迫り来る土砂の恐ろしさを
VRでリアルに体感!
-京都市市民防災センター-

藤居 重雄
藤居 重雄
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藤居 重雄

昨今、さまざまな地域で自然災害が増えている中で、まさに「住民が主体的に考えて取組む地域防災の在り方」が問われています。今回、私が担当した京都市市民防災センターの「土砂災害体験コーナー」づくりのお仕事のご紹介とそこで感じたことを紹介します。

京都市市民防災センターホームページ

リアルシアター内のワンシーン、L型の巨大映像スクリーンで土砂の恐ろしさを体感します。

土砂災害をリアルに体感するコーナーを新設

京都市市民防災センターは、市民の皆さんに災害の疑似体験を通じて、防災に関する知識や技術を身に付けていただき、防災行動力の向上を図る施設として、1995年9月にオープンしました。
災害時に不可欠な防災知識や行動を『見る / 聴く / 触れる / 感じる』ことで学ぶために各種災害体験コーナーが充実していることに加えて、事業所向けには、店舗・ホテル・マンションを模した「総合訓練室」があり、幅広い層に対応する防災学習施設として全国に知られています。今回は3階の「防災行動体験コーナー」を「土砂災害体験コーナー」に改修する業務を行いました。

以下、各フロアー概要 と リニューアルした3階を紹介します。

1階:
❶受付 ❷オリエンテーションステージ ❸地震体験室
❹強風体験室(2023年2月現在休止中) ❺映像体験室

2階:
❶消火訓練室 ❷避難体験室 ❸通報訓練コーナー(2023年2月現在休止中)
❹総合訓練室 ❺くらしの安全コーナー

3階:

4Dシアター 迫りくる地下街の恐怖 アンダーパスの危険性
出動!!こども消防隊 消防士に大変身!! ❺防災行動体験コーナー
消防ヘリコプター 視聴覚室
防災学習ミニゲーム

防災センターHPより転記

4階:
講習室

「知る⇒体感する⇒考える」で行動につなげる

京都市からは以下の3つのポイントで、避難行動につながるコーナーを求められました。

ポイント❶必要な情報をしっかり「知る」
ポイント❷よりリアルに「体感する」
ポイント❸地域の土砂災害のことを「考える」

ポイント❶「知る」
ねらい:土砂災害体験の前後に必要な情報を分かり易く伝え、知識をしっかり定着させる。体験前にガイダンス映像を放映して、事前情報をまとめて提供します。更に、必要な個別情報を再確認しやすいように、テーマ毎にポイントをおさえた解説パネルを展開しました。

ポイント❷「体感する」
ねらい:土砂災害の怖さと避難行動を、映像でよりリアルに体感してもらう。
ストーリー面では、ドラマ仕立てで土砂災害の避難プロセスを追体験する展開です。
演出面では、最新のVR(バーチャルリアリティ)映像による演出の2方向で、よりリアルな体感をめざしました。

ポイント❸「考える」
ねらい:「知る」「体感する」を通じて、来館者に「考える」よう意識してもらう。
避難モデルの好事例のパネル紹介やハザードマップを大きく表示することで、地域の実情を具体的に見て、地域防災を考えるきっかけを提供することになりました。

自ら考え、避難行動につなげる2つの空間

前項の3つのポイントをもとに、「知る・考える」と「体感する」シアターの2ゾーンで構成しました。この2ゾーンを行き来することで、いざ土砂災害に遭いそうな時にしっかり避難行動がとれるスキルを身に付けることができます。


土砂災害学習コーナー 平面ゾーン構成図

次にゾーン❶土砂災害学習コーナー「知る・考える」、ゾーン❷リアルシアター「体感する」の2ゾーンの具体的な内容をご紹介します。

土砂災害学習コーナー
マスコットのわんたくんの案内で、楽しく事前学習

ゾーン❶土砂災害学習コーナー「知る・考える」
「知る」は、まずマスコットキャラクターのわんたくんが敬礼して出迎えます。続いて、「わんたくんのガイダンスビデオ」を放映し「土砂災害の危険性とメカニズム」を学びます。京都市内で2500カ所以上もある土砂災害特別警戒区域・警戒区域や3種に分けられる土砂災害(がけ崩れ、土石流、地すべり)警戒レベルなど、リアルシアター体験前の事前情報を楽しく且つ簡潔に紹介します。また、土砂災害の基礎知識は「土砂災害とは?/どう行動する?/どこへ避難する?」などのテーマ毎にパネルにして分かり易く展示しています。知識を得た来館者は、いよいよリアルシアターに入ります。

リアルシアター
最新のVR技術(バーチャルリアリティ)とアニメを交えた体感映像

ゾーン❷リアルシアター「体感する」
リアルシアターの空間面での最大の特徴は、VR映像を壁面と床面のL型に映像投影する立体的な演出手法で、災害の予兆と土砂災害が展開することにあります。崖から小石がパラパラ落ちたり、流れ落ちる雨水が濁ってくるなどの予兆シーンを壁面に投影します。
増水した川の濁流や土砂が崩れ落ちるシーンは、床面に投影されて来館者の足元に迫ってくるなど、まるで実際の土砂災害に遭遇したような映像を体感できます。

「リアルシアター」足元にまで迫る土砂災害のシーン

リアルシアター
自分事に感じる、ドラマ仕立てのストーリー

リアルシアターの映像ストーリーの特徴は、身近な家族や高齢者が登場するドラマ仕立てで避難のプロセスを展開していることです。登場人物が、我が家のマイタイムライン(防災行動計画)に添って、災害情報と予兆を捉えて避難する展開を計画しました。

1.スマホのエリアメールやラジオ他で「避難指示」情報を入手
2.避難所を準備。近所の高齢者等と連絡しあう
3.高齢者等の避難。前後して予兆発生
4.全員避難後、土砂災害が発生

登場キャラクターはアニメ調で、見る人に親しみを感じていただくと同時に、子どもから大人そして高齢者まで、様々な年代の皆さんに、災害に遭遇した登場人物の心理を追体験していただける効果もねらっています。実際の映像では、ハラハラする場面もありますが、ぜひ一度体験していただきたいと思います。


「リアルシアター」登場人物。父親が自主防災のリーダーを務める


「リアルシアター」ワンシーン

土砂災害学習コーナー
2,500ヵ所以上もある特別警戒区域・区域マップを見て地域の防災を考えてもらう

ゾーン❶土砂災害学習コーナー「知る・考える」

「考える」は、リアルシアターを体感した来館者が、改めて地域の土砂災害について考える場所です。シアター映像では、発令される警戒レベルに対応した避難行動を重視していますが、あくまで映像ストーリー上のモデルであり、地域毎の災害特性や地域住民の状況に合わせて、皆さん自らが共に考えていただく必要があります。
この「考える」きっかけとして、市内に計2,500カ所以上ある土砂災害特別警戒区域と同警戒区域を記したマップを床面に大きく表示しました。来館者は、自分が住まう地域や通勤、通学や買い物で通るエリアに重なっていないかなど、マップを互いに確認しあうことも有意義です。解説パネルで地域の避難モデルとなる事例やいつ避難すべきかを判断する情報伝達のルート、情報収集の方法なども紹介しています。


HP「今スグ 京都市市民防災センターへ」より転記 「私の住む地域はどうかな?」

避難の空振りを恐れない。早めの避難や情報収集の大切さを忘れずに

特に重要なのは、過去に土砂災害で避難しても実際には災害が発生しなかった場合でも、避難の「空振り」を恐れずに「命が助かってよかった」という心構えを持つこと。また、常に早めの避難や情報収集の大切さを忘れないことです。
京都市内から来られた来館者の皆さんには、それぞれのご家庭や地域に帰ってから、我が家の防災行動計画「マイ・タイムライン」※1の作成を家族で話し合っていただきたいと思います。

※1「京都市マイ・タイムライン」

京都市「我が家の防災行動計画「マイ・タイムライン」」リーフレットより転記

「自ら災害に備える防災」に向けて

「防災」の文字を辞書で調べると、「災害を防ぐこと」の意味で記述されています。一方で、個人や家族、地域の立場から「防災」を考えた場合、阪神・淡路大震災以降定着してきた「自助・共助」の視点があります。今回、京都市の方針から設けました「知る・考える」土砂災害学習コーナーにも、『自分の身は自分で守る。自分の地域は地域で協力して守るために、地域の状況を皆で考えよう』という「自助・共助」のメッセージが込められていると感じていました。弊社プロジェクトメンバー一同も、この新コーナーをきっかけに「自助・共助」のメッセージが伝わる事を念頭において取り組みました。

皆さんは、自らの家族や地域の防災をどう見つめなおし、どう地域防災の「自助・共助」に関われそうですか? マイ・タイムラインなど、今できることから考えて実行することがその第一歩になると思います。

 

事業主体の京都市消防局、一般財団法人京都市防災協会の皆さま
弊社プロジェクトメンバー、協力社の皆さま、心より感謝を申し上げます。

施設名:土砂災害体験コーナー(京都市市民防災センター内 3階)
所在地:〒601-8445 京都府京都市南区西九条菅田町7
開設日:2020年4月
事業主:京都市消防局、一般財団法人京都市防災協会
種 別 :常設展示施設
展示面積:約58㎡
展示改修設計・展示製作:株式会社乃村工藝社
プロデューサー:三輪晴也、山瀬浩子
デザイナー:吉谷武敏
プランナー:藤居重雄
製作管理:東原由季、野口学(ノムラテクノ)
映像ソフト:凸版印刷株式会社(リアルシアターVR映像ソフト)
株式会社アクロス(わんたくんのガイダンス映像ソフト)
グラフィック:株式会社ライブアド

 

プロファイル
藤居 重雄
クリエイティブ本部 プランニングセンター 企画4部 第10ルーム プランニングディレクター
「迫り来る土砂の恐ろしさをVRでリアルに体感!」

乃村工藝社で20数年以上にわたって行政の文化系展示施設、企業の展示の分野でキャリアを重ねてきました。
事業初期段階の調査業務から、基本構想、基本計画、基本・実施設計、運営支援まで業務経験を有します。特に、重要文化財を扱う歴史系展示施設から、文学系展示施設(万葉集、俳句他)、防災啓発施設、城郭、世界遺産・日本遺産のガイダンス施設、企業博物館など幅広い分野を手掛けています。お客様とともに地域や組織の皆さまが元気になる空間・環境づくりをお手伝いさせていただきます。

リアルシアター内のワンシーン、マスコットキャラクター「わんたくん」

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藤居 重雄

藤居 重雄

チーフプランナー
地域・企業の歴史・文化を分かり易いストーリーでつなぐ

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