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- 小林 慶太
【対談者】
港区立小中一貫教育校お台場学園
大島 一浩 校長 (写真後列左)
港区立小中一貫教育校お台場学園 港陽中学校
田中 彩英子 先生 (写真後列左から二番目)
江田 憧子 さん(写真前列右から三番目)
原田 時成 さん(写真前列左から二番目)
株式会社乃村工藝社
クリエイティブ本部 プランニングプロデュースセンター 企画1部 第4ルーム
小林 慶太(写真後列右から二番目)
クリエイティブ本部 プランニングプロデュースセンター 企画2部 第7ルーム
徳盛 哲之(写真前列右)
クリエイティブ本部 クリエイティブプロデュースセンター no.10 鈴木ルーム
亀田 奈緒(写真後列右)
ビジネスプロデュース本部 第二統括部 新領域プロジェクト 開発部 開発2課
彦田 和良(写真前列左)
山林 哲也(写真前列右から二番目)
港区立お台場学園で展開されている「お台場水族館」プロジェクト。生徒たちの発案から始まり、地域や企業の協力を得て実現したこの取り組みには、「こどもまんなか」の学校づくりが体現されています。プロジェクトを立ち上げた生徒たちと学校関係者に、その経緯や成果についてお話を伺いました。
生徒の発案から始まった「お台場水族館」
小林
この部屋だったと思うのですが、「こどもまんなか」というテーマの学校づくりについてヒアリングしたいという趣旨で学校に訪れました。その時に、大島校長先生から「今ちょうど、お台場水族館というのを考えている」という話があって、それはもう1年以上前になりますね。
江田さん、原田さんを中心としたお台場水族館をつくっていくにあたって、生徒会の他の方も参加されていたと思うのですが、生徒の皆さんの成長、変わったところや良かったところ、また授業以外の学びに繋がったなど、感じられたことはありますか?
大島校長
子どもたちが「こういうことはどうだろうか?」と発案をした時に、大人とか周りの社会が応えてくれる。今回は水族館という形になりました。自分がやりたいことではなく、「こういうものをつくったら、みんなにとっていいのではないか」という発想を子どもたちが自ら考え実現していく。その結果、みんなに「これいいね!」と評価してもらえました。
学校のすべきことは子どもたちの意見を汲んで、お金がかかることであれば予算をどうするか。学校の周りの地域にある教育資源や企業とどう関わりを持たせてあげるか。このように大人の目で一緒に考えてあげることだと思います。そして、それが形になることが子どもたちにとって素晴らしいことです。
生き物への思いから生まれた水族館プロジェクト
小林
ありがとうございます。そのようなお話を聞けて嬉しいです。お台場水族館の構想は江田さんや原田さんが考えていたと思うのですが、そのきっかけになったことを伺ってもいいですか?
江田さん
私は幼い頃から生き物が大好きでした。中学校からお台場学園に入学したのですが、その時に目の前に海があるという素晴らしい環境に胸が高鳴りました。お台場に生息する魚を展示することでお台場学園の生徒に海や海の生き物に興味を持ってもらい、好きになってほしい、そして優しい心を育めたらいいなと思ったからです。
原田さん
発案者は江田さんです。江田さんからお台場水族館の話を聞いた時に、元々生き物が好きだったこともあり、このプロジェクトに関わりたいなと思ったのがきっかけです。この小学校の出身なので、海は身近にありましたが、学校で海の生き物を飼育しようという考えは全くなかったので、すごく驚きました。
印象深い出来事と小中学校の繋がり
徳盛
最初は自分たちでつくろうと思って、玄関ホールの入口に水槽を置いていたと思うのですが、そこから本格的につくり始めていった中で、一番楽しかったことや学びになったこと、良かったと思うことを教えていただけますか?
玄関ホール入口に机を置いて水槽を並べていた当初の展示
江田さん
たくさんありますが、1つ選ぶとしたらチチブという、ハゼ科の準絶滅危惧種に指定されている魚が卵を産んだことです。残念ながら命を繋げることはできなかったのですが、卵の中で成長していく様子を観察することができました。
(写真左)「チチブ」愛称:会長 (写真右)「コトヒキ」愛称:ゆりかもめ琴
お台場水族館の生き物たちにユニークな名前をつけることで、親しみやすくする工夫をしています。
原田さん
僕はあまり小学校の子たちと関わるタイプではなかったのですが、「この魚なんていうの?」と小学校の子に聞かれた時はすごく嬉しかったです。小学校と中学校の繋がりを感じられたのが大きかったです。
乃村工藝社のアドバイスで広がった可能性
小林
途中から私たち大人がアドバイスをさせていただく中で、当初思っていた自分たちのアイデアがどのように変わっていったのか、また役に立った面についてお聞かせいただけますか?
江田さん
考えていたものよりも具体的な形になって、魚の展示だけではなく、魚を紹介するスペースもできました。また水槽の効率のいい掃除方法やフィルターの選び方、魚の飼育方法についてのアドバイスをいただき、生き物にとってもより良い環境にできたと思います。
水族館運営の経験や知識が豊富な安藤友佑(ビジネスプロデュース本部 第一統括部 公民連携プロジェクト開発1部)が定期的にアドバイスを行った
原田さん
特に印象に残っているのは、自分たちだけでは絶対にできなかったような理想が現実になったところです。例えば床のシートですが、僕がこのデザインにしたいなと思っていたものが実際に採用されたのが嬉しかったです。
稲手広子(クリエイティブ本部 クリエイティブプロデュースセンター no.10 鈴木ルーム)と考えた、お台場の海水が校内に繋がっているような床面のグラフィックデザイン。設置する際も一緒に確認しながら進めた。
チームで乗り越えた製作の課題
亀田
「マイスクール PR コンペティション」の時に紙管を使って生徒たち自身の手で什器をつくっていただいたのですが、大変だったことや達成感のようなものはありましたか?
*「マイスクールPRコンペティション」
港区内の小中学校の児童・生徒が主体となり、自校や地域の魅力を発信する取り組みです。各校の代表が、学校や地域の魅力を高める企画を立案・実施し、その成果を発表します。
江田さん
紙管が大量にあって、生徒会の5人だけで切って、長さを測って、穴を開けて、繋げていくのが一番大変でした。ただ、それを完成させて防水スプレーをかけて立てかけた時は達成感がありました。
「マイスクールPRコンペティション」でプレゼンする際に生徒たちの手で作成した、紙管をアップサイクルした什器。
紙管提供:株式会社サンゲツ
原田さん
紙管に穴を開ける作業が本当に大変でした。穴を開けるハンドペンチがすごく硬くて。私たちの代の生徒会役員は女子3人、男子2人で、人手が少なく、穴開けは男子2人しかできませんでした。量も多いし手も痛くて大変でした。ペンチでの穴開けは男子ができましたが、紐を結んだり紙管を繋げたりするのは逆に男子ができなくて、女子が担当しました。チームワークを感じられたのが良かったです。
田中先生
「マイスクール PR コンペティション」では、プレゼンテーションの1回戦を突破して決勝まで行きました。惜しくも優勝は逃しましたが、優秀賞を受賞することができました。周りの教育委員会の方々からも「すごく良かったね!」と後から声をかけていただきました。
「東京ベイお台場クリーンアップ大作戦」との連携
東京ベイお台場クリーンアップ大作戦は、東京湾の環境保全を目的とした清掃活動で、毎年6月、9月、11月に開催されています。
小林
「東京ベイお台場クリーンアップ大作戦」に参加されて、拾い集めたゴミをみなさんが描いた海の生き物の形にするという、普段なかなか経験することのない取り組みをされていましたが、その活動を通じてどのような感想をお持ちになりましたか?
拾ったゴミを生徒の皆さんが描いた海の生き物の形に固めて水族館の飾りとしてアップサイクル
制作協力:株式会社 REMARE
江田さん
ゴミについては、セーリングヨット部にいても感じるのですが、お台場の海は綺麗なのに、ゴミの存在がその景観を損ねてしまいます。この活動を通じて、水質環境が変わり、魚たちへ悪い影響を与えているものが改善され、美しくなっていることを嬉しく感じます。私たちが魚を採集する時は、最初の15分間は必ずゴミ拾いをすることにしています。魚を採取している間もゴミを見つけたら拾うようにしていて、これからもそれを続けていきたいと思います。
小林
その方針は自分たちで決めたことなのですか?
江田さん
最初はただ魚を採っていたのですが、採っている中でどうしても網の中にゴミが入ってきて、それが魚より多いと悲しくなりました。最初にバケツ1杯分のゴミを拾って、それを外のゴミ箱に入れてから魚を採るようにしました。魚をいただいているような感じなので、その分、環境を綺麗にしたいと思ったのです。
原田さん
東京ベイお台場クリーンアップ大作戦に実際に参加した際、地域の方々の顔にやる気が見えました。そのやる気はどこから来るのだろうと考えた時に、アップサイクルなど、自分たちのやっていることが未来に繋がるという展望が見えていることだと気づきました。環境保護に対してもモチベーション向上のためにも、このようにゴミを回収して活用していくことはとても大切だと思いました。
地域との関わりがもたらした教育的効果
山林
大島校長先生、田中先生に伺いたいのですが、地域と一緒に活動するという意味で、東京ベイお台場クリーンアップ大作戦でのアップサイクルについて、教育的な観点からどのような影響があったとお感じですか?
田中先生
元々各学年でそれぞれ海に関わる活動があり、セーリングヨット部などは必ず東京ベイお台場クリーンアップ大作戦に参加していました。今回、「これをつくるから参加してください」と全校朝礼で呼びかけたり、小学校の方からも呼びかけてもらったりしたところ、それに興味を持って集まってくる子たちが増えました。今までは単にチラシを配布するだけでしたが、具体的な目的が加わったことで、子どもたちにとっても良かったと思います。私自身も声がけがしやすくなりましたし、年に1回程度参加するようにしていましたが、遊び感覚で気軽に集まってくる子たちが増えた印象です。より結びつきが深まり、環境への意識が向上したように感じます。
大島校長
お台場の子どもたちは生まれた頃から目の前に海があって、海との関わりは私たちが考えている以上に強いものがあります。海というだけでウキウキしたり、憧れたり、大自然の象徴として捉えたりしています。小さい頃から干潟でカニを見つけたり、小学校ではアマモを育てたり、水を綺麗にして海苔を養殖したり、中学ではヨットに取り組んだりと、本当に生活の一部になっています。そういうものを自分たちの目線で発案した時に、周りの人たちが形にしてくれたというのは新しい視点でした。子どもの発案は、ダイヤの原石のように良いものが隠れているのだなということに気づかされました。
生徒たちのプロデュース力に学ぶ
彦田
私たちビジネスプロデュース本部では、通常、お客様の相談に乗りながら周囲を巻き込んで、企画・デザイン・施工などの仕事をつくり上げていきます。今回の江田さんと原田さんの活動は、水族館をプロデュースしたということになります。プロデュースとは、自分たちで構想を描き、仲間をつくり、資金を工面してプロジェクトを立ち上げることです。お二人がまさにそれを実践されたことは、私たちにとっても非常に勉強になりました。予算がないところから企画を立ち上げ、それを実現させたことは、金額の大小に関わらず素晴らしい成果だと思っています。
次の世代へつなぐ想い
お台場水族館の取り組みについて「マイスクールPRコンペティション」で発表する際に、江田さんと原田さんがまとめたポスター
小林
最後の質問なのですが、江田さんと原田さんが主にこのプロジェクトを進めてきて、もうすぐ卒業されてしまうということで、今後の運営について、後輩たちへの想いや、学校の文化として根付かせていくことについて、考えがあれば教えていただけますか?
江田さん
生き物の世話は毎日しなければならないことがあったので、休みの日も生き物の世話をしていました。まずは今の状態を維持する形で引き継いでいってほしいと思います。お台場水族館に興味を持ってくれる児童生徒は増えましたが、その分、ガラスを叩いたり水槽に手を入れて魚に触ったりする児童生徒も見受けられます。そういった面で、お台場学園の児童生徒の優しい心を育むための工夫を考えていってほしいと思います。
原田さん
そうですね。ここが学校の一つのシンボルとして、良き文化として、私たちが大人になっても続いていってくれたら本当に嬉しいです。ただ、私たちがやってきた経験から言うと、休日も世話をしに行かなければならないことや、周りの反応も全員が応援してくれるわけではないというギャップもあります。そういった課題を乗り越えながら、後輩たち自身が良い経験として自分のものにしてくれたら嬉しいです。
新しい可能性を切り開いた挑戦
小林
素晴らしいですね!ちょっと泣けます…。この記事は、ぜひ生徒の皆さんにも読んでいただきたい内容です。江田さんや原田さん、生徒会の皆さんがこのプロジェクトに取り組んだことで、「自分たちで考えれば、まだできることがあるのではないか?」という新たな可能性を見出せたのではないでしょうか。水族館の維持管理に留まらず、自分たちの手で学校をより良い場所にし、さらに楽しむことができるという自立心が育まれていると、話を伺いながら感じました。もしまたお手伝いできる機会がありましたら、ぜひお声掛けいただければ嬉しいです。私たちはすぐ側で働いていますので。
【対談を終えて】
お台場学園の「お台場水族館」プロジェクトは、生徒たちの小さな発案から始まり、地域や企業を巻き込みながら大きく成長しました。このプロジェクトを通じて、環境保護への意識の向上、小中学生の交流促進、チームワークの醸成など、多くの教育的効果が生まれています。特筆すべきは、生徒たちが自ら課題を見つけ、解決策を考え、実行に移していったことです。休日の生き物の世話や、環境美化活動など、決して楽な道のりではありませんでしたが、そこから得られた経験は、確実に次の世代へと引き継がれようとしています。
「こどもまんなか」の学校づくりという考えのもと、生徒たちの夢が現実となったこのプロジェクトは、学校教育の新しい可能性を示しているのかもしれません。
コロナ禍で使われていたアクリルパーテーションをアップサイクルし、江田さんが制作したお台場水族館の看板
撮影|春名 宏美
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プランナー
わかりやすくおもしろく。