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- ソーシャルグッド戦略部
乃村工藝社の「SOCIAL GOOD WEEK 2022」の一環として、“ウェルビーイングなまちづくり”をテーマに11月10日(木)11日(金)の2日間にわたって「ウェルビーイングセミナー」が開催されました。2日目は、オホーツク海に面した北海道小清水町で今、まさに行われている公民連携によるプロジェクト事例にスポットを当てます。
コミュニティ再生と地域のきずなの再生をめざし、人口4,543人※の小さな町で繰り広げられているユニークで画期的な取り組みを、小清水町企画財政課長の石丸寛之さん、株式会社ルネサンス地域創生推進部の藤森茂和さん、株式会社乃村工藝社プランナーの大橋隆太の3人が紹介し、地域資源と民間企業の力を活かしてウェルビーイングな地域づくりに取り組むプロセスや公民連携の秘訣などについて話し合いました。(乃村工藝社は本件にて空間づくりや運営支援を行っています。詳細はこちら)
※ 2022年11月1日現在、小清水町HPより
ウェルビーイングセミナー1日目のレポートはこちら
ウェルビーイング(well-being)とは?
ウェルビーイング(well-being)とは、身体的、精神的、社会的に健康で満足している状態を指す言葉です。日本語では「幸福」「健康」「福利」と訳され、心身と社会生活が良好な状態を表します。この概念は、一時的な幸せ(英語で「Happiness」)とは異なり、長期的な幸福感を含むニュアンスがあります。この言葉の起源は16世紀イタリアの「benessere(ベネッセレ)」。世界保健機関(WHO)憲章※では、健康とは何かを説明する前文にウェルビーイングが定義されています。
※世界保健機関憲章前文 (日本WHO協会仮訳)
“Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.”
「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。」
ウェルビーイングなまちづくり
地域住民と育てるコミュニティスペースとまちづくり
北海道小清水町、オホーツクの人口約4,500人の町で動き出した公民連携プロジェクト
北海道小清水町は、オホーツク海の沿岸、知床半島がある斜里町と網走市の中間に位置する小さな町です。町の基幹産業は農業で、主にジャガイモ、小麦、ビート(甜菜)を生産しています。今この小さな町で行われている、とても先進的な公民連携による地域づくりの取り組みとして注目されているのが、町民が日常を快適に過ごすことができるコミュニティスペース、フィットネススペース、コインランドリー、カフェと庁舎を一体化させた小清水町 防災拠点型複合新庁舎「ワタシノ」の建設です。なぜ庁舎の中にフィットネスクラブやコインランドリーが併設されるのでしょう?そこには町民たちの健康な暮らしの実現や災害時の避難所として役立てるための配慮がありました。小清水町役場の石丸さんは「スケールメリットという言葉があります。大きな方が効率的で有利だと考えられていますが、小さいことのスケールメリットもあると思います」と話します。
行政が民間企業と同じ目線に立って地域づくりに挑戦
「発端は2018年に、町長が公約に掲げた“コミュニティ再生”と“地域のきずなの再生”を具現化するため“町ににぎわい”を!という大号令でした」と話す石丸さんは、これまでに地方創生拠点整備交付金を活用して建設した小清水町ツーリストセンター内にアウトドア用品ブランドのモンベルと連携して直営店をオープンさせたり、買い物弱者対策として北海道地区でコンビニエンスストアを展開しているセイコーマートに話を持ち掛け、小清水町への出店を実現させたりと、自治体側から積極的に動き、公民連携を仕掛けてきました。
小清水町防災拠点型複合庁舎
小清水町の防災拠点型複合新庁舎「ワタシノ」の可能性
新庁舎建設プロジェクトでは、銀行経由で地方創生事業に力を入れているフィットネスクラブ、スポーツジムなどの運営会社の株式会社ルネサンスと、さらに株式会社ルネサンスからランドリー事業を展開しているOKULABや空間づくりの乃村工藝社とつながり、新庁舎建設・運営に向けてNPO法人※を再整備し、多様な視点からの意見を取り入れられる座組をつくっています。「他力本願ってネガティブな印象を受ける方も多いと思いますが、小清水町では決してネガティブだとは思っていません」と話す石丸さんは、行政にない発想やノウハウを持つ民間の力と町民の声を取り入れて地域づくりを推進しています。
※小清水町、小清水町商工会、株式会社ルネサンス、株式会社OKULABによって構成されたNPO法人グラウンドワークこしみず
石丸さん講演アーカイブ動画をご視聴希望の方は、こちらよりお申込みください。
小清水町の公民連携プロジェクトは、全国の小さな自治体のモデルになる
小清水町の公民連携の重要なパートナーとなっているルネサンスの藤森さんは「フィットネスクラブ事業で培った健康づくりのノウハウを全国に広げられる可能性があると考えています。小清水町さんのような小さい自治体の課題を解決できれば、全国の様々な地域で課題解決ができると思いこのプロジェクトにチャレンジしています」と話します。
クロストークの後半では、行政が民間企業を引き込むコツや公民連携プロジェクトのスタートの仕方など、実際にプロジェクトに携わった3人から様々なヒントを聞くことができました。石丸さんは、「小清水町の町政執行の基本は “住んでよかったまち・住みたいまちづくり”です。いま全国に1,718の自治体※があります。その中で過疎地域に指定されている自治体は885あって、全自治体の51.5%を占めます。小清水町の取り組みは、全国885の自治体にそのまま転用することできるモデルになるのではないかと思っています。来年(2023年)5月には新庁舎が完成します。人口約4,500人の町で成し得たことを、全国の自治体や企業の皆さまに見に来ていただけたらと思います」と訴えました。
※ 一般社団法人全国過疎地域連盟「過疎市町村の数、人口・面積 (令和4年4月1日現在)」より
https://tinyurl.com/2lx3ym8f
セミナーでは、裏話も交えて、この公民連携プロジェクトの背景やプロセス、公民連携のコツなど様々な話題が取り上げられています。ぜひアーカイブ映像をご覧ください。
クロストークのアーカイブ動画をご視聴希望の方は、こちらよりお申込みください。
AFTER TALK ———
クロストークを終えて
クロストークを終えた登壇者3名に加え、新庁舎のランドリーやカフェの企画を担当するOKULABの麗狗二美さん(左)と乃村工藝社の小清水町新庁舎賑わいづくり支援プロジェクトのプロジェクトリーダーの橋本俊介(右)が参加してセミナーの感想や語りつくせなかったことなどを話し合いました。
行政のやる気が民間企業を動かした
石丸
講演の機会をいただくことは多いのですが、今回はオンラインでも配信されると聞いて緊張しました。
藤森
まだ完成していない施設のことをお伝えするのは難しかったですね。完成後だともっと詳しくお伝えすることができるのだろうけど。しかし、今回のプロジェクトはとても丁寧に進められていて、行政と民間が同じ目合わせをして取り組んでいますね。
大橋
セミナーでは触れませんでしたが、町長さんや副町長さんがいつも会議に出席してくださいますよね。それは大きなポイントだと思います。
石丸
基本的に決断するのは町長ですからね。うちの町長はみんなの話をよく聞いてくれます。
麗狗
民間企業だとどうしても収支の話や、どうやって回収できるのか、という話になります。町の場合は、それよりも「やる」という意思が大切なのですね、それがすごく勉強になりました。
大橋
行政の仕事はどうしても単年度契約がために、途中で関係が途切れたりしがち。契約の切れ目が縁の切れ目にしないようにオープン後も活性化に向けてみんなで取り組んでいきたいですね。
将来につながる大きな価値がある
藤森
みなさんの会社でも、このプロジェクトに参加するにあたってそれぞれの社内の理解を得るのにも時間がかかったと思いますが、このチームのメンバーは、本業だけではなくて、これから先を見据えているところはみんな一緒だなと感じました。
大橋
OKULABさんでは、この案件を進めるときに、社内では反対意見は出ませんでしたか?
麗狗
反対まではありませんでしたけど、コストはかかるし、リスクもありました。でも関わって良かったと思うのが、私たちのサービスに意味を付けられたことです。コインランドリーって、街中にあればコインランドリーでしかないのですが、このプロジェクトに参加したことで地域貢献とか、それこそフェーズフリーという意味合いも付けることができ、売上ということではなく、何物にも代えがたい価値があると思っています。
小清水町の新庁舎「ワタシノ」は防災拠点にもなる、まちのにぎわいスペース
石丸
新庁舎は防災拠点型複合庁舎という長い名前ですが、何かあったら「町民の皆さんここに逃げ込んでおいで!」という施設です。小清水町は温泉が出るので、新庁舎のために温泉を1本掘りまして、暖房は温泉熱を利用した床暖房にしています。万一、停電になっても暖かく過ごせます。もちろん、自家発電施設もありますけどね。避難が長期になると環境衛生のためにコインランドリーを無料で開放できるし、ジムは避難所に、カフェは炊きだしに活用できます。まさにフェーズフリーの概念を取り入れています。
新庁舎賑わいゾーン|コミュニティスペース
大橋
来年5月の開業を目指して、建物もまだ基礎の段階で、サービス面もこれからが佳境です。セミナーではあまり触れられなかったのですが、小清水町の土で壁をつくったり、道産のカラマツ材や町の木でもあるミズナラ材を使ったり、小清水の光・土・木をモチーフに豊かな自然を感じられるようにしていくつもりです。
藤森
庁舎には普通、用事がないと行かないですが、新庁舎は目的がなくてもフラッと行ける場所です。ランドリーがあったり、フィットネスジムがあったり、カフェがあったり、子どもたちが遊べる場所があって、実はそこに庁舎もあるという。それが町長さんや石丸さんたちのお考えでしたね。
橋本
にぎわいのスペースと庁舎が隣接していますからね。役場の職員がコミュニティスペースに出てきて町民と気軽に交流できる。公・民という二項対立ではなく、それが混ざり合った空間というのがコンセプトで、それはかなり新しいものだと思います。
藤森
トップの意思がしっかりしていることが重要ですね。職員の方々も、本当にいいですよ。垣根がないというか…。
石丸
職員も自分たちだけでは問題を解決できないとわかっているので、意識が変わってきたと思います。それこそルネサンスさんにはスポーツを通じた健康づくりなどはスタート時にはなかった事業もやっていただいています。スケールが小さいからこそできるスピード感で、皆さんにも取り組んでいただいています。
ウェルビーイングなまちづくりのために
この町に住んでよかったと思わせるまちづくり
石丸
実は私、最初は新庁舎の愛称は「ワタシノ」ではなく「ミンナノ」というイメージを持っていたんです。しかし、大橋さんに、町民だけでなく、職員も含み、一人ひとりの自分の居場所だという思いを込められたことをお聞きして、まさにそうなって欲しいと思いました。
新庁舎にはカフェもできるのですが、別にコーヒーを注文して飲まなくても、そこに来て休んでくださっていいと思っています。新庁舎の隣に病院があるのですが、病院の待合室替わりに使ってもらってもいい。役場には用事がないけど、ここには来たいということを具現化できればと思っています。
乃村工藝社にて提案・デザインしたネーミング・ロゴ
小清水町の新庁舎名「ワタシノ」に込められた想い
大橋
「ミンナノ」という案も候補にあったのですが、「ミンナノ」だと誰のものでもない感じで、どこか他人事で主体性がないような感じがします。 「ワタシノ」のコンセプトは、行政の人も、自分のコミュニティスペースとして、自分ゴトとして捉えて欲しいという意味合いも込めています。今、まさに役場の方の意識も変わってきていますし、これから新庁舎が開業して町民の方が来られるようになって、まさしく「ワタシノ」が体現されていくと思います。
石丸
いまどの地方でも移住定住対策がとられていますが、全国で人口減少が進む中で移住定住は本当に難しいと思います。なので、まずは小清水町の町民が「この町に住んで良かったな」と思えるまちづくりをする。それによって近隣市町や全国の皆さまに「小清水町に住んでみたい」と思っていただけるまちづくりにつながればと思っています。今日のセミナーで少しでも興味を持たれたら、来年5月以降に、ぜひ小清水町に来ていただきたいと思います。
橋本
基本的には行政の施設なので、これまでにない施設を作っているので小清水町の皆さまにはいろいろ産みの苦しみがあるのだと思いますが、出来上がったら町民の皆さまに喜んでいただける施設になると思います。それだけではなく、町の外にも様々な発信ができる施設だと思います。この事例を日本各地の行政や企業の皆さまに知っていただき、ぜひ実際に見て参考にしていただきたいです。この小清水モデルをカスタマイズして、それぞれの自治体で活かしていただけたらと思います。
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<セミナー登壇者のプロフィール>
石丸寛之さん
北海道小清水町 企画財政課長。北海道大学公共政策大学院修了(公共政策学修士)。小清水町役場に入庁後、17年にわたって企画・財政部門を担当。数々の民間企業を小清水町に誘致し、町の活性化をめざす公民連携の中心的役割を担う。北海道大学大学院研究員として、新公共経営・官民連携手法の研究・実践などをテーマにした講演多数。
藤森茂和さん
株式会社ルネサンス 地域創生推進部 地域創生チーム 専任課長。「いきがい創造企業としてお客さまに健康で快適なライフスタイルを提案する」という企業理念のもとに、スポーツクラブ運営や地方自治体の健康づくりを支援する事業ノウハウを活かし乃村工藝社と連携。「健康」をテーマに施設開発、空間活性化の提案を進めている。小清水町の新庁舎計画支援プロジェクトでは、賑わいのある空間の推進プロジェクトに従事。
大橋隆太
株式会社乃村工藝社 プランナー。広告代理店でマーケティングプランナーとして一般企業と官公庁のコミュニケーション戦略立案を担当。乃村工藝社入社後は、文化施設の展示プランナーを経て、「TOYAMA TOWN TREKKING SITE」(富山県)など、まちづくり分野へと軸足を移す。近年は公民連携事業の開発を軸としながら、都市部の大型複合施設開発や地方自治体のまちづくり計画を手掛けている
<AFTER TALK参加者のプロフィール>
麗狗二美さん
株式会社OKULAB マーケティングシニアマネージャー。全国約190店舗を展開する自社のコインランドリーブランド、Baluko Laundry Placeの販促やサービス開発を担う。小清水町新庁舎プロジェクトでは、「洗濯しながらコーヒーや町の産品を楽しめる空間」を目指して、ランドリーとカフェの企画を担当している。
橋本俊介
株式会社乃村工藝社 営業。 小清水町新庁舎賑わいづくり支援プロジェクト プロジェクトリーダー。2019年に乃村工藝社入社。前職のヘルスケア企業では事業開発と施設開発を担当。乃村工藝社入社後は新規顧客開発や事業開発フェーズの業務を担当し、ルネサンスとの協業を推進しヘルスケアやウェルビーイングの案件を手掛ける。地域・企業と連携し、長期的な運営まで視野に入れた地域活性化支援に取り組んでいる。
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