“空間ごと、推す” 娯楽とリアル空間の関係性

森田 絵理
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森田 絵理

生きていくうえで必要なもの=衣食住 

しかし、人間が“人間らしく”生きていくためには必要なものとは?

娯楽とリアル空間の関係性について、

いち“人間”として、プランナーとして、考察します。

 

人間らしく、生きるために

 私は、“生命体として”生きる ためでなく、“人間らしく”生きていくために、“娯楽”は必ず必要であると信じています。当社の経営理念で述べている「人間尊重」も、ここに通ずる部分がありますね。(多様な価値観に対応、自己実現、など。)

 

<乃村工藝社 経営理念>

われわれは、人間尊重に立脚し

新しい価値の創造によって

豊かな人間環境づくりに貢献する

 

 <ノムラのいう人間尊重とは>

ノムラは、生活者である人間の多様な価値観に対応し、快い生活環境を創造する。

また、ノムラは社員の人間性を基盤にして、働きがいのある自己実現の場をつくりあげる。

 

アイドルファンであり、テーマパークのファンであり、プロ野球チームのファンである私は、周りからよくミーハーだと言われます。今回のテーマについて深く考えるにあたり、娯楽を楽しむ“もう一人の自分”が日々の生活の中で大きな心の支えになっていることを感じました。

 

肉体を保つために必要なのは、仕事をしてお金を稼ぎ、生活を営み、充実させること。

精神を保つために必要なのは、心から自分らしくいられること。

 

“オフ”の時間で、アイドルのライブを見たり、テーマパークの動画を観たり、野球の中継動画を観たりすることが、“オン”の時間で仕事や生活を頑張っている自分へのエネルギーになっています。

コロナ禍で経験した、日常空間に入り込む娯楽体験

しかしコロナ禍において、初めて娯楽をオンラインでのみ楽しむ生活を経験しました。

ライブのたびに当選・落選にソワソワしていたアイドルのライブは、自宅で配信を全公演購入できるようになり。テーマパークへ行くのは自粛し、過去のショーの動画を観るようになり。プロ野球の試合は、テレビ中継をしている時だけ、観るようになりました。

 

はじめは、新鮮で楽しかったんです。

今も、オンラインならではの良さって、それはそれで良いものがあるなぁって、思います。

 

アイドルの配信は、会場で観る半額くらいの金額で“推し”の顔を大きく観ることができ、テーマパークのショーの動画は、抽選に当たらなくても何回でも録画の映像を観ることができ、プロ野球の試合は、SNSで色々な人の実況コメントを見ながら観るのも楽しい。

でも、何かが足りない。

そんな気持ちを抱えながら、コロナ禍で楽しむエンタメにどうにか馴染もうとしていました。

娯楽で求めているのは、コンテンツそのものだけか?

新型コロナウイルスが2020年に蔓延しはじめてから丸2年半がたったいま、エンタメも段々とリアル空間での実施を取り戻しつつあります。

アイドルのライブは、有観客と配信のハイブリッドに。テーマパークのショーも、日に日に動員人数やパフォーマーの数が増えています。プロ野球の試合も、連日満席に近い動員人数まで回復してきました。

しかし、有観客のライブは、モニターに映る映像は観られるものの、席によってはアイドルも豆粒のよう。テーマパークのショーは、抽選に外れたら観ることすら叶いません。プロ野球の試合も、「ストライク?」「アウト?セーフ?」審判へのリクエストが無い限り、手元足元がアップにならないからわかりません。

 

あれ?オンラインの方が、もしかしてコスパいい?楽しい?

段々と再開されたリアル空間でのイベントに参加しながら、漠然とそんなことを思っていました。

 

非日常空間と五感、そして共感覚

しかし、何度かリアル空間でエンタメに触れていくうちに、こんな感覚を覚えました。

 

目に入る画、耳に入る音だけじゃなく…

コンテンツが存在する空間ごと、

推していたのかもしれない”

 

有観客のアイドルのライブでは、照明のまぶしさ、音響の音圧、特殊効果の火薬の匂い、肩に腕に舞い落ちる紙吹雪、力いっぱいの手拍子で痛くなる手のひら。

テーマパークのショーでは、抽選に当選した喜びを爆発させ仲間と抱き合う肌の感触や、嬉々として合わせる目、その日その場でしかないダンスや演出、そして何より隣り合う観客の息をのむ音や、感動の涙をぬぐう様子。

プロ野球の試合では、強い日差しや、その日その時の風の向き、強さ、におい、そして映像に映りきらないすべての選手の動き、スタジアムグルメのソースくさい懐かしいにおい、観客の応援の一体感。

 

私がエンタメに求めていたものの大半は、リアル空間にあったことに気が付きました。

 

床・壁・天井のデザインの美しさはもちろんのこと、同じ空間で、同じ五感の体験(=共感覚)を共有していることが嬉しかったのです。

「高臨場感映像の心理・脳活動・行動計測に基づく定量的解析・評価/安藤広志」より図を抜粋、再編集

 

「日常空間」の中で、視覚・聴覚で「情報を受け取る」のではなく、

「非日常の空間」に身を置き、周りの観客や「推し」との一体感のある空間の中に自分を没入させることで、「心から自分らしく」いられる時間を手にしていることに気が付きました。

 

日常と非日常のエンタメ空間

当社にはエンタメ空間およびリアル空間のプロフェッショナルが多数いますが、今回の記事はいちエンタメの視聴者…もといミーハーな「ファン目線」で執筆いたしました。

私が主にプランニング業務で従事する商業施設は、毎日の「日常空間」を支える買い物の場でもあり、週末にわざわざレジャー感覚で出かける「非日常空間」でもあり、時には様々なエンタメを提供する空間でもあります。

「お客様に歓びと感動を提供する」という当社の提供価値は、自宅室内などの日常空間とはまた違った、「非日常空間」を創り上げ、その中に没入するエンドユーザーの方々が“自分らしくいられる「歓びと感動」”を提供することであると、私は感じています。

 

“空間ごと、推す“

 

それは、“人間らしく、生きる”ための場所を、自ら見つけることなのかもしれません。

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森田 絵理

森田 絵理

”追っかけ”プランナー
何気ない日常に、非日常を

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