ようこそ、「聖地巡礼」の世界へ

増渕 健太
増渕 健太
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増渕 健太

“聖地”と呼ばれるもの

皆さんは聖地巡礼、という言葉を聞いて何を思い浮かべるでしょうか。
思いつくのがキリスト教ならエルサレム、イスラム教ならメッカ、ヒンドゥー教ではガンジス川…などなど。
日本でも古くからお伊勢参りや四国八十八ヶ所霊場巡りなどの文化がありますね。

普段はあまり意識していないけれど、結婚式やお葬式、受験前とかについつい神様や仏様に頼っちゃう現代日本人。
今、我々にとっての“聖地”とは一体何でしょう。

検索サイトで聖地巡礼と入れて調べてみます。結果やいかに。

答えから言うと、トップを占めるのは「アニメ・漫画・ゲーム」といった、ヲタク系コンテンツ作品の舞台となった場所といったものばかりです。

ご挨拶が遅れました、乃村工藝社でプランナーをしている、アニメ・漫画・ゲームが大好きな増渕です。

そんな僕が、今回は日本だけでなく海外のヲタク達にとっても重要な、ヲタク系コンテンツにおける「聖地巡礼」について考えてみたいと思います。

↑ちなみに増渕は小さい頃から漫画やイラストが趣味で、藝大建築時代ではこんな模型添景用の人型も作っていました。

現代日本における「聖地巡礼」

「聖地巡礼」とは?

日本のアニメ・漫画・ゲームの影響力は言わずもがな、現在の日本にとって重要なカルチャーとなっています。近年ではクールジャパンの枠にも入り、国を挙げての文化となり、もはやサブカルチャーとも呼べなくなっているような気がします。

アニメ・漫画・ゲームは基本的にはメディアであり、画面や誌上で展開される、一種の仮想現実です。素晴らしい世界観を描くだけにその没入感は侮れず、向こうの世界で生活したいと夢見るヲタクも多いでしょう。僕もその一人です(笑)

そんな仮想現実世界を、現実に呼び込んでいるパターンは多々あります。

例えば、鳥取の境港駅周辺には水木しげるロードと呼ばれる、177体もの妖怪キャラクターが立ち並ぶような漫画の世界観を創った場所があったり。
変わったものだと、『あしたのジョー』の力石徹や『北斗の拳』のラオウなど、名ライバルキャラが作中で命を落とした事を悼み実際に現実世界で葬式を行ったり。

その一つに、「聖地巡礼」はあります。

ここでいう「聖地巡礼」を簡単に説明すると、アニメ・漫画・ゲームのファンがその作品の舞台となった土地や建物など、現実世界にある作品と関係性の深いモノを“聖地”と呼び、実際に足を運ぶ事です。コンテンツツーリズムの一種と言えます。

最近の有名所でいうと、『君の名は。』でロケ地となった飛騨高山や四谷などが挙げられますね。過去の作品では『スラムダンク』のオープニングシーンに登場したという所から、江ノ電鎌倉高校前駅の踏切に国内外問わず、今でも多くのファンが訪れています。

ピンとこない方は、寅さんファンが柴又帝釈天に行くような感覚だと思って貰えれば良いでしょう。

「聖地巡礼」の今

実はこの「聖地巡礼」は今、国家を上げたプロジェクトに発展しています。

国内外の需要を受け、内閣府や観光庁ではこの文化を「アニメツーリズム」としてクールジャパン戦略の一部と認定。2016年からは「テーマ別観光による地方誘客事業」として支援を受けているテーマなのです。

上記は「一般社団法人アニメツーリズム協会」という組織の元、様々な活動が行われています。

主には「アニメツーリズム88」と題して、年度ごとに88か所選出した日本各地の「聖地」を巡る旅を提案しているようです。四国八十八か所巡りの要領で“御朱印”と呼ばれるスタンプを集めることができます。

アニメツーリズム88のMAPポスター
(出典:https://www.city.mutsu.lg.jp/images/content/62867/20170831-190111.jpg)

0番札所=スタート地点を成田空港内に置くことからインバウンド向けの色も強そうで、地方への送客にもつながる地方創生事業の一環としても機能しそうですね。

こういった官民協力型の施策はこれまでの「聖地巡礼」から考えると新しい動きです。
近年では、「聖地」のある地方自治体と連携するケースも散見するようになりました。

「聖地巡礼」の歴史

ここまで成長した「聖地巡礼」の文化も、元々はWEB上の掲示板やサイトなどのコミュニティで、アニメや漫画のファン達が情報交換をする中から自然発生したものだったようです。

その歴史を辿ると1990年代には既に「聖地巡礼」の活動があり、『セーラームーン』に出てくる麻布十番エリアと氷川神社や、『天地無用!』では岡山県にある太老神社への巡礼が行われていました。

ちなみに、当時の巡礼先に割と“神社”が多かった事から「聖地巡礼」と呼ばれるようになった、という説もあります。

そして、「聖地巡礼」を語るうえで欠かせないのが、2007年にアニメが放送された『らき☆すた』の舞台、埼玉県の鷲宮神社です。ここは作中キャラの柊姉妹の実家という設定でした。
訪れたファンがイラストを使って描き上げる「萌え絵馬」などの文化がメディアで多く取り上げられたことで、大勢のファンが集まる「聖地巡礼のメッカ」ともいえる場所に成長しました。
放送終了から12年近く経つ現在も多くの国内外ファンが訪れているようです。

日本政策投資銀行の試算によると、放映から10年間での経済波及効果は約31億円超となっており、数字からもその活気を感じることができますね。
(出典:https://honichi.com/news/2018/03/26/seichijunrei/#section-3)

「聖地巡礼」は基本的にファンの個人的な行動から始まりますが、地元や行政を巻き込みながら発展していくケースも増えています。

『ガールズ&パンツァー』の聖地である茨城県大洗市では、もともと地元の祭りである「あんこう祭り」にテレビ放送がきっかけで2012年から『ガールズ&パンツァー』とコラボをはじめ、声優などを招いたトークショーや各種コンテンツが展開されました。
そしてコラボ6年目の2017年には13万人が訪れる大イベントに成長しました。
これは地方創生という面でも注目される事例です。

弊社もアニメ・漫画・ゲームに関連したイベントや展示、ミュージアム等で接点を持っているので、こういった分野にもぜひ携わっていきたいですね。

増渕が行った「聖地巡礼」

増渕も何回か「聖地巡礼」の旅をしてきました。
今回紹介するのは、最も過酷な「聖地巡礼」だった鹿児島県種子島に行った時の話です。

ちなみに過酷だった理由は、東京からの片道約1700kmを250ccバイクに乗り2日間で走破する、という旅程を組んだからです。しかも1月の終わりでした…。


南種子島町での1枚。キャンプ道具でパンパンなHONDA VT250スパーダと共に。

種子島における「聖地巡礼」

種子島では2つの作品の聖地になっています。
1つは新海誠監督作品のアニメ映画『秒速5センチメートル』。第2章であるコスモナウトの舞台が種子島でした。
もう一つは、Nitro+のゲームであり、アニメにもなった『Robotics ; Notes』です。

種子島はロケットの打ち上げや種子島宇宙センターでも人気ですが、徐々に「聖地巡礼」人気を受けてか、中種子島町では町役場自ら聖地巡礼マップを整備したりしています。

●種子島 中種子島町の聖地巡礼マップ

「聖地巡礼」の醍醐味

聖地巡礼というものは大変不思議なもので、行く先が名所ばかりでもなく、むしろ普通の地元施設やさほど変哲もない場所という事も多いです。

そして、そんな場所ほど行った時に興奮度が高かったりするのです。


– 千座の岩屋。物凄く良い空間だったので、聖地関係なく長い事座って眺めていた思い出。

例えばこの、『Robotics ; Notes』で作中に出てきた千座の岩屋。
種子島では観光名所にもなっている場所です。
もちろん、この自然が悠久の時を経て作り出した造形美と、海の向こうに消えていくような空間の広がりには胸を打たれました。
しかし、ここは作中でもそこまで登場していないので、作品ファンとしての琴線には多少触れたくらいです。


– 作中でよく出てきた宇宙が丘公園。写真左:展望台 写真右:電波塔のようなアンテナドーム

次は割と普通な地元の公園、宇宙が丘公園です。
作品を知らない人が見たら「何が面白いのだ」と思うだろうこの公園。だがしかし、そんな公園で増渕の聖地巡礼熱はMAXに達します…!

ここは主人公やヒロインなど多くのキャラが度々訪れ、作中でも非常に重要な場所として描かれました。ですので、この宇宙が丘公園には様々なキャラの痕跡を(勝手に)感じることが出来ます。
展望台に上れば、「この手すりに愛理が立っていたのだな…」とか、「海翔があの時見た景色を、自分は今見ている…!」など、作品の中に入って追体験しているような感覚になります。
その他にも郷土館とその上に立っている電波塔や、エンディングでも出てきたアスレチック群…などなど、多くの場所を見つけました。そしてそれぞれの場所で思いを馳せます。

これらは、言わば現実世界と作品世界を繋ぐ「接点」であり、向こう側の世界に行くゲートのようなものです。

そう、まさにこれが「聖地巡礼」の肝なのです。

個人的な意見ではありますが、「聖地巡礼」への最大のニーズは「作中の世界に行きたい」というものであると考えています。
作品を視聴して、その世界観やストーリー、キャラと出会いその作品世界に強く憧れて、居ても立ってもいられず旅に出るわけです。

そう考えると、自分をあの魅力的な作品世界に連れて行ってくれる場所、あるいは「異世界への入り口」であるこの公園は、まさに“聖地”だと言えますね。

ちなみに増渕は、そんな“聖地”に少しでも長く居たかったので、最終的にこの宇宙が丘公園でキャンプをする事にしました。(キャンプOKなので。)
寒かったです。

そして翌日、種子島から帰る前にこの公園からロケットの打ち上げを見ました。今度は「秒速5センチメートル」の世界にも思いを馳せます。

こうして「聖地巡礼」の目的は果たされたのですが、正直この後走る東京までの帰路が一番の修行でした。


– 宇宙が丘公園から見たロケット打ち上げ。遠くても物凄い迫力。

「聖地巡礼」の旅を振り返ってみて、思うこと

実際に体験してみて「聖地巡礼」という、ファン活動でもあり旅行でもある文化が発展した理由が、自分なりに見つけられた気がしました。

”未知の世界”への憧れ

大きな要因として、旅行に求めるものとアニメ・漫画・ゲームに求めるものには、多く共通するモノがあるからだと考えています。

1番大きいのは、「非日常の体験」ないしは「自分の知らない世界の体験」という点です。

人類数百万年の歴史から見ると、定住するようになったのはごく最近の話だ、と聞いたことがあります。
恐らくは環境が変わらないという事にDNAレベルでは慣れていないのでしょう。
同じ生活を続けていると「どっか行きたいな~」と、今とは違う環境に憧れたりします。

そういった欲求を満たすのが、例えば旅行だったり作品世界を体験するアニメ・漫画・ゲームだったりするのだと思います。

また、昨今はお決まりコースでお決まりの場所、といった「マスツーリズム」が減り、それぞれの興味関心に合わせた、テーマ性の強い体験型の「ニューツーリズム」が伸びている現在の観光事情。
これはまさに「聖地巡礼」の本質に近く、「聖地巡礼」が今の時代のニーズにも近い、と言えそうですよね。

来年の東京2020オリンピック・パラリンピックを契機により活性化していくと思われる日本の観光と、それに付随する「聖地巡礼」。
今後、ますます見逃せないテーマになっていきそうですね。

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増渕 健太

増渕 健太

ヲタク系プランナー
“面白い”の本質を考える。

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