神田明神の
新たなお土産づくりに挑戦
若手プランナーが
商品開発で得た気づき

算額絵馬せんべい開発チーム
算額絵馬せんべい開発チーム
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全国でも屈指の参拝者数を誇る、神田明神。2年に1度、5月に開催される「神田祭」では2日間で約3万人が来場します。歴史と文化が根付くこの神社を舞台に、若手プランナー3人がお土産の商品開発にチャレンジしました。

神田明神の名物お土産をつくる

2018年、神田明神の敷地内多目的ホールを主軸とした複合施設、文化交流館「EDOCCO」のコンセプトづくりから開業までを乃村工藝社が総合的にプロデュースさせていただきました。
神田明神文化交流館「EDOCCO」 | 株式会社乃村工藝社 / NOMURA Co.,Ltd.
開業後も弊社のグループ会社ノムラメディアスが、EDOCCO SHOP「IKIIKI」の運営事業を行っております。年間来場数が多いこちらのショップは既にいくつもの名物お土産で賑わっているため、若手プランナーが新たな視点での名物お土産を開発することになりました。

完成したお土産、テーマは「算額」!

普段は違う部署で空間づくりに携わっているプランナー3人。それぞれのアイデアを持ち寄り、意見をまとめながら、神田明神の“新たな価値”の提案と、“新たな顧客”の開発を目指して商品企画書を作成しました。
企画書に対して、社内の先輩方やEDOCCO SHOP「IKIIKI」に関わるノムラメディアスの方々からも多くのアドバイスをいただいたことで、実現性のある商品企画としてブラッシュアップされていきました。企画通りの商品を製造できる製菓業者の選定や、パッケージデザインの制作などなど…。
約10か月に渡る奮闘を経て、最終的に完成した商品がこちら。

「算額絵馬せんべい」420円 全3種

【内容】
・せんべい2枚(算額の図案をモチーフにした焼き印入)
・算額問題文用紙

今まで神田明神にはなかった、「算額」をテーマとした商品の開発を行いました。
神田明神には毎年「算額」と呼ばれる数学の問題が書かれた絵馬が奉納されていますが、御祭神や神馬など有名な見どころの陰に隠れてあまり知られていませんでした。全国的に見ても、この算額文化が残存している神社は多くないようです。このテーマでの商品開発を実現することで、神田明神のもつ文脈に新たなスポットライトを当てながら、「算額」という文化を周知するという新たな価値の相乗効果が生み出せるのではないかと考えました。
ノムラメディアス:https://www.nomura-medias.co.jp/

食べることにとどまらない体験型のお土産


パッケージ裏側から確認できる問題用紙(左)/開いたときに確認できる問題の解法(右)

この商品には3種類の算額の問題用紙が封入されており、商品を手に取ったときに「問」と呼ばれる問題文を読むことができます。購入後に袋を開け、この問題用紙を開くと「術」と呼ばれる問題の解法を確認することができます(記事をご覧の皆さんもお時間があれば「術」を見ずに算額の問題に挑戦してみてください)。
お土産の購入後に「算額の問題を解く」という体験を組み込んだことで、お土産を渡す際に従来のお土産とは異なるコミュニケーションが生まれるはずです。既存お土産は30~40代の女性がメイン購買層になっていましたが、学生など新たな購買層の獲得を狙いました。

NPO団体とのコラボレーション

商品に活用した3種類の算額の問題はすべて、和算を普及する会NPO WASAN様からご提供いただきました。NPO WASAN様は毎年「算額をつくろうコンクール」を開催し、入賞作品を神田明神に奉納しています。これまでに奉納された算額の中から、問題の解きやすさや図案のデザイン性などを鑑みて3種類を選定させていただきました。NPO WASAN様に快くご協力いただいたことで、神田明神と関連性を持った算額の問題を商品のモチーフに扱うことができました。この場を借りて、改めて御礼申し上げます。

和算を普及する会 NPO WASAN 公式HP
NPO和算(WASAN) 特定非営利活動法人 和算を普及する会 (i-wasan.sakura.ne.jp)

いざ、販売開始!


売り場の様子

神田祭でにぎわうGWに狙いを定め、2023年5月初旬より約1か月の期間限定で販売しました。
食品は店頭に置ける期間が限られており、短期間で多くの方の手にとってもらう必要があります。
ここで販売~取り組み~最終成果を少しご紹介します。

外国人観光客はどこを見る?英語版POP作成のコツ
神田明神には多くの外国人観光客が訪れるため、英語のPOPを設置することにしました。
みなさんは外国人観光客がお土産を購入する際に気にかけるポイントをご存じですか?
それは「含有物(ingredients)」です。
日本人に比べると、宗教上の理由や自らの意思で特定のものを食べられない方が多くいらっしゃいます。
POPに英語で含有物を記載したところ、海外のお客様もお買い求めくださいました。


POPの写真

あの、算額があるって聞いたのですが…

さらに①IKIIKIのX ②IKIIKIのinstagram ③乃村工藝社のX の3アカウントを駆使して宣伝をしたところ、同日に複数件「算額の絵馬はどこに飾ってありますか?」というお問い合わせが神田明神文化交流館EDOCCOのインフォメーションに届きました。
私たちは、神社についてリサーチをする過程で「算額」という文化に出会い、
日本にこんな面白い文化があったとは!ぜひ多くの人に知ってほしい!と、算額を商品のモチーフに選んだため、商品の販売を通じて訪れた人に思いが伝わったことは何よりも嬉しかったです。


当該投稿はこちら

EDOCCO SHOP IKIIKI/X(旧Twitter):https://x. com/ES_ikiiki/status/1657166651941613568?s=20 
EDOCCO SHOP IKIIKI/Instagram:https://www.instagram.com/p/CsKYOAoLjzM/?img_index=1 
乃村工藝社/X(旧Twitter):https://x.com/NomuraKougeisha/status/1657951667327995904?s=20 

最終成果はいかに…?

1か月の販売期間を終え、IKIIKIを運営するノムラメディアスの小沼さんと、店長の富永さんより報告を頂きました。

ノムラメディアス/小沼さん
今回の商品は「オリジナル商品」かつ「賞味期限のある食品」であり、残念ながら売り上げランキングの上位には入れなかったため販売を継続することが難しい、という結果になりました。しかし、普段は思いつかないようなアイデアをプランナーの方に頂けて参考になりました。

EDOCCO SHOP IKIIKI店長/富永さん
単品で購入される方が多く、メイン層は50歳以上の年配の方でした。
男性より女性の方が多く、欧米系の方も購入されていました。

 

神田明神の名物お土産をつくる、というミッションの厳しさを目の当たりにしました。
食品は賞味期限が存在する以上、在庫を多く抱えることができません。販売前は考えていなかった「引き際」の判断基準について考えさせられる結果となりました。
また、我々が当初設定していたターゲットと実際の購買層には乖離が見えます。神田明神の来訪者を分析した上で、伸びしろのある学生をターゲットに設定していたものの、そのターゲットにどう届けるかまでは考えが至っていませんでした。ひとつの商品を狙った層に届け、利益を上げ続けることがいかに難しいかを体感しました。

こうして神田明神の新しい名物お土産を目指した『算額絵馬せんべい』の企画・開発・販売を通して、商品開発のプロセスを体験した私たち。
ですが「神田明神のお土産開発」と言えば弊社には大先輩がおられます。

皆様はこちらの商品をご存じでしょうか?

その名も『神社声援』。漢字四文字で「ジンジャーエール」と読む、神田明神の名物お土産のひとつです。
発売当初にTwitter(現X)で話題を呼び、近年ではVTuberグループとコラボしたパッケージでも販売されたこちらの商品。開発された坂爪さんは、神田明神をはじめ、商業施設などでも商品開発を数多く手掛けられています。
ここからは、先輩・坂爪さんに『算額絵馬せんべい』の率直な感想や商品開発のポイントを伺いながら、我々の本業である空間づくりと商品開発にどのような結びつきがあるのかを探っていきます。

“神社声援”の開発秘話を知りたい方はこちら!↓
神社でジンジャエール! バズるヒット商品のつくり方 (nomurakougei.co.jp)

“話題づくり”を意識してストーリーを考える 対談スタート!

山口
本日はよろしくお願い致します。
まず『算額絵馬せんべい』を購入して下さりありがとうございました。感想を率直にお聞かせください。

坂爪
味は間違いなく美味しかったです。
ただ、誰に渡すかのイメージがつきにくい商品だなと感じました。袋の中に算額の問題用紙が封入されているけど、難易度が高いから小さな子どもに渡すイメージにはならない。プロモーションをする際に「誰に渡してほしいか」をもっと言ってあげたほうがよかった。POPにも「誰に渡すか」の情報は無かったと思います。

山口
想定していたシーンとしては
受験生やその保護者が購入して、商品を食べながら難しい問題に挑戦する」というものです。
算額という文化の中にある行動として、誰かが「これを解いてみろ!」と渾身の算額を絵馬に書きつけて奉納する、やってきた人たちはその絵馬を見て算額を解こうと挑戦する、というものがあります。とても面白いと感じたので、商品にもその体験を落とし込みたいと思いました。
発売が当初の想定(2022年12月~2023年1月)からズレたこともあり、狙っていたターゲットである受験生とその保護者へのアピールがしにくくなってしまった面があります。実際、店長さんのお話などを聞いて、最初に意図したターゲットにリーチしきれていなかったと感じました。

 
江戸時代、暮らしの中や遊びの中には算があふれていました。
(左)『絵本珍口記』画:西川祐信 書:甘霖(国文研等所蔵)/データ提供元:ROIS-DS人文学オープンデータ共同利用センター(CODH)
(右)『解見題』著:関孝和

坂爪
なるほど。算額と神田明神にどのようなストーリーがあるのかを、もっとアピールしてもよかったね。
経験から言うと学問や勉学という点でアピールするとターゲットが絞られるので、商品を売るという点ではそこが難しかったのかなと思います。算額という文化も、例えば絵馬や七五三といったものと比べてしまうと知っている人は少ないし。
神田明神のお土産を作る、というテーマだったから、神田明神と特別なつながりがある「算額」をモチーフとすることにこだわった気持ちはわかる。問題用紙を入れるだけでなく、パッケージでストーリーを説明するとか、他のフックがあればわかりやすかったのかな。

山口
ありがとうございます。
確かに「算額をつくろうコンクール」について、もっと色々な場所でアピールできたらよかったと思います。

坂爪
この商品がバズるかどうか、という方面の議論はしていたの?

中田
序盤はできていなかったです。終盤、売り場をどうするか考え始めたタイミングで、Twitter(現X)を使った広報活動やPOPを使った宣伝を行いました。
坂爪さんは今まで「バズる商品」を多数手掛けられていますが、話題づくりという点に関しては、商品開発のどの段階から考えはじめていらっしゃいますか?

坂爪
神田明神の『だいこくさまサブレ』については、最初から修学旅行生をメインターゲットとしてつくろうという意識があった。親戚に買って帰って配ってもらえるように、個包装にしています。また『招福最中』というものもあるけど、これは女性向けの製品が少ないよね、という話からスタートしている。クローバー型で「幸福を招く」というテーマが伝わりやすいパッケージの商品をつくりました。
『算額絵馬せんべい』は、算額と絵馬の要素が両方あるから、どちらかにふってストーリーを組み立てていくのが良かったかもしれないね。

中田
実際、少し考えてはいました。
絵馬型のクッキーとチョコペンをセットで販売して、お願いを書き込めるようにするとか…。

坂爪
自分の願いって他人にあまり見せたくないから、そうやって自分で願いを書いて食べちゃえるような商品は案外良いかもしれない。
必要とされる場面を想像して、話題を生むようなストーリーを描いて、商品を考えていくのが大事。

魅力をつくるための「相棒」探し

徳永
商品開発では、案件の内容によってコスト(配送費や制作費)とクオリティ(製品の質)のどちらに比重を置くかが分かれると思います。
今回、私たちはコストを最重要視していましたが、パッケージや同梱物のクオリティとのバランスをとるのにとても苦労しました。坂爪さんは日頃どのように考えて決めていらっしゃいますか。

坂爪
例えば『神社声援』は、多少のコストがかかってもクオリティを重視しました。
このときは佐賀の飲料メーカー・友桝飲料さんと商品開発をしたけれど、他が追随できないほどクオリティが高くオリジナリティある製品をつくっていらっしゃった。
だから、最初は遠くても静岡県くらいにある飲料会社でお願いしようと考えていたけど、製品を見て、販売価格に配送費が上乗せされるとしても競合にクオリティで勝てると考えなおしたんです。

徳永
『神社声援』は見た目も素敵な商品ですが、パッケージのクオリティでこだわった点はありますか?

坂爪
こだわりのひとつとして挙げられるのは、ラベルを透明なものにしたことです。例えばお祭りのときに、氷水に入れてどぶ漬けにして販売するかもしれない。その時に紙のラベルだと剥がれてしまってかっこ悪いでしょう?
あとは首に御守をかけられるように、飲料としては珍しい「いかり肩」の瓶にしています。
またラベルのデザインは、神社のお仕事をよくされているグラフィックデザイナーさんにお願いしました。

徳永
魅力的な商品をつくる第一歩には、パートナー選びが大切というわけですね。

空間づくり×商品開発でオンリーワンの価値を生む

山口
最後に、商品開発の「その後」についてお話を伺います。
『神社声援』は、容器の瓶を神田明神に返却することで5円(ご縁)が返ってくるというリサイクルの取り組みが、商品開発で終わらない素晴らしい企画だと感じました。

坂爪
あれは「購入した人がもういちど神田明神に来てくれるように」という狙いもあります。
だから、その場で飲み干した人にもサプライズで渡している。
本殿の中でお参りする「正式参拝」をしたとき、最後にお返し品としてお神酒を渡すしきたりがあるけど、神田明神では今ではその代わりに『神社声援』を渡していたりします。

山口
消費者の行動まで企画設計が及んでいるんですね。
開発した商品によって、自分たちが手掛けた空間の体験性を向上させて、お客さんを呼ぶことができる。
それは私たち空間づくりの会社が発注者に提供できる付加価値だなと感じました。

坂爪
EDOCCOと、そこに置くお土産をあわせてつくるというのもそうだけど。
例えばカフェをつくるとしても、施設をつくるだけに留まらず、カフェメニューの内容やPOPなどのグラフィック各種も手掛けている例がうちの会社には存在する。
単なる休憩のカフェをつくるというだけなら、乃村工藝社がやる意味がなくなってしまうから。

中田
乃村工藝社として、その空間での体験をより豊かにするということが求められているんですね。

坂爪
そうだね。やはり我々の本業は空間づくりなので、商品開発というのは経験を積まないとできない。
だけど経験者が居れば案外やれるものだから、これからもチャレンジしていってほしいと思います。

山口・中田・徳永
大変、参考になりました。本日はありがとうございました!

まとめ
①商品開発においては「ストーリー」が大事。
②魅力をつくりあげる相棒を探すべし。
③乃村工藝社のプランナーが行う商品開発は、空間の体験性を向上させるためのもの。

プロジェクトを通して、感じたこと

山口
私は企業コミュニケーション施設を手掛ける部署に所属しています。クライアント企業からミュージアムや工場見学施設のノベルティの提案を求められることもあります。商品を持ち帰ることは、施設で過ごしたことを思い出す空間体験の持ち帰りにも繋がり、長期的な企業と消費者の接点づくりにもなるので、今後も機会があれば商品開発に携わってみたいと思いました。

中田
私は普段、エンタメ空間や商業施設など、ユーザーが消費行動を行う空間づくりに携わることが多いです。 “モノを買う”という体験に対して、商品開発という方向から提案できるようになったことは、今後に大いに生かせそうです。その際には、商品をきっかけに来場者が増えるような話題を生む仕掛けを積極的に考えてみたいと思います。

徳永
普段は博物館や科学館といった文化施設づくりに携わっています。今回、商品開発に携わって実感したのは「パートナー選び」の大切さ。いつか、地域にゆかりのあるクリエイターや企業と組んで、施設との素敵なストーリーが生まれる「ミュージアムのお土産」を作ってみたいと感じました。実は私の部署にも商品開発に明るいプランナーの方がいらっしゃいます。その方を見習って、いつか機会が来たときに備えようと思います。

体験性を向上させることで、ただの空間がオンリーワンの空間になっていく。
そして体験性を上げるためには様々な施策が考えられ、お土産に代表される「その場所でしか買えない商品」もそのひとつであると、今回の商品開発を通して実感しました。
プロジェクト一同、空間創造のプロフェッショナルとして、今後も機会があれば空間の体験性を向上させるような商品の開発に挑戦していきたいと考えています。
最後になりましたが、
こころよく受賞作品(算額)の使用許諾をくださったNPO法人WASAN様、
神田明神のご関係者の皆様、インタビューにご協力くださったEDOCCO店長・富永さん、
推進を見守ってくださったノムラメディアスの小沼さん、プロジェクト関係者の皆様に
心より御礼申し上げます。ありがとうございました。

 

神田明神公式HP リンク
Home|江戸総鎮守 神田明神 (kandamyoujin.or.jp)

EDOCCO 公式HP
EDOCCO 神田明神文化交流館 (kandamyoujin.or.jp)

和算を普及する会 NPO WASAN 公式HP
NPO和算(WASAN) 特定非営利活動法人 和算を普及する会 (i-wasan.sakura.ne.jp)

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「空間の付加価値」を模索する若手プランナー3人組

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