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- 産地連携「手ザイン」チーム
木材との新しい関係は、手で考えることで生まれました。「手ザイン」プロジェクト
2023年11月21日、22日の二日間、サステナビリティとデジタルの2つの視点から空間の未来を考え、新しい可能性を共創する「NOMURA FUTURE INSIGHTS」が、お台場の乃村工藝社本社で開催されました。そのイベントの一つ「SOCIAL GOOD MARKET」では、乃村工藝社グループ全体で100名を超えるメンバーが活動するソーシャルグッドR&Dの成果を発表しました。
その中のサステナブルデザイン分野で異彩を放っていたのが“手で考えるデザイン「手ザイン」”のコーナー。2020年度に実施されたもりまちドアの進化形ともいうべきプジェクトです。
本稿は、乃村工藝社グループのソーシャルグッドR&Dから生まれた「手ザイン」の活動を紹介するレポート記事です。
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答えは、この手の中にあるかもしれない
このプロジェクトは、ノムラのクリエイターたちが歴史ある西川材の産地・埼玉県飯能市を訪れ、林業・木材加工業事業者を訪ね、森を歩き、地域の文化に触れ、産地の人たちの木に対する想いに触れた「産地体験会」から始まりました。長い年月を経て育てられた木の様々な表情、多くの部分が木材として使われずに燃料になってしまうことなど知り、流通に乗らない端材などにも手を触れました。そこで今まで気づかなかったマテリアルとしての木材の利活用の方法はないだろうかと各々に問いかけました。そしてその答えは、自らの手の中にあったのです。産地に身を置き、木材の背景を知り、素材に手を触れ、加工しながら手で考えることで他にないアイディアを生み出す。その途中成果が今回の展示です。
思わず木材の表面に触れたくなります。
たとえば、「木×触媒」をテーマに、木材と重曹、木酢酸などを掛け合わせて化学的な色の変化を実験したもの。藍で染めた上で様々な加工を施したもの。木材の表面を畳のような表情に削ってみる。金属粉を使って光沢を加える。製材時に出る端材をつかって造形する等々。クリエイターの手から、思いもよらない木材の新しい可能性が生まれてきました。
木材を化学的に変色させる実験(埼玉県飯能市 木工房「木楽里」にて)
多くの方が関心をもった「手ザイン」ブース
「手ザイン」プロジェクトに、ルームを率いて参加している井上裕史と産地側でのコーディネイト等でご協力いただいた合同会社西川Rafters代表の若林知伸さん、もりまちドアからこのプロジェクトに取り組んできた未来創造研究所サステナブルデザインラボの梅田晶子が想いを語ります。
スギ、ヒノキを本当に好きになるためのR&D
井上
ホテルなどの案件が多いデザイナーの立場から、本音を言うとスギやヒノキは使いにくいです。材質が柔らかいし、木目の表情がどうしても和風になってしまう。スギやヒノキを使うことの意義は理解し、使おうという想いはあるのですが、義務的な想いだけでは豊かな創造につながらないと思います。デザイナーとして本当にスギやヒノキを使いたくなるためには、自身と木材との距離を縮める必要があると思いました。情報を見たり、耳で聞いたりするだけではだめで、自分の手で触れ、削ったり、染めたり、割ったり、叩いたりして、自分が使いたいと思う木材の表情を見出す必要があると思いました。
このプロジェクトはスギやヒノキという木の素材をデザイナー自身が心から好きになり、そこから想像を広げるためのR&Dです。それともうひとつ、最近のデザイナーはパソコンでCGを描き、メーカーからサンプルを取り寄せて確認し、実際に組み上げるというスタイルが一般的になっています。でも世界中のデザイナーとインプットが同じでは、当然、アウトプットも似たようなものになってきてしまいます。そういうクリエイティブワークはやがてAIに置き換わってしまうでしょう。そのことにクリエイティブの危機感をずっと抱いていました。今回は、手間はかかるけれど実際に手を動かし、手で考えてつくってみることに挑戦しています。そうすると同じ木なのに一人ひとりまったく違ったものができてくる。それがオリジナリティになり、ノムラらしさになっていくと思います。
デザインを手でやることから「手ザイン」と名付けています。活動は始まったばかりです。この取り組みをイベントごとにせず、習慣にして継続して行っていくことが大切だと考えています。そうすることで僕たちが義務感からではなく、本当に好きでスギやヒノキを使いたいと思うようになり、結果的に国産材利活用につながると思います。
乃村工藝社 井上裕史 デザイナー
クリエイティブ本部 第一デザインセンター デザイン4部 井上ルーム ルームチーフ
山側の意識改革も必要
若林さん
7月の日帰り産地体験会が終わった後、参加者の皆さんがすぐに家に帰らずに飯能の駅前の中華屋さんに集まって、自主的に討論会が始まるということが起きました。そのときに出た意見から10月の2泊3日の体験会の企画が生まれました。目的はふたつあって、ひとつは飯能市博物館で地域の歴史・文化を学んだり、古い蚕屋*を見て年月を経た木材の魅力を再発見したりするフィールドワーク。もうひとつは木材そのものに対峙し、手を動かし加工しながらマテリアルとしてどう使えるのかを考え、クリエイティビティを刺激する経験を得ようというものでした。
デザイナーの皆さんから、すべてがパソコンで完結してしまうデザインの仕方への悩みがあることを聞き、都心に近い木材産地の飯能なら、気軽に訪れて木材に触れていただくことができるので、お役に立てるかもしれないと思っています。地元の人たちは「もっといい木をたくさん使って欲しい」「節がない役物の柱を使ってほしい」とおっしゃるのですが、もちろん使っていただけることに越したことはないのですが、今の都会の人たちはそもそも木を知りません。まずは木を使うデザイナーの人たちに木に触れてもらい、新しい魅力を見出してもらうことが必要だと思います。
今の段階では大した量の活用にはならないかもしれませんが、木材として使われていなかったものが、何らかの形で空間デザインに生かされることは大きいと思っています。価値がないと思われていた端材でもアイディアとデザインの力で新しい価値を付加できます。そのあたりは我々山側の意識改革も必要だと思います。
*蚕屋(こや):養蚕のため蚕を飼うための家や部屋
合同会社西川Rafters 代表 若林知伸さん
未来につながる「手ザイン」をしたい
梅田
「もりまちドア」は、産地体験を通じて林業・木材事業の方々とクリエイターが出会う入り口をつくるものでした。産地体験会にはこれからも社内の多くの人に参加していただきたく、去年からは新入社員研修にも採用されています。
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でも、産地の体験で気持ちは変わっても、実際の木材利活用はそれぞれの担当業務での取り組みに委ねられていました。どうしたら産地での気付きを活かした木材利用を探究、実現しやすい環境をつくれるかが課題と考えていました。7月の日帰り産地体験会の後、参加したクリエイターから、「手で考えるデザインがしたい」という声が上がってきて、今回展示しているプロトタイプ制作につながる2泊3日の体験会を実施しました。飯能に行く前に2、3人でチーム分けをして、“空間を構成するもの”というゆるやかなテーマで、木材にどんな加工をしたいかを予め考え、材料や道具等も用意して臨みました。でも、実際に製材のデモンストレーションをみて、様々な木材・端材から使いたいものを選んだり、加工したりする過程で思い付いたことも多くありました。
この取り組みの実現は、受け入れ、サポートしてくれる産地側の方々との日頃のコミュニケーションが背景にあります。このような活動から生まれるデザインであれば、完成する木質空間はもちろん産地の産業も森も豊かになる木材利用を共創していけるはずと、私たちは考えています。プロセスとアウトプットをどちらも大切にしながら、ゆくゆくは「手ザイン」で生まれたアイディアをお客様の事業空間へ展開したり、地域の方々に役立てていただいたりして、森づくりと空間づくりの未来につないでいきたいと思っています。
乃村工藝社 梅田晶子 プランナー
クリエイティブ本部未来創造研究所 サステナブルデザインラボ
次回は、「手ザイン」プロジェクトのメンバーに展示作品への想いをお聞きします。
文:岩崎唱
【手ザイン出展情報】
4月21日(日)まで東京ミッドタウン日比谷で開催中のイベント「木と生きる」へ、下記内容で手ザインが出展しています。是非足をお運びください!
・19日(金)18時から:セミナーへ井上裕史登壇(参加無料・要申込)
・一階アトリウム:空間演出
・B1F地下通路:手ザイン試作品実物展示
https://www.nomurakougei.co.jp/news/page/6684/
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