持続可能な街づくり、その成功例とは?(前編)決めつけすぎず、余白をつくる

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YADOKARI株式会社・株式会社はじまり商店街が主催する、これからの街づくりの可能性、エリア開発、コミュニティ支援に関わる企業担当者、オピニオンリーダーと未来の暮らしのヒントを見出すリレーイベント「未来まちづくり研究所」。2022年11月25日にVol.7「持続可能な賑わいづくりを考える〜コミュニティを創発する、まちづくり型リーシングを例に~」が東京・日本橋で開催され、YADOKARI株式会社・プロデューサーの木村勇樹氏、はじまり商店街・共同代表取締役の柴田大輔氏と共に乃村工藝社リーシングリレーション部の川井政和と西端秀晃が登壇し、ディスカッションを行いました。(イベントのアーカイブ動画はこちら )

※本イベントは既に終了しています

開発・街づくりを深掘りしたトークが展開され、盛り上がりをみせた当日。ですが、「まだ話したらない」の思いがあった4人は、再び集まることを約束。今回はそんな思いが実現した対談です。あの日の熱量はそのままに、乃村工藝社 台場本社の「RE/SP2」に場所を変えてディスカッションがスタートします。

左より、西端秀晃(乃村工藝社)、木村勇樹氏(YADOKARI)、川井政和(乃村工藝社)、柴田大輔氏(はじまり商店街)

街づくりの課題と成功例とは?

西端
「先日の対談では話し足らないところもありましたので、本日はまたこうして集まることができて嬉しいです。まず、はじまり商店街さんがこれから足立区綾瀬駅西口の街づくりに取り組まれるということで、お話いただいてもいいでしょうか」
「足立区のSDGs推進にかかる綾瀬駅西口高架下空き店舗運営業務委託」公募型プロポーザル提案書提出者の選定結果|足立区 (city.adachi.tokyo.jp)

柴田
「はい。ちょうど1年ぐらい前になりますが、『今後は<SDGs未来都市>に変わっていく』と足立区が区としての方向性を定められ、SDGs未来都市推進担当課という課ができたんです。課題のひとつに、子どもの貧困に対する取り組みが上げられています。今後、子どものための場所、拠点を整えたいということで、我々にも声がかかりました。綾瀬駅のJRの高架下が空いているので、そこでなにかできないかと」

西端
「なぜ、足立区の中で綾瀬だったんでしょう?」

柴田
「駅の北側に大きなマンションが建つことが決まっており、今後足立区の中でも人口が増えていくエリアだというデータがあるんです。それに伴い、開発予定地区として力を入れようと。綾瀬に<いろどりの杜>という築50年の団地があるんですが、弊社は不動産デベロッパーさんと一緒にその中の2棟の運営に携わっています。そのご縁で、お話がありました」

川井
「なるほど。その成功例が、足立区の目にとまったんですね」

柴田
「ありがたいことに。それで、何をつくろうかと考えたときに、なにより『住む人たちが楽しい街に』という思いが我々にも足立区にもあったので、コミュニティカフェのようなものがいいんじゃないかなと。それで区画を見に行ったら、90平米と50平米があったんですね。90平米をコミュニティカフェにするとして、じゃあ50平米は? となり。議論の結果、本がある場づくりの場所をつくろうということに」

西端
「本がある場づくりの場所! それはいいですね」

柴田
「綾瀬の町には長年愛されていた本屋さんがあったんですが、なくなってしまって。でも、やはり街には本から学べることが必要だよねとなり……実は我々はカフェの空間も本のある空間もこれまで手掛けたことはないんですが、やってみましょうと。今回の街づくりのコンセプトが、『やってみたいをやってみる』。まさにその言葉通り、我々も進んでいこうと」

木村
「子どもの貧困をテーマとしているけれど、子ども食堂をやってほしいわけじゃない。そういう思いなんですよね。」

柴田
「ええ。子どもの精神面を豊かに、というのが目標であり課題です」

川井
「その本がある場づくりの場所にはテーマはあるんですか」

柴田
「いま、いろんな本屋さんをリサーチしてるんですけど。小上がりをつくって、子どもがのびのびできるのも面白そうだなとか。住民参画の部分でいうと、小さいギャラリーをつくり、そこに集うことで、住んでいるひとりひとりの顔が見えるような空間もあればいいなと」

川井
「そういう個性的な街の本屋さん、最近増えてるような気がします。都内だと、神楽坂のあたりの本屋さんが成功例かも」

柴田
「僕らは開業前に住民の方に『どういうメニューがいいですか』『どういう方向性がいいですか』と話を聞くようにしています。ハードに関しては住民の方の声を全部吸い上げるのは難しいんですが、ソフト面ではなるべく多く取り入れたい。あとね、ちょっと面白いのは足立区さんとの議論の中で『空間を変えて、いつでもアップデートできるようにしたい』というお話があったことです」

西端
「それはなぜでしょう」

柴田
「開業後も『変えたい』と思うところが必ず出てくるはずだから、と。そのために最初に予算を使い切るのではなく、今後に備えて残しておきたいという考えのようです」

西端
「いいですね。街づくりって『何かつくって、そこでおしまい』じゃないですものね。塗り替えていけるのは大切だと思います」

柴田
「足立区の街づくりに対する本気度がにじみ出ている言葉だなと感じました。これを成功例にするぞ、という意気込みといいますか」

木村
「ですよね。ちょうど今日の対談のテーマに『持続可能な賑わいづくり』があります。綾瀬の場合も、つくって、それから先にどう繋げていくのかが重要な課題になりますよね」

柴田
「5年後には弊社の手を離れて、自走化という話も出ています。具体的にどうするのかが課題ですが、たとえば<街づくり会社>みたいなものを、足立区内でつくり、その中で運営していくというような……そういう自走化の提案は既にしています」

賑わいの認識合わせ――好きな賑わいは?
その賑わいはどんな風に成立している?

木村
「あと、今回の対談テーマのひとつに上がっていた『賑わいの認識合わせ』ですが。これは僕もとても興味がありまして。賑わいという言葉って、人それぞれいろんなとらえ方があると思うんです。お店がたくさんあって雑然としていたり、喧噪があるのが賑わいだという人もいるだろうし、ひとつのお店の温かいコミュニティがあれば充分賑わいを感じるという人もいる」

川井
「僕はあんまりギラついた賑わいは好きじゃなくて。ワードで言うと<ほっこり>みたいなのが好きなんです。地域の資産をちゃんと活用して、その場を何か定期的に使ったり通ったりしてもらえるような、人の活動が見える街が好きです。街づくりに関わる側がつくりすぎない、ということが重要だと考えているんですね。あえて余白を残しておいて、その余白部分は住民が何かに参加することで進化したり、受け入れられて成熟したりしていく。そういう予測不能な変化が起きていくのが、最終的に街の賑わいとなるのかなと考えます」

木村
「わかります。余白は、デザインする側にとっては重要なポイントですよね。川井さんがおっしゃる通り、デザインしすぎていると、そこを訪れる人や住む人の自主性みたいなものがなくなってしまうような気がします。かといって余白が多すぎても、その街に沿っていないことになる。塩梅が難しいところではありますね」

川井
「『この街はこのトーンだよね』と決めつけるのではなく。ちょっと毛色の違うものを混ぜていくのも面白いと思うんです。たとえば、僕は東京ミズマチの開発に携わっており、今年1月にミズマチの中に<パデル東京ミズマチ>という施設をオープンさせたんですね」
パデル東京ミズマチ | Padel Asia

柴田
「パデルってどんなものですか?」

川井
「テニスとスカッシュを足して2で割ったような、スペイン発祥のラケットスポーツです。世界中でブームが起こりつつあり、今回つくったのはその専用コート。オープン後に体験レッスンを設けたんですが、地域の方も多く参加してくれて、数日間で約1,000人が来店している。これからは飲食や物販以外で、そういう色んな仕掛けづくりが必要だなと感じます。マイクロパブリック的な視点でも、そんな場所があった方が面白いんじゃないでしょうか」

柴田
「みんなが体験できて、みんなが気持ちいい。これからのキーワードのひとつになるかもしれないですね」

木村
「きちっと決め切ってしまうと、もう決まった活動をするしかない。だから予定調和的になるっていうのはあるかもしれません。ところで、ミズマチは川沿いで、雄大な空間に寄り添うような形になっていますよね。地域資源の活用という視点も含めて、開発の際はやはり川の存在っていうのは大きかったですか」

川井
「大きいですね。川沿いを歩くというシーンが最初からあるので、それをどう歩かせるのか、が課題でした。ミズマチの場合は、川があって街があって、浅草とスカイツリーがあるというというのがポイントでしたね」

木村
「賑わいって、人に起因するものというところはたしかに大きくある。でも、空間とか地域資源が持っている雄大さというか、懐の深さに集まってくる人も多いとも思うんです」

<余白>は街づくりの課題のひとつ

西端
「おっしゃる通り、そういうものがあるからこそ、自然と人が集まると僕も思います。まず、それを活かす仕掛けが一番重要であり課題なんではないでしょうか。そして、そこから先の余白というか、つくりこみすぎないことがまたとても大切で。前回の対談で、川井から『文化は何も無いところから生まれる』みたいな話が出たと思うんですけれど」

川井
「言いましたね。いま改めて言われるとちょっと恥ずかしいな。すいません。なんか生意気なことを言って(笑)」

西端
「いえいえ(笑)僕、ホントにそうだなと思ったんですよ。何もないところに来ることによって動き出すものがあるっていう、ビッグバンみたいなことが起きることもあるのかなと。いかに魅力的な、集いたくなる場を設計するのか、という考えが街づくりにおいては大事なんでしょうね。少し話は逸れますが、僕は乃村に入社する以前に、シェアハウスの運営に携わっていたんです。640人ぐらいがシェアするという物件でした」

木村
「かなり大きいですね」

西端
「はい。それだけの人数がいるんだから異業種交流につながるように――運営側としてはそう考えるんですが、なかなか住人同士のコミュニケーションがうまくいかないという現実問題に悩まされました。でも、そういう中にひとりポジティブな人がポンッと入ってくると一気に輪が広がるんですよ。オープンキッチンやライブラリー、シアタールームとコミュニケーションのためのハードはいろいろ用意していたんですが、ひとりポジティブな人が入ると、それらがパーっと賑わう。ところが、その人がいなくなった瞬間に、ふっと火が消えたようになるんです。本当の持続可能性や自走化とは、どういうものか……成功例はどんなものなのか……そのときから考えていて、はっきりした答えが出ないまま、いまに至るんですが」

柴田
「実は僕もシェアハウスマネージャーをやってました」

西端
「ホントですか!? 偶然ですね」

柴田
「僕の場合はいわゆるコミュニティ型シェアハウスで、最大でも10人ぐらいの小規模コミュニティ。だからなにかとつくりやすかったんですけど。当時課題になったのは、3棟目まではみんな仲良かったんですが、4棟目からは難しいということ。ほら、小学校のクラスと同じでね、40人ぐらいまではギリギリ仲良くできる。でもそれを超えてくると、上手く回らなくなるんです。ですから、そういった場所では安定的なコンテンツが何か必要なんだなと痛感しました」

木村
「何か柴田さんなりに考えたコンテンツってあるんですか」

柴田
「まず、地域性を生かすコンテンツ。これは盛り上がりやすいです。あと、ちょっと乱暴な言い方かもしれませんが、本や映画って、ある程度誰もが好きじゃないですか。テレビドラマでもいいんだけど。必ず何かが誰かに刺さるというか」

木村
「たしかに。好きだ、語りたい、感想を言い合いたい、っていう作品を誰もがひとつは持っていますよね」

柴田
「趣味でつながると、トークも弾みやすい。いま弊社が携わっている現場では、たとえば映画部をつくり、そこに部長という役職をつけて、その人を強引に前に出す、舞台に上げてみる、ということを始めています。そういうデザインをしながら、自走化に繋げることも狙いのひとつですね。いきなり『このコミュニティでは、あなたがPM(プロジェクト・マネジメント)ね』って決められちゃうと、すごくなんというか……重いですよね(笑)」

西端
「たしかに(笑)プレッシャーが半端ないです」

柴田
「そうならないように、部長とか委員長ぐらいでのサイズ感から落とし込んでいく。そこから、自走化に繋げていくというスタイルはありだろうと考えています」

川井
「いま柴田さんがお話されたこと、SNSの世界ではまさにそうなってきていますよね。たとえば最近流行っているアプリにグラビティがあります。グラビティ〇〇部、みたいなハッシュタグが付いていて、グループチャットが盛ん。20人までと人数制限がされているのですが、やはりそれぐらいの人数が先ほどの柴田さんのお話にもあった<適正人数>なのかなと。映画や読書、料理部や犬好きな人が集まって賑わっているようです。『そういう場があるなら、やってみたい、集まりたい』という本能が人間にはあるんだろうな。」

木村
「いまのお話を聞いて、妻に聞いた話を思い出しました。東横線に学芸大学ってあるじゃないですか。学芸大学には『学芸大学に引っ越したら入らないと』と言われるLINEグループがあるそうなんですよ」

西端
「それは行政主導の?」

木村
「いえ、そうじゃないんです。自主的に始められたようで、それでも熱意を持って皆さんが書き込みされていて、街に関する情報もどんどん更新されている。誰かがお金を投じてつくったわけじゃないのに、住む人が自主的に回している。これって自走化という意味ではまさに理想的なスタイルじゃないかと」

西端
「LINEというツールが持つ気軽さが、そうさせているのはあるかもしれませんね」

木村
「そうですね、それはあるかもしれません」

柴田
「我々は人と人の対面でのコミュニケーションを大切にしている会社なんですが、そこを大切に思うあまり、SNSを使った仕掛けについてはまだ課題が多いなと思うこともある。もっと追いつかないといけないですよね。勉強になります。」。

 

前回同様、街づくりの課題や成功例に対して語り始めると話が止まらない皆さん。後編に続きます。

※ 距離を取って対談を行っており、写真撮影時のみマスクを外しております。

※未来まちづくり研究所 とは:
これからのまちづくりの可能性、エリア開発、コミュニティ支援に関わる企業担当者、オピニオンリーダーなどをお呼びしたディスカッションや参加者同志のつながりを通して、未来の暮らしのヒントがみつかるリレーイベント「未来まちづくり研究所」。
コロナによって生活様式も大きく変わり、先が見えない時だからこそ、会社や組織という枠を超えて「これからのまちづくり」を皆で考え、共にディスカッションを実施します。

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“空間と体験”を追求するチーム
プロの目線で“空間と体験”の可能性を切り取ります

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