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- ノムログ編集部
「音」による空間体験拡張装置「oto rea(オトリア)」は、Mixed Realityを通じて未来のインフラづくりを目指すスタートアップの株式会社GATARIと、乃村工藝社のNOMLABが、コロナ禍を機に共同開発をスタートさせました。このノムログでも、2020年、2021年と、チームのメンバーによる取り組みを定期的にご紹介してきましたが、2022年12月、ついに東京・丸の内エリアにある三菱一号館美術館の展覧会「ヴァロットンー白と黒」で実証実験が行われます。
美術館や博物館で楽しめる音のコンテンツといえば、音声ガイド。作品や作家についての解説が聴けて、展覧会を“より深く知る・理解する”ために役立つアイテムですが、果たして「oto rea」を活用してどんなサービスが生まれたのでしょうか。
今回は、本プロジェクトを手掛けた乃村工藝社の船津俊、同NOMLAB(ノムラボ)のプランナー村上萌が、株式会社GATARI(以下、GATARI)代表の竹下俊一さん、株式会社ハレガケ(以下、ハレガケ)の曽根智宏さんをお招きして対談しました。
写真左から
プロジェクト推進を担当した乃村工藝社 船津俊
サービス開発を担当した株式会社GATARI(以下、GATARI)より、代表 竹下俊一さん
シナリオ・ビジュアル制作を担当した株式会社ハレガケ(以下、ハレガケ)より、曽根智宏さん
コンテンツディレクションを担当した乃村工藝社 プランナー 村上萌
「oto rea」初の実装は、美術館の展覧会に
竹下
今年からプロモーターのReGACY Innovation Group株式会社さんのお声がけで、弊社と三菱地所様とで3か年計画のプロジェクトをスタートしました。三菱一号館美術館にて、弊社が開発した現実を物語にする未来の音声ガイドである「Auris(オーリス)」の活用が決定したタイミングで、Aurisを活用した展示の演出に特化した回遊型の音響体験サービス「oto rea(オトリア)」の共同開発をご一緒した乃村工藝社さんへご相談しました。
村上
お話を頂いて、2022年の夏頃から準備を進めてきました。これまで「oto rea」はGATARIさんと一緒に2年にわたって開発を進めてきましたが、初の実証実験の場となりますね。
美術館側の思いとしては、展覧会を訪れる新しいお客様、特に若年層のお客様を増やしていきたい、というところがあったので、若い層の人たちが楽しめるストーリーが必要だと考えました。具体的な内容を検討していくうち、お客様が物語の中に入ったような体験ができることと、進むうちに絵をヒントにしながら物語が展開していく“謎解き”のようなエンターテインメントの要素をもつコンテンツがつくれたら面白いのでは、と考え、以前からNOMLABと接点があり、数多くの謎解きイベントを開催してきたハレガケさんへご相談しました。
ハレガケさんは、多くのファンを持つ謎解きイベントを企画制作・運営まで行っていらっしゃいます。今回は、謎解きとは少し異なる内容、かつ、シナリオのみに特化した依頼でしたが。
曽根
謎解きに限らず、面白い体験をつくる取り組みをやってみたい、と考えていましたので、ぜひ、と。謎解きイベントですと、参加者はメモをとったりあちこち考えながら歩き回ったりしますが、今回は美術館の展示室で音声を聴くのみ。具体的にどんな動きやストーリーができそうか、このオフィスにお邪魔して「oto rea」を体験し、シナリオを検討していきましたね。
ストーリーは展示室で作品を観ながら展開していきますが、作家や作品の解説をじっくり聴くような、従来の音声ガイドとは異なるコンテンツです。
船津
一般的な解説とは異なるアプローチから、展示室の空間に配置した音を聴き、能動的に作品を観ていただくような仕掛けを作っています。もちろん展示や作品の内容に寄り添っていますが、普段はあまり美術館に行かない方や、展覧会や作家の知識がない状態でも、十分に楽しんでいただける内容です。
と同時に、アートに詳しい方や絵画を観るのがお好きな方には、作家解説でも作品解説でもない、全く新しい鑑賞体験になるかもしれませんね。
作品の解説ではない、でも展覧会と作品がもつ世界をたっぷり楽しめる。とても気になりますし、ぜひ体験してみたいです。
村上
私が意識する空間づくりにおけるキーワードの一つは、”誰かと一緒に体験して盛り上がるか”だと考えています。一緒に何かを選んだり、対戦したり、コミュニケーションのフックになるものがいかに空間にあるか、も大事。今回は、ストーリーにリアリティがあって若年層のお客様に共感してもらえそうですし、選択肢によって結末が変わる点や、この「oto rea」というツールそのものも面白い体験になると思うので、ぜひ多くの方に楽しんでほしいですね。
3社ともに初めての試み・手探りのチャレンジ
これまでにない全く新しい音声コンテンツが体験ができる「oto rea」。その内容はどのように完成させていったのでしょうか。
村上
「oto rea」として初めての実証実験なので、携わるメンバー全員も初めてチャレンジすることばかり。シナリオを完成させていくプロセスも手探りでした。私が担当したのは体験設計です。これまでの乃村のプロジェクトでも、来場者がどんな気持ちで回遊するのか?どんな動線パターンがあるかなど考えてきました。その知見を活かし、今回も来場者目線に立って音の効果的な配置を設計しました。
まずはハレガケさんのライターの方に全体のシナリオを最初から最後まで書き上げてもらい、次に展示室を実際に歩いて細かな音の配置を検討し、現場に合わせて調整を続けました。
船津
ストーリーを作り慣れてらっしゃるハレガケさんから、 “選択肢を提示してお客様が選ぶ”という、能動的な体験のアイデアと、それをシナリオに落とし込んでもらえたのは大きかったですね。ここをお任せできたおかげで、我々は、ストーリー全体をどんな方向性やトーンで作るのか、また「oto rea」の特性に合わせて空間にどう音を再構築し演出していくか、といった体験設計に、細部まで注力できました。
村上
シナリオの制作段階では、まだ展示室内に作品が展示される前だったので、我々や曽根さんとライターの方、竹下さんに加え、三菱一号館美術館の方にも同行いただき、どんな作品がどこにどう展示される予定か、という展示計画の図面と、出力したシナリオの紙の束を見比べつつ、どの作品の前や場所にどんなセリフや音を配置するといいか、を具体的に考えていきました。
なので、実はライターの方には、SEもイメージしながらシナリオを書いていただきたい、とお願いしたんです。いくつかの作品をピックアップしてストーリーにからめていただいていたので、その作品にまつわる音があるといいな、と思ってご相談しました。
曽根
そのリクエストは正直とまどいました(笑)。でもライターの方は、例えば作品の中で、雨の風景が描かれていたら雨の音を入れる、とか、馬が暴れている様子だったら鳴き声を入れる、というように、作品の中でこういう出来事が起こっているからこんな音が聴こえるはず、といったイメージを膨らませてくれました。
実際に展示室を巡った後は、歴史や同時代性をふまえつつ、より具体的に、ここにはこんなBGMがよさそう、この通路の距離ではセリフの調整が必要そう、などのアイデアを出してくれて、丁寧にディスカッションしながら仕上げていきましたね。
美術館現地で音を配置する様子
セリフだけではなく、物語のイメージが豊かに広がる音も豊富に盛り込まれた、「oto rea」のためのシナリオができていったのですね。そのシナリオの完成が見えてくると、実際の空間に配置していくGATARIさんとの調整作業ですね。
竹下
はい。我々は普段、すでに存在する空間をもっと良くしていくために、リズムやサウンドの一貫性を保ちながら場面ごとに空間を区切り、演出や解説などの内容を考えていくプロセスですが、今回のようにストーリーから考えるのも良いアプローチ方法だと感じました。また、ストーリーや音の演出が、ここまで丁寧に作り込まれているシナリオをもとに制作していくことも、新しい取り組みでした。
村上
ハレガケさんによって成り立った物語を、全く新しい音声の体験として、展示室という空間で本当に実現できるのか。体験に合わせた音の設計作業は考えなければならないことも多いですが、想像しながら音を配置するのは面白いし、GATARIさんと一歩ずつ進めていっています。
竹下
展覧会の会期が10月29日(土)からスタートしましたが、その完成した展示室に実装するために、まずは空間全体のスキャンデータの微調整を行い、シナリオに沿って空間に音を設置していきます。数センチ単位で細かく調整しながらの作業です。
広い空間でも、そこまで繊細な設定が可能なのはすごい技術ですね!ただ、閉館時間後や休館日など、限られた時間で設置や微調整をしていくのは、簡単ではなさそうです。
竹下
そうですね、お客様が多い状況で安定的に楽しんでいただけるかどうかや、空間を精緻に認識するための要素に差があるなど、さまざまな条件にどこまで対応可能なのか、今回の実証実験でしっかり検証し、アップデートしていきたいですね。
船津
今回は物語が進んでいく一方で、混雑が予想される展示室に音をなるべく配置しないなど、人の流れをどうスムーズにコントロールするか、といった視点でも仕掛けをしています。そのためにあらかじめ図面上で音の配置位置を考え、それを踏まえて音声の長さを調整し、体験設計を詰めていきました。
空間における人流のコントロールは、さまざまな施設で慢性的にあがる課題の一つです。その場で人が都度呼びかけるのではなく、「oto rea」でスマートに解決する施策となっています。
ストーリーやゲーム的な要素を楽しんでいただけるエンターテイメント性と、自然と人を誘導するような機能性も持ち合わせている「oto rea」だからこそ、快適に過ごせる空間づくりと新しい体験の両立が実現するんですね。
「oto rea」があるこれからの未来に、実現したいこと
2020年から開発がスタートして、最初の実証実験が始まったばかりの「oto rea」。
最後に、今回のチャレンジを振り返ってみての実感、そしてこれからやってみたいことをお聞かせください。
曽根
普段、謎解きをつくるときは、情報を集めて考え、何かのアクションをトリガーに、答えを導き出す、というアプローチです。でも今回は音だけで、例えば、座ると聴こえる、というしくみをトリガーに選択式のアクションを考えるなど、新しい質のものづくりを経験できました。また、ゲームではない体験を作っている、という点も大きくて、「oto rea」を使って、本当にいろいろなストーリーが作れそうだと思いました。
現在は、空間に置かれた音に接触すると同じ反応があるものですが、なにかに接触した後だと違う反応があるフラグ管理のような仕組みができたら、もっとゲーム的な楽しみ方ができますし、順路を気にせず自由に歩きまわってもストーリーが成り立つ、みたいなこともできそうですね。
竹下
実は、まさに今後の開発ロードマップで、フラグ管理を準備しているんです。ある音を聴いているとその先で聴ける音が変わる、とか、辿った経路によって聴こえる内容が変わる、一緒に行っている人同士でも聴こえる内容に差が出る、といった、よりゲーム的な体験ができるものを考えています。
”音を置く”という表現が何度か出てきましたが、「oto rea」は、目に見えない音を使った全く新しい体験です。今はまだ、一言でこれ!と表現しづらいのですが、今回の取り組みをきっかけに”「oto rea」の体験ってこういうもので、面白い!”と認識され、ゆくゆくは”この体験はここに行けばできる”というイメージと共に「oto rea」という名前が広まって、”ブランド”として確立され、「oto rea」を体験しに行こう!と思ってくれるファンが増えたら嬉しいですよね。
他にないからこそ、そうなれるチャンスですし、実現させたいですね。 船津さんや村上さんはいかがでしょうか。
船津
乃村工藝社は、本当に幅広い空間づくりに携わらせていただいていますが、「oto rea」は空間に音を置くことで、空間の新たな価値の創造と、訪れた人へのさらなる体験を生むコンテンツだと考えています。既存の空間に音を置くことで新たな体験を提供することもできますし、新しい施設が完成した後、空間を利用するお客様をいかに継続的に誘致するか、という施策面でも、さまざまなご提案ができそうです。他にはない新たな価値をもつ体験は、魅力的な課金コンテンツにもなり得ますし、いま想像できること以外にも幅広く活用方法があるはずです。
村上
建物や空間を作って終わり、ではなく継続的に楽しめる仕掛けがあることは、施主様にとっても大きな安心材料になると思います。今回の取り組みを通して、具体的な実装のプロセスや、空間や体験設計の事例ができたので、今後さらに「oto rea」の体験価値をリッチなものに向上させ、新たな提案をしていきたいですね。
また一歩、新たなフェーズに進化していくであろう「oto rea」のお話を伺えて、これからの展開がますます楽しみになりました。美術館での体験予約もさっそくしないと、ですね。 本日はありがとうございました!
一同
ありがとうございました!
対談ファシリテーション・文:naomi
対談写真:安田 佑衣
企画:深沢 后礼 編集:中村 瞳、市川 愛
開催概要
参加型ボイスストーリーat 三菱一号館美術館<ヴァロットン展>
“黒白の世界で謎の人物の素性を追え”powered by oto rea 」開催概要
<ストーリー> 体験時間:約1時間
気付いたら美術館の中にいた「青年」。自分が誰なのか、なぜここにいるのか記憶がない。すると遠くからコツ…コツ…、と「謎の男」が近づき、なぜか記憶を取り戻す手助けをしてくれる。そのヒントを元に絵画を見ながら美術館を進み、「青年」の記憶を一緒に取り戻す体験型ストーリー。最後のあなたの選択が、「青年」の運命を左右する。
予約URL :https://mimt.jp/event/11957/ Peatixにて予約受付中
*各枠6名、定員に達し次第予約受付終了
開催期間 :2022年12月9日(金)~12月23日(金)
9日(金)、14日(水)、16日(金)、23日(金)は21時閉館となります。
その他の日程については、18時閉館です。
※12月12日(月)、19日(月)は休館日です。
開始時間 :
■18時閉館(9日、14日、16日、23日を除く開館日)の場合
10:00~16:55のうち、20分間隔でスタート
※最終回のみ16:55開始となります。
■21時閉館(9日、14日、16日、23日)の場合
10:00~19:55のうち、20分間隔でスタート
※最終回のみ19:55開始となります。
参加費 :無料 ※事前予約必須(但し、当日有効の展覧会鑑賞券またはMSSサポーターカードが必要)
会場 :三菱一号館美術館
サービス開発: 株式会社GATARI
体験設計: 株式会社乃村工藝社
シナリオ・ビジュアル制作: 株式会社ハレガケ
コンテンツ制作協力: 三菱一号館美術館
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“空間と体験”を追求するチーム
プロの目線で“空間と体験”の可能性を切り取ります