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- 品質・環境・安全推進部
乃村工藝社グループでは、企業をとりまく環境変化に伴いこれまで以上に社会課題解決による持続可能な社会の実現と、持続的な企業価値の向上の両立をはかることを目指し、「サステナビリティ方針」をを2022年に制定しました。森林保護や持続可能な木材流通への貢献を重要な社会的責任と捉え、フェアウッド(合法・持続可能な木材)の積極的な調達を推進するために「ノムラ木材調達ガイドライン」を策定した上で、社員や取引先様、さらに広く社会に対して「フェアウッド応援宣言」を実践し、フェアウッドの活用やその支援活動を通じて、お客様への付加価値提供を目指しています。
ノムラ協力会(乃村工藝社の施工協力会社が所属し、北海道から九州までの7支部で構成される乃村工藝社の生産体制を支える核組織)においても、社会課題の解決と全国7支部との連携による地域貢献に2018年より先行して取り組んでまいりました。
今回、これまでノムラ協力会が継続して行ってきた「林業支援活動」と、昨年開催されたノムラ協力会主催による乃村工藝社と「釜石地方森林組合」の地域産材や森林資源を活かした関係人口の拡大に向けた取り組みをご紹介します。
乃村工藝社の施工協力社で構成される乃村工藝社の生産体制を支える核組織。設立当初は、労働災害や事故に対する相互扶助を目的に設立されたが、現在は北海道から九州まで7つの支部に所属する会員各社に向けて、品質安全や安全衛生に関する情報発信や教育などを行う。
釜石地方森林組合HP https://kamamorikumi.jp/
乃村工藝社のサスティナビリティ方針
サステナビリティ方針 https://www.nomurakougei.co.jp/corporate/sustainability/
フェアウッド応援宣言 https://www.nomurakougei.co.jp/corporate/sustainability/fairwood/
林業支援活動のはじまり
ノムラ協力会として初めて社会貢献活動を行ったのは、2016年に発生した熊本地震からの復興支援でした。2018年2月に、東京支部と九州支部に所属する会員各社とともに寄付を行うために実際に現地に赴き、震災の状況を目の当たりにしたことをきっかけに、社会に貢献したいという意識が高まりました。
そこで、ノムラ協力会の新たな取り組みとして「木」を題材にした社会貢献活動を本格的に進めるため、様々な活動を検討した結果、「植樹」による貢献ができるのではないかと考え、出会ったのが「釜石地方森林組合」でした。
2017年当時、釜石市ではラグビーワールドカップ日本開催に向けたスタジアムの建設も始まり、東日本大震災から少しずつ立ち直りつつある状況でした。しかし、同年5月8日に尾崎半島の林野火災により、被害面積413ha(東京ドーム88個分)という広大な森林を焼失する被害に見舞われました。東日本大震災の津波の被害で閉鎖することまで考えられていた「釜石地方森林組合」ですが、復興のシンボルとなるスタジアムの建設に釜石市の木材を活用することが決定し、ようやく気持ちも上向いてきた矢先の出来事でした。
ノムラ協力会としても、「釜石地方森林組合」のご協力のもと、林業支援にぜひ協力したいと思いが強まり、支援活動に向けて準備を進めていきました。
413haが延焼した尾崎半島
釜石市での林業支援活動
釜石市で林野火災があった翌年より、ノムラ協力会では林業支援活動を本格的に始動しました。 2018年の支援活動では、ノムラ協力会の東京支部と東北支部の有志21名が参加し、0.32haの林野に「地拵え(じごしらえ)」と言われる、苗木を植える前に株や雑草木を除去する準備作業をメンバー全員で、手作業で行いました。
翌2019年には、前年に地拵えを行った同じ場所に、800本もの杉の苗木を植えることができ、当初、この広大な林野火災の復旧には10年を要すると考えられていましたが、企業や団体ボランティアなどの協力により、2022年には復旧事業は完了することができました。
また、この先15年は樹木の育成管理を継続していくことが重要であり、現在は野生動物による食害を受けている樹木の植え替えを行うための支援活動を行っています。尾崎半島は、野生のニホンジカが多く生息しているため、苗木の表皮をシカに食べられてしまう「食害」が多く発生しています。フェンスを張るなどの対策をしても食害の被害をなくすことは難しく、シカに食べられた苗木はそのまま枯れてしまうので、植え替え作業(補植)を行う必要があります。
コロナ禍を経て活動を再開した2022年では、この補植作業を0.1haに250本行いました。ノムラ協力会ではその後も継続して支援活動を続け、2023年は0.075ha 175本、2024年は0.084ha 210本と、5年の活動で植えた杉の苗木はのべ1,435本になりました。
この苗木が15年以上生育すれば、約60tのCO₂排出削減に貢献できることになります。
地拵え作業(2018年)
植樹作業(2024年)
ノムラ協力会と「釜石地方森林組合」との取り組み
昨今、乃村工藝社グループで策定された「ノムラグループ品質・環境・安全方針」に基づく「ノムラ木材調達ガイドライン」や「フェアウッド応援宣言」などにより、当社での合法木材利用への意識が高まる中、ノムラ協力会でも独自に国産材に関する調査・研究を進めてきました。
現在は「クリーンウッド法」の改定により、フェアウッドや国産材利用において、伐採された木材の合法性がより厳しく確認されるようになりましたが、ノムラ協力会で調査・研究を開始した当初は、突板(つきいた)ベニヤ(※1)を製作する工場で世界各国から輸入される突板材料について厳格な管理は必要とされていませんでした。輸入材の南洋材で作られている薄ベニヤは、一般的に違法伐採の可能性が懸念される中、国内工場で製作された国産材製品であっても国産材として証明されないことがあるなど、一部の製品について製作過程に大きな問題があることが危惧されていました。
※1 突板ベニヤ:無垢材を0.1㎜程度にスライスしてベニヤ板の表面に接着した木材
そこで、ノムラ協力会では林業支援活動と並行して、国産材の証明や利活用の先進的な取り組みを行う「釜石地方森林組合」と共に、フェアウッド、または100%国産材で作るベニヤ板の新たな可能性を探る試験的な取り組みを始め、関係企業、大学の研究室を交えた勉強会を継続してまいりました。
森の貯金箱工法(※2)で建てられた「釜石地方森林組合」での勉強会(2018年)
※2 森の貯金箱工法:地域産材を利用した地域の森林整備と直結したムク材を利用してのパネル工法。ムクの角材を連結することで壁と柱両方の役割を果たす。再利用の際には柱に戻すことも可能でCO₂吸収固定を増進するとともに、新建材の使用抑制や建材の再利用を想定した工法。工期も短く坪単価も安い。
※3 「釜石地方森林組合」が出荷した国産材で建築 大槌町文化交流センター(おしゃっち)トップページ – 大槌町行政サイト
「木」や「脱炭素」をテーマに勉強会を共同開催
昨年11月に開催したノムラ協力会と乃村工藝社の有志13名による尾崎半島の林業支援活動の翌日、「釜石地方森林組合」や釜石市の関係者を交えて「木」や「脱炭素」などを中心テーマとした地域産材活用や、森林資源を生かした関係人口の拡大に向けた勉強会を開催しました。「釜石地方森林組合」の他、岩手県や釜石市の職員の方々にもご参加いただき、釜石市の「オープンシティ戦略」や「脱炭素の取り組み」など、環境や地域創生に関わる行政の取り組みについてもご紹介がありました。
釜石市は、東日本大震災の経験を踏まえ、防災やレジリエンスを題材に実施してきた企業研修に、脱炭素をテーマにしたプログラムを取り入れたり、企業研修の拠点となるワーケーション施設の整備や地域共生型太陽光発電の導入を進めるなど、脱炭素だけではなくプロジェクトを通じて釜石市に関わる「関係人口」の創出にも力を入れています。このような「釜石版サステナブルツーリズムがつなぐ地域脱炭素プロジェクト」の取り組みによって、釜石市は昨年、環境省より脱炭素先行地域に選定されました。今回の勉強会では、実際に関係人口として釜石市と接点をもった結果、移住につながった方や、外部から来られた方の影響を受けて起業することになった高校生のお話など、新たな活動をされている市民の方のお話を伺うことができました。
「釜石地方森林組合」を始め33名の方が勉強会に参加
釜石市国際港湾課ゼロカーボンシティ推進室 神山氏|脱炭素先行地域に選定された釜石市の取り組みについてご紹介
乃村工藝社からはプランナーとデザイナーが登壇し、地域産材を利活用する取り組みや「手デザイン」のワークショップについてご紹介しました。ディスプレイデザインをする上で、木が持つ質感や色味のメリットとデメリットなどにも触れ、木材の生産や流通にかかわっている参加者の方からは「木材を利用する側の視点や気づきが得られた」との感想をいただきました。
「木」に関する内容では生産者と木材を使用する使用者側、それぞれの立場で有意義な意見交換がなされ、生産者が求める多量の消費に対し、使用者側が求める量よりも質に対するこだわりなど、今後の「木」の価値を上げていく取り組みの第一歩になったのではないかと思います。
プランナー梅田 晶子さん|乃村工藝社の国産材の利活用についての取り組みについてご紹介
2024年11月14日 釜石市尾崎半島での林業支援活動の様子
おわりに
私たちは「空間」を創る事業活動を通じて、非常に多くの木材や木材製品を使用しており、当社を含むディスプレイ業界にとって、「木」は非常に身近な存在です。
そのため、森林保護や持続可能な木材流通(違法伐採された木材を排除し、不当な市場価格の引き下げを防ぐことで森林経営を守ること)に貢献することは、私たちの社会的責任と捉えています。
ノムラ協力会は、今後も積極的に環境問題や地方創生に取り組み、事業への還元を図ってまいります。
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