生活者の行動変化を予測し、
未来の空間を洞察する

未来創造研究所
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2030年のライフスタイルや空間は、一体どのような変化をしているのでしょう?乃村工藝社の未来創造研究所は、いま世の中に現れている「兆し」を分析することで“未来の空間”を洞察するプロジェクトに取り組んでいます。その最初の成果として、「生活者の11の行動変化」を予測した未来洞察レポート「Re:ZONING フェーズⅠ」を24年4月にリリースしました。7月に行われたトークセッションでは、このレポートを題材に、これからの生活者はどのように変わり、生活者を取り巻く空間にはどのような変化が予測されるのかを登壇者の皆さまと話し合いました。

【登壇者】
パナソニック ホールディングス株式会社
コーポレートR&D戦略室 パナソニックラボラトリー 飯田 裕美さん

パナソニックのR&D部門でデジタルAV機器向け組み込みソフトウエア開発を担当後、マーケティング部門でデジタルマーケティング業務に従事。その後、現部署で新規事業などにチャレンジする社員の伴走者として未来洞察などイノベーションプロセスの実践と研究を担当。未来洞察活動「KIZASHI LAB」では、社員による未来のシナリオづくりをしている。

株式会社日建設計総合研究所
執行役員 公共空間デザイン・マネジメントビジネスリーダー 小川 貴裕さん

日建建設入社後、日建設計シビルを経て、日建設計のシンクタンク部門である日建設計総合研究所に転籍。土木設計から都市計画、まちづくり、都市経営戦略まで幅広く取り組み、現在は官民連携による公共空間利活用や地方創生ビジネスを中心に活動中。同社の、まちの未来に新しい選択肢をつくる共創プラットフォーム「PYNT」の活動では、10個のFUTURE COLLECTIVEをありたい未来のテーマとして掲げている。

株式会社乃村工藝社
クリエイティブ本部 未来創造研究所 NOMLAB 部長 山口 茜

デザイナーとして企業や地域のプロモーションの空間・展示、体験型コンテンツなど、幅広いディレクションに関わる。ダイバーシティ、SDGsなど社会課題に向き合うプロジェクトが増えたことから、自社のソーシャルグッド戦略も兼務し、2024年から未来の空間創造に向けたR&D活動を行う未来創造研究所 NOMLAB部長を担当。

モデレーター
株式会社乃村工藝社

クリエイティブ本部 未来創造研究所 所長 斎藤 雄一

プランニング職として大手民間企業を中心としたブランディング、コミュニケーション空間づくりに取り組む。2021年より自社のソーシャルグッド戦略を立ち上げ、2024年よりプランニングプロデュースセンター長と未来創造研究所長を兼務。

私たちは、なぜ未来を洞察するのか


モデレーターを務めた未来創造研究所の斎藤雄一

斎藤
私たち未来創造研究所は”創造的研究機関”をコンセプトに活動しています。その研究対象にはさまざまなテーマがありますが、その出発点として“未来の空間がどうなるのか”を掴もうという未来洞察プロジェクトに取り組んでいます。

未来創造研究所 NOMLABを率いる山口茜

山口
未来洞察に挑むきっかけは2つありました。ひとつはコロナ禍に周囲からこの先リアル空間の仕事がなくなりデジタル空間に移行するのでは?と散々言われたときに、それに対してリアル空間の必要性を、エビデンスを基にちゃんと説得することができなかったことです。世界にどんなことが起きてもリアル空間の価値はなくならないと言い切れるように、さまざまな可能性を考えてしっかり準備しておくべきだと痛感しました。

もうひとつが、私が管理職になったこともあって以前よりたくさんの情報が集まるようになり、世の中の“兆し”が見えてきたことです。世の中の“気分の始まり”のような、小さな動き出しがよく見えてきました。この“兆し”をしっかり分析すべきだと思いました。

そんなときに未来創造研究所が発足すると聞き、是非こういった取り組みをここでやりたいと思い、提案してスタートしたのがこのプロジェクトです。未来洞察をすでにやられている皆さまからすると全然甘いところも多々あるかと思いますが、皆さまのご意見をお聞きしながら、我々ならではの空間づくりの視点からブラッシュアップしていきたいと思っています。

目の前にある“兆し”を集めて未来を読み取る

斎藤
プロジェクトを進めるうち、まず生活者の意識や行動が変わり、その後に空間が変わっていくという2段階のステップがあることが分かってきました。そこで、最初の1年は生活者の行動変化に注目し、生活者の“兆し”を集め分析することで生活者の意識や行動の変化を予測するフェーズに取り組みました。

“兆し”を集めるために先進的な消費者群のデータベースを持っている企業の協力を仰ぎ、さらにチームのメンバーたちがメガトレンド、技術トレンドを眺めながら世界中のニュースやSNSの情報を集めました。壁一面に情報を貼るというアナログな手法で、半年間にわたりディスカッションを重ねました。

未来洞察に当たって前提となる社会変化が3つあります。1つ目は社会構造の変化です。いちばん基本的な未来予測は人口動態で、自明な課題が少子高齢化です。それが進んでいくと人口の変化だけでなく、年金や医療費の課題が現れ、政治や政策が変わり、私たちの働き方まで影響が及んできます。

2つ目が価値観の変容です。SNSの影響が大きいと思っていましたが、その背景には地縁や血縁が弱まり、家族が小さくなり、地域の目を気にしなくなったという変化が根底にあるようです。そして、3つ目がテクノロジーの変化です。VRやメタバースなどの変化は意外とゆるやかですが、逆に急激に進んでいるのがAIです。


トークセッションには社内外から多くの方々が参加

マクロな変化から見出した「Re:ZONING」というテーマ

斎藤
”ゾーニング”という概念は、空間づくりではとても重要なものです。いま、このゾーニング、つまり境界のつくり方が変わってきています。最近の例をあげればジェンダーのテーマが分かりやすいでしょう。これまで男性・女性の2項だったものが曖昧になってきました。そうなると、例えばトイレのゾーニングが変わってきます。つまり生活者の変化から空間の変化が起こっているわけです。

こうした分析から、未来創造研究所は未来の空間を洞察する11のインサイトを提示しました。本日のセッションでは、その中から8つのインサイトを選び、セッション1として“家族と仕事、セッション2として“技術と幸せ”、セッション3として“環境と暮らし”の3つのセクションに分けて、ディスカッションしていきたいと思います」。


セッションで話し合われた8つのインサイト

セッション1…家族と仕事にまつわる未来洞察

家族と仕事にまつわる3つのインサイト

斎藤
1つ目は“家族とコミュニティのRe:ZONINGボーダーレス・ファミリー”です。血縁がなくても家族になれる?という問いを設けました。少子高齢化社会が進み、単身世帯の割合が1980年に約2割だったのが2020年には約4割に増えています。単身世帯では、若者も高齢者も孤独を感じる人が増えています。そんな中でクリエイター同士60名が拡張家族として一緒に生活をするという事例(兆し)が見られます。今までは血縁をもとに家族が構成されていたのが、血縁はなくても疑似家族的に暮らすボーダーレス・ファミリーがどんどん現れてくるかもしれません。実は山口が、お隣の方と面白い関係を築いているので少しご紹介していただきます。

山口
5年ほど前からお隣の家族と主に週末の共同生活のようなものが自然に始まりました。例えば、土曜日に息子が野球の練習から帰ってくるとお互いの家の間にあるスペースで一緒にビールを飲み始めて、夜になると自然とどちらかの家に集まって一緒にご飯を食べます。長女は塾帰りに「今日どっちでごはん?」と連絡をしてきます。その日のキッチンは片方しか使わないし、洗い物も片方だけでいい。楽しいからやっているだけですが、実際楽だし、意外とこれって効率的だなと思っています。

斎藤
こういうのがまさにトライブというものかもしれませんね。さて、2つ目は“ONとOFFのRe:ZONING サード・プロジェクト”。今まではっきりと分かれていた仕事とプライベートの境界線が曖昧になっています。仕事と趣味、仕事と学び、仕事と投資を兼ねた、知的好奇心を追求する第三の活動、つまり”サード・プロジェクト”を始める人が増えていくかもしれません。そして、3つ目は“オフィスと現場のRe:ZONING パラレル・ワークスタイル”。AIが登場してオフィスの生産性が向上し、オフィスワークの総量が減少していく可能性があります。一方で皆さんも実感されている通り、現場のフィジカルワークは人手不足が進行しています。その結果、オフィスワークとフィジカルワークが曖昧になっていき、現場仕事が人気の職業になっていくかもしれません。企画やデジタルに強い人が現場に流入することで、そこから新しいイノベーションが生まれるかもしれないという洞察をしています」。

飯田さん
私たちも未来洞察の活動をしていて、ボーダーレス・ファミリーによく似たシナリオをつくっていたので簡単にご紹介します。それは去年つくったシナリオで、2035年に新たな生活共同体“寄り合いKAZOKU”が生まれるというものです。家族をKAZOKUとローマ字表記にしたのは、いわゆる血縁の家族でないという意味です。

“寄り合いKAZOKU” に関するシナリオ(パナソニック ホールディングス株式会社)

こういう未来になったら、いわゆる血縁による家族、同じ屋根の下で暮らしている家族の在り方が変わると思います。そうすると世の中のいろいろなものが変わっていかないといけない。こうなるから、こうしてくださいではなく、こうなるとしたら、皆さんどうします?という問いかけとして未来のシナリオがあると思っています。


パナソニック ホールディングス株式会社の飯田 裕美さん

小川さん
家族や仕事では、帰属意識が重要だと思っています。特に日本人は地域や土地に対する帰属意識がとても強いです。一方で会社に対する帰属意識ですが、最近の若い方はずっと同じ会社に勤めるのではなく何年かごとに転職してキャリアアップしていく方が多いです。私の会社でも、転職したり、独立したり、仕事をしながらMBAに通ったりという若者が増えています。私も仕事は会社の名前でするのではなく、自分の名前でするというように考え始めました。結局、仕事をするのは人と人ですからね。会社間でいうとJVという言い方になりますが、会社の枠組みを超えて個人と個人で仕事を進める。ボーダーレス・ファミリーじゃなくてボーダーレス・カンパニーもあるのかなと思いました。

株式会社日建設計総合研究所の小川 貴裕さん

斎藤
いま小川さんから帰属意識というキーワードが出てきましたが、たまたま私と山口が関わっているオフィスのプロジェクトでも、オフィスを考える時に帰属意識が大事という話が出てきました。

山口
コロナになって、フリーアドレスのオフィスが多くなっています。自分で場所を選んで働ける環境になったのはよかったのですが、なんか心許ないという感覚が出てきて、次につくるオフィスは帰属意識というか家族感が大事なのではと思っています。小川さんがおっしゃった個人が立ってくるというのはまさに同感で、カンパニーという形を成しているけれど基本的には個人の集合で、個人と個人がつながって何かを生み出していく、という流れがあると思います。

飯田さん
今まで仕事とプライベートは二項対立だったのが、そのボーダーがなくなってきたのだと思います。別の視点から見ると、イノベーションはそういう二項対立の間にあるところから起こると思っています。ボーダーレス・ファミリーやサード・プロジェクトのようなところから、新しい何かが生まれてくるのではないでしょうか?あえてそういう場所、空間をつくっていくといいのではないかと思いました。

セッション2…技術と幸せにまつわる未来洞察

セッション2で話し合われた8つのインサイト

斎藤
今回のプロジェクトでは、健康というテーマをどう扱うかについて議論が弾みました。身体的な健康はもちろんですが、心の健康が重要だということから“心と健康のRe:ZONING マインドフル・デザイン”というインサイトが生まれました。いまストレス社会の中でメンタルケアやマインドフルネスに対する関心が高まっています。メンタル状態を記録するアプリが開発され、体重計でヘルスチェックをするように自分のメンタル状態を把握しようとしている人たちも現れています。それが進んでいくとオフィスやホテル、乗り物など日常の空間の中にメンタルケア機能が組み込まれるでしょう。住む街や職場を選ぶ基準が“心の健康”になるかもしれません。

2つ目に取り上げるのは“福祉と技術のRe:ZONING インクルージョン・テック”です。福祉は未来洞察をする上で欠かせないテーマですが、ここでは“誰もが技術で幸せになれるかどうか?”ということを考えてみました。今後、要介護人口は増えていきますが、介護が必要になってからどうするかを考えるのではなく、その5年、10年前から本人も家族もそれに備えようという意識が芽生えてきています。技術を使って介護する方の負担を軽減し、介護される方の楽しみや喜びを創り出し、双方のQOLを高めていく、そんなことが当たり前になるかもしれません。

3つ目は“人間とAIのRe:ZONING AIメイト”。果たしてAIは人間のパートナーになるのでしょうか?この洞察を行ったのは半年前ですが、すでにAIをとりまく環境は変わって来ていて、洞察ではなく当たり前のことになっているのかもしれません。Chat GPTを仕事などに活用している方は多いと思いますが、AIを仕事の効率化のためではなく、相談相手という感覚で使う人が現れ始めました。仕事のためのツールだったAIが、生活や感情を共有するパートナーに変わっていき、1人にひとつのAIがパートナーとして寄り添うライフスタイルが当たり前になるかもしれません。

飯田さん
AIをどう使うかは、私たちも注目しています。未来洞察的に見たときに私たちがAIをどう捉えているかを少しだけご紹介します。当社ではグループ会社の社員から毎年20人ほどを公募で集めて、未来のシナリオづくりをワークショップ的に行っています。AIに関するシナリオは悲観的なものが多いのですが、人間に変わって究極の公平な判断ができるAIに、あらゆる判断を任せたら国際紛争もなくなり戦争をする必要がなくなるのではないか、というシナリオがありました。

未来のAIに関するシナリオ(パナソニック ホールディングス株式会社)

しかしそのシナリオの最後には、全てをAIが判断するようになるのは、人間にとって幸せなことなのか?という問いかけもありました。AIに対する見方は、いいこともあれば、悪いこともある。使い方次第で変わるということです。AIが進化すればするほど、私たちはそれに惹きつけられていきますが、技術者目線では危機感も抱いています。

小川さん
バイオフィリックデザインというコンセプトがあります。これは、人間は基本的に自然を求めていて、植物や土に触れることで幸せになるという概念です。最近、海外では緑を増やそうとしている都市がありますし、駐車場をつぶして公園に変えて歩行空間にしよう、そんな動きもあります。人間と自然との関係は、AIにはできないことだと思います。

ひとつ事例をご紹介すると、当社でCVMという手法を使って学生にアンケートをとりました。紙コップに入ったコーヒーの写真を見せ、あなたはこのコーヒーをいくらで買いますか?という質問をします。ただしひとつはゴミの山の写真も同時に見せ、もう一方は緑がある屋外の写真を見せます。するとゴミの山の方のコーヒーの値付けは0円~50円、緑がある屋外の方は150円~350円という差が出ました。一緒に見せる写真が違うだけで同じコーヒーにこれだけの値段が変わりました」。

山口
自然ならではの価値への回帰というところでは、NOMLABでも研究を始めています。AIなどの技術が発達すればするほど人間はコントロールしにくい自然由来の現象を求めるようになるのかなと思います。

セッション3…環境と暮らしにまつわる未来洞察

セッション3で話し合われた2つのインサイト

斎藤
最後のセッション、まずは“消費と循環のRe:ZONING モッタイナイ・バリューの登場”。地球のために循環させるという意識よりも、モッタイナイから循環させるという意識が強くなっています。中古品を修理してくれるアウトドアメーカーが若者から支持され、商品を買う時にそれがちゃんと修理できるかどうかを気にする人たちが増えています。また企業もモッタイナイのアプローチでモノづくりを始めています。今までは大量生産、大量消費で短期的にモノづくりを繰り返していたのが、長期的に使うことがテーマになっています。これからは、中古品は新品より価値が低いという意識が変わっていきモノを長く使うことを前提とした消費行動が一般化するかもしれません。

そして最後にご紹介するのは“人間と環境のRe:ZONING クライメイト・フィット”という洞察です。夏の暑さは年々厳しくなっていますし、豪雨などの自然災害も増えてきています。今までは気候変動をいかに防ぐかというライフスタイルを重視していましたが、もう起きてしまっているのだから気候変動にライフスタイルを最適化させていこうと考え始めるかもしれません。季節に合わせて移住するとか、今まで住宅では使われてこなかった地下空間を活用するとか、そんな暮らし方になっていくかもしれません。

小川さん
建物を建て替えるときに、建築材料をリサイクルするという話もありますが、最近のトピックでは、大阪万博のリング(大屋根)の周りに木が植えられるのですが、この木は大阪府内の公園で育てられたものや1970年のときの大阪万博会場にある木を移植しています。リサイクルという考え方もありますが、レガシーをつなぐという考え方もモッタイナイの中にあると思います。

また、レガシーという視点で言うと20年に一度の伊勢神宮の式年遷宮は技術継承が目的だと聞きますが、技術や人材を継続して育成していく、持続させていくということも並行してやっていかないといけないと考えています。

斎藤
建築に比べるとサイクルがずっと短い家電業界のパナソニックの飯田さんはいかがですか?

飯田さん
家電製品の寿命は10年ぐらい、中には20年使われる方もいますが、100年使うことはまずありません。そのなかで私たちはサーキュラー・エコノミーの中で家電事業を行って行けるかを模索しています。実験的に100年使える家電製品を検討したこともあります。家電製品は購入した時の価値がいちばん高く、使うにつれ価値が下がっていくのが宿命です。それを、例えばヴァイオリンなどの楽器のように、年月が経つほど価値が高くなるようにできないかなあと妄想しています。

斎藤
ちなみに…もしも100年使える家電ができるとビジネス的には厳しくないですか?

飯田さん
いわゆるサブスク的なところで利益をあげることになるかと思います。メンテナンスに対して対価をお支払いいただくようなビジネスモデルにしていく必要があります。

斎藤
当社が手掛けている内装はサイクルが早く、平均7年といわれています。そのあたりで山口さんは思うところがありますか?

山口
建築業界では、躯体を残して表層や設備だけ変えることがたくさんあると思いますが、内装空間を改装するときは内装壁などすべて撤去して新たに建て直してつくるのがほとんどです。だから毎回たくさんのゴミがでてしまうのですが、先日、築15年の子ども施設の案件で、内装壁や内装材ごとアップサイクルしてほしいという依頼がありました。初めてのことなので最初は戸惑いましたが、手掛けてみるといろいろなパーツを組み替えるなどおもしろいアップサイクルができました。そのとき感慨深かったのは、内装の壁の裏側(普段一般の人が目にすることのない場所)がとても丁寧につくってあったことです。この案件は乃村工藝社の先輩たちがつくったものなのですが短い期間しか使わないのだからと簡易につくっておくのではなく、そのまま次の空間をつくるときにもなるべく受け継がれ、長く使うことができるようにしておくことはとても大事だなと、こういう意識を大切にしていかないといけないと思いました。

未来は予測できるのか?そして予測する意義は?

斎藤
未来洞察のワーキングをしていて思ったのは、未来を正確に予測することも重要ですが、未来をこうしたい、こういう方向に進んでいきたいと考えるようになり、それこそが未来洞察をする上で大事なことではないかと思うようになりました。最後にご登壇いただいいたお二人から、未来は予測できるのか、未来の変化に対して準備できることは何か、未来を予測することの意義などについてコメントをいただけたらと思います。

小川さん
日建設計ではグループ会社の都市関係の仕事をしている社員300人を集めてワークショップを開き、2050年がどうなっていくかを予測しようとしています。2050年は今までの延長ではなく、我々の予想していないことが起こりドラスティックに変わるだろうという想定で、自由に未来を描こうとしています。その中であがってきたキーワードに、人口減少、災害、気候変動、グローバリゼーション、モビリティ、AI、格差などがありました。今それぞれについて議論しながら、2050年の予測をしようとしているところです。

未来予測の意義ですが、自分たちが楽しく生きていくために必要なものだと思います。また、これからは一つの会社で完結するのは難しくなると思うので、いろいろな方々とコラボレーションしながら新しい価値を生み出していくことが大事だと思っています。

飯田さん
未来は予測できるかという問いに対しては、ほぼ正確に予測できる未来もあれば、全く予測できない未来もあると思います。人口動態、技術動向などはある程度予測できます。予測できない未来は、予測できないという前提に立って技術を開発したり戦略を立てたりするのが大事だと考えています。こういう予測できない未来をたくさん想定しておくことが、変化の激しい時代の戦略づくりに重要です。

次に予測することの意義ですが、人材育成や視野を広げるのに役立っていると実感しています。私たち技術者は専門分野に対してはとても詳しく、それについて多く語れるのですが、未来の話になるとみんなポカンとしてしまいます。それでもワークショップで社会変化の仮説をつくろうと声をかけて、さまざまな未来の兆しを紹介すると、だんだん興味がわいてきて表情が変わり、こういう未来があるかもしれないと主張するようになります。いままでは未来洞察は会社の上の人がやることだと思っていたけど自分たちでも予測できるのですね、とキラキラして帰っていきます。

未来のシナリオをつくるのはもちろん大事なのですが、未来を考えるという行為そのものに価値があることに気づかされました。

斎藤
まったく仕込んでいないのですが、未来洞察は楽しい、キラキラするとお二人から共通するお答えが返ってきました。実は我々も最初は予測した未来が正しくないと後で怒られるのではないか、という気持ちが少しありました。しかし、そうではなく、ある仮説を持ちながら、こういう未来にしていこう!と考えていくことで、会社としても元気が出てくるのだ、とこのプロジェクトで感じました。皆さま、今日はどうもありがとうございました。

●2030年の空間はどうなるのか。「未来洞察レポート Re:ZONING フェーズⅠ」のダウンロードはこちらから。

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