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- 下國 由貴
空間をつくる、展示をつくるに留まらず、オリジナルのミュージアムグッズまでつくるとは…
乃村工藝社のプランナーが携わる仕事の幅広さ、その一端をご紹介します。
2025年春にオープン予定の特別天然記念物アマミノクロウサギの研究飼育施設。
気運醸成も兼ねたミュージアムグッズ開発をレポートした前編記事では、アマミノクロウサギをテーマにした様々な個性的なグッズを大和村の方々、クロウサギを愛する方々と一緒に開発しました。
※前回の様子はこちら
ミュージアムができることに合わせて地域の経済が活性化する好循環を生むための挑戦をしてみよう!と始まった、アマミノクロウサギグッズづくりの目的は3つ。
1.アマミノクロウサギ飼育研究施設を新設することを知ってもらおう
2.大和村の方々、奄美大島の方々がアマミノクロウサギに親しむきっかけを増やそう
3.今回のグッズづくりを地域の取組として持続可能・拡大していく事業の第一歩にしよう
販売するグッズの多くは、地域の人の手によるもので、売れたら地域が嬉しい。
嬉しいからもっと良い商品をつくるようになる、もっと買ってもらえるようになる。
地域の経済が活性化し、継続的に稼げるようになり、地域の資産が拡大していく。
地域の皆さんと生み出し、育てるミュージアムグッズが出来るまで、とプレ販売会の様子をレポートします。
【レポーター】
下國 由貴
クリエイティブ本部 プランニングプロデュースセンター 企画2部 第4ルーム
おはなし聞かせてください!
どんなグッズが作りたいか・作れるか相談会
まずは、すでに大和村内や奄美大島で商品を製造・販売したことがある事業者さん、製造・販売は未経験だが、新しく事業としてやってみたい方と合わせて8事業者さんにお集まりいただきました。
各事業者さんの事業内容・グッズ開発に向けた商品企画案の有無・プレ販売会を見据えた商品製造のスケジュール可否などについて個別にお話を伺い、同時にプレ販売会の開催時期や会期、場所、運営手法の準備を検討していきます。
事業者さん商品相談会(一例)
● 事業者A
目標:商品のクオリティを上げたい/新商品の導入で収入を増やしたい
新商品:たんかんピール、マンゴー×パッションフルーツのジャム
既存商品:パッションフルーツバター、たんかん塩、長寿味噌(郷土食のお茶請け味噌)
相談会内容:味・価格・パッケージの確認、新商品でサポートが必要なことの確認
● 事業者B
目標:カメラマンなので自身が撮影した写真をグッズ化したい/レーザー彫刻機を活用した商品を作りたい
新商品:奄美の生き物ポストカード、木工レーザー加工品(コルクコースターやキーホルダー)
相談会内容:写真の確認、レーザー加工品の試作
● 事業者C
目標:既存商品の販路を広げたい/アマミノクロウサギと共にある大和村の文化も発信したい
既存商品:クッキー
相談会内容:味・価格・パッケージの確認、新商品でサポートが必要なことの確認
私たち乃村工藝社スタッフとは初対面での商品相談会となり、お互い緊張の面持ちでしたが、アマミノクロウサギの「黒」の部分にこだわった商品にするならどう工夫しようか?商品を買ってほしいターゲットはどう設定しようか?それに向けてのパッケージはどうしようか?など、魅力的なアイディアや商品をお持ちの皆さんと大盛り上がりの相談会が繰り広げられました。
今回のようなグッズ開発やイベント運営は、実はかなり好きなジャンルといいますか…実績豊富な私。
元々小売店で商品開発や販売をしていた経験に加え、地域ブランディングの中で商品開発をしたり、気運醸成イベントを手掛けてきたこともあり、今回常設のミュージアムでのグッズ開発をお手伝いできるということで、大変張り切っておりました。
一緒にアマミノクロウサギのグッズつくりませんか?
輪を広げるリサーチ
大和村役場の会議室を借り切って2日間開催した相談会の後、奄美大島最大の繁華街エリアである名瀬へ向かい、なにかヒントになるものはないか?おもしろい商品は売られていないか?と散策していたところ、小さな路地にこぢんまりしたキャンドル屋さんを発見。
店内を見回すと、隅のほうに手のひらに収まるほどの黒くて丸っこい胴体に南天のように赤い目を施した黒いウサギ型のキャンドルが!!
店主さんに伺ってみると、型ができたばかりの最近の新作で、黒の色味調整や目の表現について悩んでいる…とのこと。
これはぜひ今回のミュージアムグッズ開発の仲間になって頂きたい!と閃き、お声がけさせていただきました。
奄美のあーささんがつくったアマミノクロウサギキャンドル。キンモクセイの香り付き
さらに、東京開催のハンドメイドクリエイターによるマーケットのイベントへ遊びに行きました。
島内の事業者さんの商品をメインに仕上げたい一方で、商品候補をリストアップして眺めてみると、食品が多かったのです。新規参入がしやすい、小規模・少人数でも製造可能、在庫管理がしやすい、手作りでも開発しやすいとなると食品が多くなるのは納得です。
一方で、ミュージアムグッズとして、施設を牽引していく目玉商品とするには食品以外の商品も必要ではないか?
食べたら無くなってしまうモノだけでなく、「ミュージアムでの思い出・学びを持ち帰る」ことができるミュージアムグッズとはどのようなものがあるのか?島内の事業者だけでなく、あえて外部のクリエイターを仲間にして、島外へのPRも兼ねられる商品があっても良いのではないか?と思考を広げていたところだったので、このハンドメイドマーケットでも、ヒントが得られないかという調査も兼ねていました。
数百のクリエイター作品が並ぶ中で最初に目を惹いたのが、奄美大島の伝統工芸品「大島紬」をアクセサリーに用いた大島紬織職人のTSURUさん。
大島紬は結城紬と並ぶ高級紬の代表で、光沢のあるしなやかな地風が特徴。
大島紬が高級な理由としては、繊細な手織りの技術と「泥染め」や「締め加工」といった伝統的で多くの工程を要する希少性と、織り職人による絣模様の正確さの追求と美意識が必要で技術継承者が減少していることが挙げられます。
反物としてかなりの高級品であるため、TSURUさんは大島紬の端切れ一つをとっても「もったいない」という想いから、端切れを使った小さなアクセサリーや小物類のハンドメイドブランド「ーTSURUー」を立ち上げたそうです。
島内でも大島紬を用いた商品はいくつか見かけていましたが、TSURUさんのハンドメイド作品へ昇華させるセンスと大島紬への熱い想い、ブランド立ち上げのストーリー、なによりお人柄が素敵だったので、「アマミノクロウサギを象った小物を黒が基調の大島紬で作ってはどうだろうか」とすぐに思い浮かび、商品開発の相談をさせていただきました。
大島紬織職人のTSURUさんの作品。ベビー用の大島紬スタイもかわいいです
そしてもう一人。
ひときわ目を惹いたのが「標本画鋲」と称して、鳥や蝶、貝がらなどのモチーフを球形の透明樹脂に封入した飾り画鋲やピアスを展示していたComahawaiさん。
1つ1つ全てが手作りの1点もののアート雑貨で、まさに“標本”のように整然と木箱の中に並ぶ様子も美しい作品でした。Comahawaiさんの作品を見た瞬間に、「奄美の希少な生き物たちの写真を使った標本画鋲やピアスを作ったら絶対かわいい!」「アマミノクロウサギの姿を封入した標本箱をミュージアムグッズとして店頭に並べたい!」と様々なアイディアが浮かんできたので、さっそく商品開発の相談をさせていただきました。
過去に美術館のポップアップショップでの販売歴もあり、アマミノクロウサギのグッズ開発参画にも前向きな反応をいただくことができました。
Comahawaiさんの標本画鋲セットと蝶ピアス。私も購入しました。
こうして2人のプロクリエイターを仲間にして、ミュージアムグッズ開発は次の段階に入ります。
試作品を作ろう!
より良いグッズに磨き上げていくための商品会議
商品相談会を経て、9事業者+大和村による23種類の商品がプレ販売会で販売予定となりました。
既存商品をそのまま販売する計画でOKのところもありつつ、新商品や今回新たにお声がけした島外クリエイターとの商品はこれから練り上げていく段階です。
たんかんピールの例
試作品第1号は150gほどの茶色い大入り袋でご提案をいただきました。
しかし、食べてみると、新鮮なたんかんや島ざらめの味わいが濃厚で、沢山は食べられない。2~3本で満足できるのでは…というのが私たちの感想でした。茶色い袋も奄美らしい素朴さがあるのですが、それが逆にせっかくの色鮮やかなたんかんのオレンジ色をくすませており、次にご提案いただいた銀色の袋もしっくり来ない。
*改善ポイント
・奄美には、学生グループ旅行か一人旅の方がよく来る。彼らが旅のおやつとして、レンタカーやホテルでちょっとつまめる、もしくは帰りの飛行機の中で奄美を思い出しながらつまめる量にしよう⇒30gに設定
・島外の人は「たんかん」がどんなものか知らない人もいる。まず「たんかん」が何であるかを伝える⇒透明の袋にして、「たんかん」の魅力である鮮やかなオレンジ色のピールが目立つようにする。かつ、商品ラベルに「たんかん」の生の写真を用いることでミカンの仲間であることをビジュアルで分かるようにする。(写真があることで海外の方にも分かる)
・なぜ「たんかん」ピールをアマミノクロウサギのミュージアムで販売するのか。アマミノクロウサギとどのような関係があるのか伝えよう⇒この「たんかん」は、アマミノクロウサギが生息する大和村名音地区の農園で育ったもの。アマミノクロウサギが「たんかん」の幹や枝を齧ってしまうことで農産物の被害があるが、大和村としてはアマミノクロウサギと人の共生を模索しており、「たんかん」はそれを象徴する産物。それらのストーリーを端的に地域情報として商品ラベルに記載することで、ミュージアムグッズとしての学びを提供する。
たんかんピールのBefore/After
Tシャツの例
こちらはアイディア持ち込み型の事業者さんで、「アマミノクロウサギをモチーフにした鳥獣戯画Tシャツをつくりたい」とのこと。まずはオンライン会議で「著作権とは?」「鳥獣戯画Tシャツって世の中にどんなものがある?」「作成するTシャツの色は何色?」など基本的なTシャツの仕様を検討しました。
「奄美鳥獣戯画」の構想がまとまり、描くのはアマミノクロウサギとアマミイシカワガエルに決定。
次はイラストのタッチ、ウサギとカエルの特徴をいかに描くかの確認を行い、これまでの奄美にはなかったであろう素敵な「奄美鳥獣戯画」Tシャツが出来上がりました。
イラストの変遷です。どんどん生き物の特徴が際立っていき、かわいくなるようにも調整しました
大島紬×アマミノクロウサギグッズの例
TSURUさんからご提案いただいたのは、アマミノクロウサギのシルエットに大島紬を封入したブローチやピンズ、ピアス、ヘアゴム、キーホルダー。ピンズにはコットンパールをぶら下げて、“アマミノクロウサギとそのフン”という遊び心ある工夫も施してくれました。どの商品も見た目は可愛らしいのですが、やはり大島紬なので、端切れといっても1個の価格が少しお高め。付加価値の伝え方に課題を感じました。
*改善ポイント
・1個の商品がお高め⇒サイズを一回り小さくして、制作費と利益のバランスを再調整。
・ブローチを実際に付けてみると針の位置が低く、傾きが出てしまう。平行に付けられるようにしたい⇒針の位置を調整し、かつアマミノクロウサギのシルエット自体もポーズ変更をしてバランスを取る。
標本画鋲×アマミノクロウサギグッズの例
Comahawaiさんからご提案いただいたのは、奄美特有の草花や色鮮やかな鳥類、カエル、そしてアマミノクロウサギの画鋲とピアスです。
使用している写真は事業者B(カメラマン)の写真を活用することで、地元コラボも叶えています。
とくにアマミノクロウサギについては写真の活用だけでなく、イラストを描き数粒のビーズを封入することで、フンをしている様子を表現してくれました。(私たちがフンに魅力を感じていて、よく話題に出すのでクリエイターお二人とも記憶に留めてくださっている笑)
*改善ポイント
・生き物の輪郭がぼやける⇒素材写真の輪郭をはっきり、色も濃く加工をすることでより良くなる。
・ピアスだと購入者が限られるのでは⇒プレ販売会ではマグネットをメインにして、誰でも購入しやすいセットを作成。
アマラビマルシェへようこそ!3日間のプレ販売会スタート
プレ販売会は名付けて「アマラビマルシェ」(Amami Rabbit Marche)。
2023年3月3日(金)~3月5日(日)の週末に会期を設定し、周知ポスターを島内各所に掲示、あまみエフエム(奄美のコミュニティラジオ)や防災無線で告知をいただいたおかげで、地元客から島外の観光客まで幅広い来客となり、想定をはるかに超えた1日200~300名ほどの来客となりました。
島内各地に貼られたアマラビマルシェ開催のポスター
アマラビマルシェの様子。大和村役場の方や乃村のプランナーも店頭で販売しました!
会場では購入者アンケートとして、開発中の商品を購入した理由(良い点)やもうひと工夫が欲しい点(改善点)、アマミノクロウサギへの関心度を伺うと同時に、ミュージアムオープンの告知をするなどミュージアムそのもののPR活動も行いました。
アマラビマルシェでの販売は、大和村役場スタッフと乃村工藝社メンバーで行いましたが、なるべく商品開発を行った事業者さんご本人にも店頭へ来ていただき、お客さんの反応を直接見てもらいながら、実際に商品を宣伝してもらうことで、さらなる商品の品質向上や参加の主体性を高めていただくことにつながったと思います。
商品それぞれの販売点数は控えますが、2日目にして完売する商品や、大量買いが起きる人気商品、ターゲットと見込んでいた層ではない別の層に大ウケして驚いた商品、「こういう商品も展開してほしい」とお客様からオーダーが入る商品が出たりと、やはり実際に販売してみないと分からない、生の声をたくさん頂くことができました。
プレ販売会でのお客様の反応、売れ行き、事業者の「次はここを工夫したい」「ミュージアムがオープンする頃は商品のバリエーションを増やしておきたい」といった活発なお声をいただくことができたので、これは大成功のプロジェクトだったのではないかと自負しています。
2年も前のことになりますが、アマラビマルシェにお越しいただいたお客様、ご購入いただいたお客様、販売会場をご提供いただいた奄美大島世界遺産センターの皆さま、3日間の販売、設営から撤去までご協力いただいた大和村役場の皆さま、本当にありがとうございました。
こうして、「ミュージアムができることで地域の経済が活性化する好循環を生んでいく挑戦」は、各事業者の事業拡大の一助、そしてアマミノクロウサギ飼育研究施設オープンのプロモーションとして大成功で幕を閉じたのでした。
そして次はいよいよ、2025年4月にオープンするアマミノクロウサギミュージアムQuru Guru(くるぐる)がどんなミュージアムなのか?どんな体験ができるのか?を特集します。
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