- text and edit by
- 川上 洋一
2022年2月に開業した「三鷹メモリードホール」は、株式会社乃村工藝社(以下乃村)が手がけたメモリードグループの都内8店舗目となる葬祭ホールです。コロナ禍での新たな生活様式や多様化する価値観に合わせ、小規模な家族葬やライブ配信による葬儀参列など、従来型にとらわれない新たな葬祭ホールが都市部を中心に増えてきています。
乃村では初めてとなる、この「葬祭ホールプロジェクト」を通して、設計者として感じた、時代と共に進化する葬祭ホールのあり方について考察したいと思います。
乃村の建築デザインユニット
乃村には内装・展示のデザイン・施工だけでなく、建築業務に取り組む「NAU」(NOMURA ARCHITECTS UNITの略)という専門部署があります。自身が所属するNAUでは、社内外のプランナー・デザイナー・設計者と連携しながら、独立した建築設計事務所とは異なる付加価値を提供しています。
今回の「三鷹メモリードホール」では、建築から内装・FF&E(家具・什器・備品等)・サインのデザイン・設計と施工をご依頼いただきました。
デザイン・設計ではNAU杉本、内装・FF&Eデザインは松澤、サインデザインは伊藤と共に、社内のプロジェクトチームで取り組みました。
乃村初の葬祭ホールプロジェクト
都市部の葬祭ホールは住宅街に計画されることが多く、「三鷹メモリードホール」もマンション・住宅に隣接した立地環境でした。住宅に隣接する場合は、近隣への配慮が建築設計上、不可欠となります。
地域・生活に必要な施設でありながら、一般的には外から葬儀の様子が分からない構成とすることが多く、地域に対し閉鎖的な施設となってしまいます。
建設前の計画地:周辺にマンション・住宅が隣接
今回のプロジェクトでは、『地域に寄り添う新たな葬祭ホール』として、周辺環境や住宅街に馴染む施設となるかを意識しながら進めていきました。
また、最近の葬儀は、少子高齢化や核家族化などの社会的要因に加え、コロナ禍の影響で年々、滞在時間の短い家族葬・一日葬といった規模の小さな葬儀が主流となってきています。小規模で、短い滞在時間の中でも、いかに充足される「別れの時間・空間」を演出するかを検討しました。
三鷹メモリードホールの特徴
#街との共鳴・つながり
三鷹市の緑が多く良好な住環境に馴染むよう、「街との共鳴・つながり」を設計上、意識しました。建築の高さを低層(2階建て)に抑え、敷地境界線からセットバック※し、周辺のスケール感に合わせました。その外周を緑化、外装を石風のサイディングや木ルーバーといった質感のある仕上げとすることで、従来型の葬祭ホールとは異なる、“街と共鳴する邸宅のような佇まい”を表現しています。
※セットバック:土地の境界線から一定の間隔を確保し、建物を建てること
南西側近景:低層に抑え、セットバックした外周部とピロティ周りを緑化
また、外部から1階ピロティ、エントランス、階段、2階ロビーと空間を連続させ、さらに階段2階部分から外光を取り入れることで、施設内部でも外部を感じられるよう、“外部=街とのつながり感”を演出しました。
ピロティ:木ルーバーと間接照明、南側の緑化部分から光が差し込む 地域とつながるイベント活用の場としても想定されている
エントランスホール・階段:ピロティ・外部との連続性と間接照明による演出
#別れを受け入れる空間
小規模で滞在時間の短い葬儀の中で、故人との別れの時間・空間を演出するにあたり、「穏やかさと温かさ・光」をテーマにデザインしました。
内外装・FF&Eは、木や左官、和紙を用いたアート等、オーガニックな素材で設え、紡ぎ重ねてきた故人との大切な時間を優しく包む、“穏やかで温かみのある空間”としています。
2階ロビー:木・左官仕上げと間接照明で温かさを演出
2階ロビー壁面:木と左官仕上げの表情
式場A:40席から70席まで対応、左官仕上げとカーテン・間接照明により参列者を優しく包み込む
控室:オーガニックな素材の仕上げによる穏やかで温かみのある空間
また、ピロティ・エントランス・ロビー・式場の間接照明、階段の開口からの外光、ピロティ外周のワイヤーによる緑化の木漏れ日といった光の演出により、故人への想いが解放され、“別れや悲しみを受け入れる空間”としました。
エントランスホール 参列者を出迎えるオーガニックな素材の仕上げと間接照明
階段室 外光の様子 壁面はオリジナルの和紙のアート
地域と葬祭ホールのあり方~地域とのつながり
葬祭ホールは、誰しもが人生で通る「大切な人を見送る場所」。
本来は、地域や生活と関わりのある場所です。
従来型の“葬祭ホール”は、極力、地域の日常生活から切り離されるよう、人の目に触れない配慮を重視し、より閉鎖的な建築として周辺環境から切り離されることで成立していました。
しかし、今回のプロジェクトでは、日頃から地域の方の目に触れる住宅街の葬祭ホールとして、地域とのつながりを重視し、地域に馴染む温かみある“施設づくり”を心掛けました。
また、建築や空間だけでなく、開業後も施設をより身近に感じて頂ける「地域とつながる運営」が両立できる“場づくり”も重要なポイントでした。
今回、施設のエントランス部に設けた「ピロティ」では、地域とつながるイベント活用の場としても想定されています。コロナ禍で開催できない時期が続きましたが、メモリードグループでは、年始恒例の餅つき大会などの地域イベントも積極的に行っていらっしゃるそうです。
「葬儀」に対する価値観は、時代と共に今後、更に変化していくのかもしれません。それに伴い、葬祭ホールの在り方も進化していくのではないかと、今回のプロジェクトを通じて感じました。
地域と分断された閉鎖的な“葬祭ホール”から、『地域に寄り添う新たな葬祭ホール』として、建築が地域と緩やかにつながり、「葬儀」以外の使われ方に対する「場」の汎用性、また、開業後も地域のコミュニケーションが創出される『地域の拠り所』となるような、地域に末永く愛される「葬祭ホール」の在り方に、建築設計者としても新たな可能性を感じています。
多くの建築は運営・管理の面から、地域や環境・生活から切りはなすことで成立させられているように感じています。しかし、地域とのつながりを見直し、建築が地域へ寄り添うことで、地域と人、建築と人、人と人がつながり、建築を媒体としたコミュニケーションやコミュニティが創出されます。
「三鷹メモリードホール」が今後さらに、地域と身近な関係性を築いていく『地域の拠り所』となればと願っています。
プロジェクトメンバー紹介
左写真|左から:川上洋一(デザイナー)・杉本渉(デザイナー)・松澤景(デザイナー)
右写真|右:崎本浩成(営業推進)
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デザイナー・一級建築士
建築にできることは何か