポートしています。前回の記事では、「てらす」という施設について、京葉ガスてらすチームリーダー 鈴木さん、「てらす」の運営を担う非営利型株式会社Polaris代表取締役 大槻さん、乃村工藝社のメンバー3名が、プロジェクトを振り返る座談会の様子をお届けしました。
本記事では、実際にオープンを迎えたあとの「てらす」が、地域とどのように関わり、場づくりを行っているかについてお伝えします。
「てらす」らしい施設のあり方、コミュニティを目指す
「てらす」では、市川市周辺の地域住民の方々と関わりながら施設を成長させてゆく仕掛けとして、①いちカイギ ②子どものいる暮らしの中ではたらくを考える座談会という2つの定期イベントのサポートを行っています。
① いちカイギ
主催:特定非営利活動法人フリースタイル市川
概要:市川市で地域活動を行っている方々をゲストに、地域や人の『つながり』をつくり、まちに新しい『流れ』を生み出すイベント。人と人をつないでまちづくりを行うフリースタイル市川の活動理念と、「てらす」が目指す地域貢献への想いが一致したことから、「てらす」を会場として提供。
プログラム:ゲストのリレートークと参加者も含めたトークセッション
② 子どものいる暮らしの中ではたらくを考える座談会
主催:非営利型株式会社Polaris
概要:「はたらく」と「暮らす」、「子育て」をセットで捉えて「心地よく暮らし、はたらく」ためにみんなで考える座談会。市川で暮らす子育て世代の想いを聞きながら、地域のこどもとおとなに貢献する方法を探していく。
プログラム:テーマに沿って自由に話し合うワークショップ
以下では、それぞれのイベントの様子をレポートします。
定期イベント①‐人と出会ってまちを好きになる『いちカイギ』
2021年8月27日、てらす初開催となった「いちカイギ」では、ゲストスピーカーとして、京葉ガスてらすチームリーダー 鈴木さん、てらす1階 「きらきらアトリエ」の運営も担ういちかわ手づくり市実行委員会の宮川さん、地域のインフルエンサー 本八幡botさんが登壇しました。
会場は、てらす2階の「ぺちゃくちゃリビング」をメインに、サテライト会場と中継でつなぐ形式。感染症対策に配慮した、オンライン配信での開催です。
てらす会場の様子
はじめに「いちカイギ」のメイン会場が「てらす」となり、今後はフリースタイル市川と「てらす」の共催で「いちカイギ」を開催していくことが発表されました。
続いて、ゲストの方々のリレートーク。
一人目は、Twitterをメインに本八幡に関する情報を発信している、地域のインフルエンサー 本八幡botさんです。もともとは、インターネット上での活動が基本でしたが、コロナ禍に見舞われた2020年からはリアルな場での活動も開始。本八幡・市川市というまちに対する深い愛情と溢れる行動力で、クラウドファンディングを使った飲食店支援の仕組みを実現されました。
「本八幡って本当に素敵なまちなんです!」と熱い想いを語る本八幡botさん(画像左)
二人目は、京葉ガス 鈴木さん。「てらす」のプロジェクトリーダーを務める鈴木さんからは、施設立ち上げの経緯や、職場を通じて地域と関わっていく想いについてのお話がありました。
「自分は市川市民ではありませんが、“勤務地”という生活の多くを占める市川の場所で、地域の方々と関わりが生まれていることが嬉しいですね。私たちからも地域の皆さんへ“こういうことをしませんか?”と声をかけるし、地域の皆さんからも“こういうことをしたい!”と声をかけてもらえる関係になりたいです。」と、今後もてらすで働くなかで、地域の方々と積極的に交流していく想いを聞くことができました。
「地域の皆さんとの対話を通じて育んでゆけるような施設になったらいいな。」と鈴木さん(画像右)
京葉ガス 鈴木さんの地域との共育を目指す「てらす」への想いは、こちらの記事で詳しくご紹介していますので、是非ご覧ください。
脱ショールーム!地域とともに成長する企業施設「KeiyoGAS Community Terrace(愛称 てらす)」
三人目は、いちかわ手づくり市実行委員会 宮川さん。いちかわ手づくり市実行委員会は、市川市を拠点にハンドメイドマルシェやワークショップを行っている団体です。「てらす」の立ち上げ段階から、施設プログラムや求められる機能について議論を重ね、「てらす」オープン後は、1階の「きらきらアトリエ」の運営をご担当されています。
宮川さんからは、「手づくりの楽しさを伝えて、市川のまちを元気にしたい」という地域活動への想いと「てらす」での今後の活動についてのお話がありました。また、「てらす」の空間の気持ちよさにも触れ、実際に「てらす」へ見学に来た手づくり作家さんたちからは、「広々とした空間で安心した」「子ども向けのワークショップをやってみたい!」「キッチンで料理教室をしたい!」など、様々なイメージが膨らんでワクワクしているというお話も聞くことができました。
きらきらアトリエの展示販売スペースを紹介する宮川さん
3名のゲストの方々は、行っている活動や立場は異なりますが、共通して市川というまちに魅了され、心から愛着を持っている様子が窺えました。また、市川に「てらす」という施設ができたことにより、自分の生活やまちにどのような変化が起こるのか、みなさんが楽しみにしています。
定期イベント②‐「子どものいる暮らしのなかではたらくを考える座談会」
2021年9月28日に第一回が開催され、参加者は4名、未就学児から高校生まで幅広い年齢のお子さんを持つ方々が来場しました。また、「てらす」で働くサポータースタッフのあきさん、まこさんも、子育てをしながら市川で働く当事者として参加しました。
座談会の様子
座談会では、付箋と模造紙を使いながら、3つのテーマに沿って全員で話し合いを行います。
一つ目のテーマは、『今の日本社会で“子どもを育てながらはたらく”ことは、どんな問題がありますか?』。一分間のシンキングタイムを経て、ポストイットに書き出した意見を一人ずつ発表していきます。
自分と似ている意見が出たときには、一緒にポストイットを貼り出します
ここでは、核家族化による子育ての孤立や、職場の制度や雰囲気、父親の育児参画に関する意見があがりました。このような社会問題に対して、「てらす」の在り方はどう求められるでしょうか。様々なエピソードも交えながら、話し合いを深めていきます。
二つ目のテーマは『実際に自分が“子どもがいる暮らしの中ではたらく”上で、問題やネックになること、不安に思うこと』。
こちらの質問では、夫婦での家事の分担や、働きながらの子どもの送り迎え、子どもの体調が悪くなった時に他に見てくれる人がいない、などの意見が上がりました。参加者の皆さんが悩みを共有し、共感しあう中で、「身近に話せる大人がいることの安心感」といったキーワードも出てきました。
ひとつの意見が出るたびに「わかる!」の声が上がります
三つ目のテーマは、『今までの課題をもとに、「てらす」で「なにをすれば」「なにがあれば」“子どもがいる暮らしの中でここちよくはたらくこと”ができるようになると思いますか?そのために自分ができることは何ですか?』。
サポータースタッフのあきさんからは「自分がてらすに来る人にとってなんでも話せる存在になりたい」、まこさんからは「てらすに来てくれた人をつなぐ役割ができたらいいな」と、「てらす」で働くことへの想いを聞くことができました。
また、「親も子どもも気晴らしができるプログラムやイベントがもっとあるといいな」という意見も見られました。
和やかな雰囲気で進んでゆきます
最後は一人ずつ「宣言シート」を記入。宣言シートには、これまでの話し合いの中で気になったキーワードと、「未来への約束」として「自分がこれから何をするか?」を書き、みんなで共有しました。
作成した模造紙と宣言シートは「てらす」の中に貼り出しています
今回の座談会で見えてきたことは、子育て世代にとって、気軽な雑談や、子育てのちょっとした相談をできる相手がいることの大切さでした。スタッフさんやほかの利用者さんと話しやすい雰囲気をつくっていくことが、「てらす」にとって重要な要素となりそうです。
2つのイベントを通じて
これらのイベントから共通して見える、企業と地域の関係性におけるポイントは以下の2つです。
1.企業と生活者のフラットな関係づくり
地域と関わる企業ブランディングにおいて、企業と生活者は「サービスを提供する/される」という関係性ではなく、「一緒に地域を盛り上げていく」フラットな関係性をつくっていくことが大切です。なぜなら、それによって企業と生活者の対話が深まり、企業のビジョンに対する深い共感が得られるだけでなく、お互いの地域活動に対する想いを高めていくことにもつながるからです。企業のイベントに地域住民が参加することは一般的ですが、今回の「いちカイギ」のように、地域住民のイベントに企業人が参加するような、お互いの垣根を超えた関係づくりが、地域と企業との相乗効果を生み出してゆきます。
2.身近なテーマに触れる機会の継続
上記のようなフラットな関係性は一朝一夕に得られるものではなく、地道な活動を積み重ねることで形づくられてゆくものです。「子どものいる暮らしのなかではたらくを考える座談会」のような、人々の暮らしに焦点を当てた活動を継続的にサポートしていくことが、企業と生活者との信頼関係につながってゆきます。また、企業側は、それらの活動の規模にかかわらず、定性的な価値をしっかりととらえて継続していく仕組みづくりが重要です。
8月の開業以降、「てらす」は少しずつ地域の方々との関係を広げています。
「てらす」が目指すのは、地域の子どもから大人まで、一人ひとりの声や夢を照らして、地域に彩りと潤いを創りだすことです。乃村工藝社は開業後も、運営メンバーと一緒に地域や運営スタッフの「やりたい!」を引き出し、コンテンツ化、定番化してゆくためのサポートを行っています。これからも、地域のみなさんの日常を豊かにする活動や仲間との出会いをお手伝いしてゆきます。
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