人と人とのつながりづくりで、地域ににぎわいをもたらす場づくりを

伊藤 雄飛
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伊藤 雄飛

序文:
宮城県仙台市の沿岸部に位置する深沼(荒浜)地区、震災の爪跡が残るこの地域に「深沼うみのひろば」が2023年10月にオープンしました。
本プロジェクトでは、施設のオープン前にプレイベントを実施することで、地域住民や地元企業とのつながりづくりを行いました。施設のオープニングイベントには、プレイベントでつながったたくさんの方にご参加いただき、場ににぎわいが生まれました。

本稿では「みんなが自分事化する場づくり」をテーマに、プレイベント・オープニングイベントの運営に関わっていただいたSTUDIO 080の栃山さん、小関さん、学生団体CARAV@N(以下、CARAV@N)の伊藤さん、菊池さんと弊社・梶村の対談の様子をお届けします。

対談者:

【STUDIO 080】
宮城県仙台市苦竹に位置する新聞印刷工場をリノベーションした東北最大級のシェアオフィス。個人用デスクや個室オフィス、天井高12mのラウンジなど、ワーカーの多様な働き方に応える多彩な空間が魅力。学生団体CARAV@Nの運営も担う。

栃山 剛 さん(写真左中央)
小関 和也 さん(写真右中央)

【学生団体CARAV@N】
宮城の問題解決をテーマに活動する学生クリエイター集団。宮城の海をきれいにする「White Beach」などのボランティア活動を通じて、地元企業と学生のネットワークを育む。

伊藤 匠人 さん(写真左手前)
菊池 優梨 さん(写真右手前)

【乃村工藝社】
梶村 直美(写真左奥)
クリエイティブ本部 プランニングプロデュースセンター 企画2部 第5ルーム
伊藤 雄飛(写真右奥)
ノムログ編集部

*ファシリテーター・コンテンツ企画:梶村 直美(プランニングプロデュースセンター)
*文:伊藤 雄飛(ノムログ編集部)
*撮影:永田 恵美子(プロフォト仙台)

海辺のインクルーシブパーク構想

梶村
まずは、深沼のプロジェクトについて少し振り返りたいと思います。
深沼地区はかつて約800世帯が住まい、半農半漁の暮らしが営まれ、仙台市内唯一の海水浴場としてにぎわっていました。ですが、東日本大震災の津波で被災し、それをきっかけに人の居住や宿泊が禁止されてしまったという背景があります。
そんな人が全く住んでいない場所に、人が過ごす場をつくるため、地域の方々との関係性のつくり方がとても重要でした。

関係性づくりをするにあたりヒントになったのが「よ(結)いっこ」という風景です。かつての深沼地区は住民同士のつながりが強く、何かあれば近隣住民や親戚同士で協力する「よ(結)いっこ」という風景が良く見られたようです。
この着想が海辺の「インクルーシブパーク」構想へとつながっていきます。

2021年に私がこの地域を初めて訪れた当時は、津波によって様変わりしてしまった深沼にかつてのにぎわいを取り戻すため、様々な個人スケールの活動が実施されていました。花の種を入れたエコバルーン(太陽光で自然分解され土にかえる風船)を被災地の空へ飛ばす「HOPE FOR project」」など、もともとは個人で行っていた活動がちょっとずつ広がって、どんどん人の輪が出来上がっている最中にありました。

一方で、仙台市内にはまだまだこの地をどうにかしたい、でも何をやったらいいか分からないという企業・団体がたくさんいらっしゃいました。こういった方々が気軽に参加できる機会として、すべてを失ってしまったまちに「色と音をつくる」をテーマにいくつかのイベントと関わり方をご提案していきました。
今回のプロジェクトでは、地元企業・団体と関わりしろを生み出すための「プレイベント」と、その集大成である「オープニングイベント」が実現しています。
イベントには仙台市周辺の100近い企業・団体にご協力いただいたのですが、これだけ集まったのはSTUDIO 080さんのおかげだったと思います。本当にありがたかったなぁと。

栃山
たくさんの方に関わっていただけて、本当に良かったですよね。

梶村
そうでしたね。
特にプレイベントでは、荒井地区の夏祭りに出向いて風車づくりをしたのですが、炎天下にもかかわらず参加していただいた方々がすごく楽しそうに風車をつくっている様子が印象的でした。

最終的に、風車は700個ほど集まったのですが、700個の風車分関わった人がいると思うととても素敵だったなと思います。
またこういう風景をつくりたいですね。

栃山
ぜひ、もう一度つくりたいですね。

関連記事:福祉とアートで共生社会の実現を――乃村工藝社の挑戦「インクルージョン&アート」

私たちを地域とつなげてくれるパイプ役

梶村
私はこのプロジェクトをきっかけに初めて仙台に来るようになったので、当初は仙台周辺の企業とのつながりがゼロの状態でした。ですが、運送会社である株式会社丸山運送(以下、丸山運送)を基盤としていて地元企業との結びつきの強いSTUDIO 080さんがパイプになってくれたおかげで、私たちも地域に入り込んでつながりをつくりながら仕事に取り組めたと思っています。

また、CARAV@Nさんには、プレイベントからオープニングイベントまで、各イベントの運営をご担当いただきました。地域企業・団体への声かけから、イベントの実装まで一貫して携わっていただいています

学生団体と聞いていたので、イベントのディレクションにあたり色々とサポートが必要かなと思っていたのですが、ふたを開けてみるとサポートは必要なく、イベントの進行も含めてほとんどの仕切りをしていただきました。学生の皆さんがここまでやれるんだということを知れて嬉しかったですし、とても頼もしかったです。


*学生団体CARAV@N

栃山
このイベントをきっかけに、地元やこの団体にも残った子もいます。
例えば、企業に所属せずフリーランスで仕事をしながらCARAV@Nの活動に関わる子もいれば、地域おこし協力隊とCARAV@N両方に所属しているという子もいて…本当にすごいんですよ。

梶村
すごいですね…。
私はこの施設を持続的に回していくために、場づくりにおける“地元企業・団体の関わりしろ(ヒト・モノ・カネ・情報)をデザインする”ことと、そのハブとして“学生に企画・運営の中心になってもらう”ことを計画したに過ぎないのですが、結果的に学生の皆さんの気持ちを動かせていたことにびっくりしています。

シェアオフィスのお悩み相談所

梶村
本日は元印刷工場をリノベーションしたコワーキングスペース「STUDIO 080」でお話を伺っています。対談前に少し見学をさせていただきましたが、地元企業の方で賑わっていましたね。

栃山
ありがとうございます。
2019年のオープンから5年ほど経っていますが、様々な地元企業に入っていただき、彼らとつながりをつくりながらシェアオフィスを運営することができています。


*STUDIO 080内観

梶村
そもそも、このシェアオフィスはどのような思いから始まったのですか?

栃山
このシェアオフィスは、地元企業の事業を継続させていくハブにしたいという思いから始まっています。それを実現する上で彼らと若者の交流は必須だと思っていたので、学生インターンを募集して丸山運送が行っていたシェアオフィスの運営を手伝ってもらうことにしました。
その時のインターン一期生として来たのが彼、小関君です。

小関
そうでしたね。私が大学4年生のときにSTUDIO 080のインターン一期生として参加させていただきました。その後、インターン生として集まったメンバーを中心にCARAV@Nができました。

梶村
学生インターンがどのようにしてCARAV@Nという団体に変化していったのですか?

小関
もともとSTUDIO 080のインターンは宮城には珍しい長期インターンで、その目新しさからシェアオフィスに来ていた地元企業の方に面白がってもらえる機会が多く、自然と学生と地元企業とのつながりが生まれやすい環境でした。
地元企業との交流が深まるにつれて、彼らが悩みをたくさん抱えていることが分かり、学生にも「地元企業のお悩みにできるだけ応えたいね」という思いが生まれるようになりました。
それをきっかけに活動の幅がシェアオフィスの運営から地元企業のお悩み解決というところまで広がり、学生の長期インターンがCARAV@Nという団体に生まれ変わりました。

現在、地元企業で協力して行っている「White Beach」という活動も、もともとはお悩み解決から始まっています。
その時は、タイヤを扱う企業から「震災時にコンテナから海に流れ出たタイヤが、腐食して浜に上がってきているので、それを回収したい」と相談されたことがきっかけでビーチクリーンを始めました。当初は、学生だけでビーチクリーンを行っていたのですが、そこに地元企業も巻き込んで、今では「White Beach」という活動へと拡大しています。


*White Beach の様子

CARAV@Nは、“シェアオフィスの運営という枠にとどまらず、宮城や東北の企業のお悩みに応えることで地域貢献するちょっと変な団体”なんです。

梶村
なるほど、ちょっと変わった団体なんですね(笑)

CARAV@Nというコミュニティの広がり

梶村
CARAV@Nの活動はどのくらい続いているのでしょうか?

小関
ビーチクリーンを始めたのが2021年でしたので、今年で3年目になりますね。
当時のメンバーは学生主体でしたが、現在は社会人として働きつつ、その傍らCARAV@Nで学生の活動をバックアップする、というメンバーもいます。もともと学生団体だったものが、OB・OGも含めたコミュニティとしてちょっとずつ広がっている状態です。

栃山
コミュニティが広がったおかげで、今では地域に貢献したいという強い意志を持った学生がたくさんCARAV@Nに参加してくれています。
地元企業とのつながりをつくって、活動の枠を広げて、さらに多くの学生をコミュニティに呼び込んで…そんな形を最初につくってくれたのが彼、小関くんです。本当にありがとう。

やりがいとワクワク感

梶村
CARAV@Nの活動がうまく持続しているという点から見ても、小関さんが残ってくれていることは大きいですよね。奇跡ですね。

栃山
確かに、なんで残ってくれているんだろう…不思議です(笑)
何せ彼自身すごく面白くて、優秀な上、就活時は大手企業の内定を蹴ってまで、こちらを選んでくれました。その分、こちらとしても彼のことを信頼して責任のある仕事を預けることができてはいるのですが…。

小関
本当に、めちゃくちゃやりがいがあります!
STUDIO 080でインターンをさせてもらった時に、他では味わえないワクワク感を感じて、そのワクワク感に惹かれて今もここに残っています。

梶村
なるほど、どんな所にワクワク感を感じられたのですか?

小関
大きな歯車として動くことができる環境にワクワク感を感じました。
就活期には東北だけでなく関東でも就活をしていて、もちろん関東の企業やそこで働く方たちはキラキラしていたのですが、企業の小さな一つの歯車として働く、という色が強いなと…。

栃山
いや、本当にコメントが素晴らしい。もしかして…台本用意した…?

関係性づくりにはじまる場づくりの可能性

梶村
続いて、「深沼うみのひろば」での取組みについて感想を伺いたいと思います。
伊藤さんは、プレイベントの風車作りから関わっていただいていたかと思いますが、実際いかがでしたか?

伊藤
荒井の夏祭りで子供たちとお父さん、お母さんが笑顔で風車を作っている様子を見て、自分がやっていることが間違っていないなと実感できましたし、「ありがとう」と言ってもらった時に本当に嬉しくなりました。
風車作りをきっかけにオープニングイベントに来てくださった方もいて、そんなきっかけづくりができて良かったと思います。
イベントを経て、CARAV@Nの活動がさらに好きになりました。

梶村
菊池さんはオープニングイベントの時から関わっていただいていましたか?

菊池
そうですね。オープニングイベントからです。

栃山
菊池さんにはCARAV@Nのお仕事体験としてオープニングイベントに入っていただいたのですが、その時にあの場で動いていたスタッフ一人一人に憧れたようで、イベント終了後すぐにCARAV@Nに入ることを決意してくれました。

菊池
はい(笑)イベント2日目の帰り際に小関さんに「CARAV@Nに入りたいです!」とお伝えしました。本気で先輩方に憧れて自分もこういう風になりたいって思いました。
その時は直感的だったのですが、今思えば先輩一人一人に強い思いがあったからこそ、その思いに惹かれたのだと思います。これからもその思いを引き継いでいきたいです。

梶村
ありがとうございます。
オープニングイベントで印象に残っているのは、もともと深沼に住んでいたが震災をきっかけに深沼に訪れることを避けていた方や、そもそも深沼に全く縁がなかった方にもご参加いただけたことでした。
震災に対する複雑な思いがある方の心理的なハードルを下げたり、全く縁のない方に知っていただけたり、1個の風車だけで様々な人があの地域とつながっているということが実感できました。
本当にすごいことができたなぁと思います。皆さんにご協力いただけたからこそですね。

思いに距離なんてない

梶村
深沼をはじめ、さまざまな地域に入り込んで関係性をつくっていく上で物理的な距離がひとつのネックになると思います。離れている場所からある地域に関わって、関係性を構築していくためにどのようなことが重要でしょうか?

栃山
“地域に対する思い”を持つことだと思います。
「あんなことがしたい」、「誰かに助けてほしい」、「一緒にやろう」、そんな強い思いを持っている人がいると、それが原動力になって、一つのゴールが生まれて、周りの人もそれに共感して結束が強くなっていくのかなと思います。

地域に入り込んでいる僕らがやるべきことは、リーダーシップを示して、その思いを一切ぶらさずに発信していくことだと思います。それができると、どれだけ離れた場所にいる人でも、その地域で起こっていることを自分事として受け止めて一緒に活動してくれる。
思いに距離なんて関係ないと思います。

梶村
栃山さんたちは当事者として地域にコミットされていますが、一方で私達は、東京から第三者的な立場でコミットすることが多いです。
縛られることなく自由に発言したり、異なる視点からモノを見たりと、全く地域を知らない第三者だからこその無責任さが私たちに期待される役割なのかなと思っています。その役割を理解した上で、地元の人と連携しながら場をつくることができると、今後の町づくりのあり方を変えられるのかなと。
いつか、うちの会社からそんなことができるといいなって思っています。

栃山
大いにできそうな…(笑)期待しかないですけどね、僕らから見ると。
僕らは“思いを絶対にぶらさない“ということはできますが、それをみんなで共有できる具体的なイメージに落とし込むというところに関しては、梶村さんたちの協力が必要だと思っています。
当事者や第三者といった立場に関係なく、うまく目線を合わせることさえできれば、どれだけ距離が離れていても良いものができるはずです。

たとえ離れてしまっても、ハッシュタグをつけて働く

伊藤(乃村)
学生のお二人は今後就職などで、思い入れのある地域からどうしても離れないといけない、ということがあると思います。そんな中で今後どのように地域と関わっていきたいですか?

菊池
私はCARAV@Nの活動を通じて、地元への愛着が深まりましたし、何よりCARAV@Nの皆さんから受け継いだ情熱をもっと色々な人に発信していきたいと思うようになりました。
ですので、できるだけ地元やCARAV@Nと関わりやすい宮城県内に就職したいです。

伊藤
僕もCARAV@Nとはずっと関わっていきたいと思っています。
ただ宮城にこだわらなくても、出張CARAV@Nとして地元や他の地域を盛り上げるというのも選択肢としてはあるのかなと。
こう思えたのも、この活動を経て世の中には色々な働き方があるなと気付けたからです。地域おこし協力隊でも公務員でも、#町づくりや#地元貢献というハッシュタグを付けて働けることに気が付いたので、自分がやりたいと思うことなら今後何でもしていきたいです。

色々なキャリアパスを描ける場所として

栃山
CARAV@Nの活動の良いところは、色々なキャリアパスを描けることかなと思っています。
答えが一択ってあまりイノベーションが起きないですし、地元にとってもそんなに魅力的なアイデンティティが生まれない。逆に描くことができるキャリアパスの選択肢が多ければ多いほど、その地域は盛り上がっていくなと実感しています。

今ではOB・OGを中心に色々な人たちが、それぞれの働き方をしながらCARAV@Nに関わってくれています。学生たちにとっては、間近でOB・OGの働き方を見て自分のキャリアパスを模索する場になっていて、すごく面白い形になってきたなと思っています。
そして、そんな場所が地域に拡散し、そこに地元企業が加わってくれると良いなと思っています。

梶村
地元企業も…ですか?

栃山
はい、地元企業って本当は地元と密接であるべきなのに、実際はあまり密接になりきれていないと思います。
それはおそらく彼らと学生の間に距離が生まれてしまっているからで、学生たちは企業を認知していながらも、そこに就職するという選択をしづらいのかなと。
僕らとしてはSTUDIO 080に入ってきた地元企業と地元愛のある学生をつなげることで、双方にとってよりよいキャリアパスが描ける場所をつくっていきたいと思っています。
そしてそれが地域の盛り上げの起爆剤になってくれると嬉しいです。

梶村
地元企業と学生をはじめとした地元住民の方が、共にキャリアや人生のちょっと先をイメージできたり、ワクワクできたりする場所、それが私たちが目指す“場のあり方“の一つの形なのかもしれませんね。
本日は貴重なお時間をありがとうございました。

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伊藤 雄飛

伊藤 雄飛

プランナー
間とやわらかさをつくりたい

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