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- 乃村工藝社 施設運営事業
乃村工藝社グループは総合空間プロデュース企業として、空間の設計・施工だけでなく、開業後の施設の運営も手掛けており、ビジネスプロデュース本部 施設事業運営部では、博物館、科学館、美術館などの文化施設を中心に、調査研究・学芸部門を含む、施設全体の総合的・包括的な運営管理を行っています。
魔法の文学館(江戸川区角野栄子児童文学館)は、児童文学の小さなノーベル賞と言われる「国際アンデルセン賞」を受賞された角野栄子氏の想像力あふれる夢いっぱいの世界観と、その功績を後世に伝えていくために計画された江戸川区の公共施設です。児童文学の素晴らしさを広く世界に向けて発信し、子どもたちが自由に本を選び、手にとって親しむことで、夢がふくらむ豊かな創造力を育むことができる場として2023年秋に誕生しました。
当社は、指定管理者(※)として運営を担当。学芸・司書業務を担う一般財団法人角野栄子児童文学財団との協業により、魅力ある施設づくりに取り組んでいます。
※指定管理者:魔法の文学館共同事業体 N&K(代表企業:株式会社 乃村工藝社、構成企業:株式会社 紀伊國屋書店)
「魔法の文学館」の開館当時は、角野栄子さんの代表作である『魔女の宅急便』のコリコの街をイメージしたいちご色の空間が話題となりました。その空間で、お客様はどのように本との出会いや読書を楽しんでいるのでしょうか。館の受付やシアター、カフェで日々お客様をお迎えしているスタッフに聞いてみました。また、『魔女の宅急便』出版40周年にあたる今年は、館内で様々なイベントが開催されています。これから迎える読書の秋におすすめの過ごし方も紹介してもらいます。
魔法の文学館(江戸川区角野栄子児童文学館)※乃村工藝社は展示の企画・デザイン・設計施工を担当(写真提供:魔法の文学館)
好きな本に出会い、お気に入りの場所で過ごす特別な時間
最初にお話を聞いたのは、アテンダントの小泉さんです。

魔法の文学館アテンダント
小泉 美咲さん
受付やショップ、フロアでの案内のほか、お客様に児童文学の世界に親しんでもらうためのイベントも担当。
――魔法の文学館には、親子や大人のグループなど、いろいろなお客様が来館されていますね。館内でどのような過ごし方をされているのでしょうか?
小泉さん
親子で来館される方が一番多いのですが、並んで一冊の絵本を読みながら話していたり、小さなお子さんが一人で難しい本を夢中で読んでいたりすることもあります。本当にいろいろな楽しみ方をされています。
――好きな本を見つけて、思い思いに過ごされているようですね。
小泉さん
はい、お客様それぞれお気に入りの場所があるようですが、中でも1階の小さな隠れ家のような空間が人気です。館内には他にも本を読める場所がたくさんありますし、本もたくさんあるので、朝から閉館まで過ごされる方もいらっしゃいます。
子どもたちに人気の隠れ家のような小部屋
――アテンダントとして、フロアでお客様とお話をすることも多いと思いますが、印象に残っていることはありますか?
小泉さん
実は、お客様の声がきっかけで生まれたグッズがあるんです。文学館の本棚にはオリジナルのブックエンドが置かれているのですが、「どこで買えますか?」「商品化してほしい」というご質問やリクエストをいただくことが多く、ショップ担当のスタッフが会議でそのことを伝えて商品化されることになりました。
『魔女の宅急便』のコリコの街のイメージでデザインされたいちご色の本棚。三角屋根のブックエンドもオリジナルで作られた。(写真提供:魔法の文学館)
――お客様との会話から、グッズの企画が生まれるのは素敵ですね。
小泉さんはイベントの運営も担当されていますが、イベントではどんなことが体験できるのでしょうか?
小泉さん
これまでにブックトークやお話し会、児童劇などを行ってきたのですが、栄子さんの本を題材にした時は、それをきっかけに本を手に取るお客様も多いです。
遠方から来られた方がメモを取りながら熱心に参加され、翌日も内容を確認しに来てくださったことも印象的でした。イベントをきっかけにリピーターになってくださる方もいらっしゃいます。イベントが新たな本との出会いや新しい読書体験につながればうれしいですね。
角野栄子さんブックトークイベント(写真提供:魔法の文学館)
――リピーターの方も増えているようですね。
小泉さん
はい、学校団体で来館した子どもが、その後ご家族と一緒に「また来ました」と言ってくださることも多くて、とてもうれしいです。ショップで販売している“おばけのアッチ”や“リンゴちゃん”のぬいぐるみを抱えて来館される方もいらっしゃいます。
――ファンの方もいらっしゃるんですね。お客様に喜んでいただくために、今後やってみたいことはありますか?
小泉さん
来るたびに新しい発見があるようなイベントを増やしたいです。これまでにも司書や学芸員が、館内の探検を楽しんでもらうためのクイズやビンゴをつくってきましたが、子どもだけでなく親子や大人のグループで一緒に楽しんでいる方も多いです。これからも続けていきたいですね。
――読書の秋におすすめの過ごし方はありますか?
小泉さん
涼しくなったら館の外のテラスや丘の上で本を読むのもおすすめです。家族で外に出て、青空の下で読書を楽しむ方も多いです。一日を館で過ごしたら、1階の「コリコの街」の背景の空の色に注目してみてください。夕方になると色が変わって、とてもきれいなんですよ。
「コリコの街」のいちご色の空は、夕方になると、紫色に染まる
リピートしたくなる「黒猫シアター」
次にお話を聞いたのは、「黒猫シアター」でインタラクティブな物語体験を演出する中岡さんと市野さんです。「黒猫シアター」は、角野栄子さんの児童文学作品に登場する“おばけのアッチ”や“リンゴちゃん”との会話が楽しめる、インタラクティブな映像プログラムによる参加型のシアターです。
「上演後に出口で“楽しかった!”の声をいただくことが多いです」と、アテンダントの小泉さんもおすすめの場所。どんな体験ができるのでしょうか。

魔法の文学館「黒猫シアター」スタッフ
中岡 晃子さん(左)
司会経験を活かし、お客様に合わせた明るい声がけで演出を盛り上げるのが得意。
市野 優奈さん(右)
声優学校での学びと図書館勤務経験を活かして、物語の世界に参加者を引き込む。
――黒猫シアターのインタラクティブなプログラムについてお聞きしたいです。毎回、演目やお客様によっていろいろな反応があって面白いですよね。
中岡さん
そうなんです。上演は毎日20回以上行っていますが、お客様の反応が本当に毎回ちがうんです。
学校の団体で来る子どもたちは、最初は様子をうかがっているんですけど、どんどん前のめりになって参加してくれます。声をかけても恥ずかしがったりしていた小学生の男の子たちが、上演後に「楽しかった」「また見たい」と言ってくれるのもうれしいです。子どもたちが物語の世界に入っていく瞬間が見えるのが、この仕事の醍醐味ですね。大人だけのグループでもなかなか盛り上がるんですよ。最初は戸惑っていても、話しかけると童心に戻って楽しんでくれます。
――今まで印象的だったことはありますか?
市野さん
前職の図書館では、“おばけのアッチ”は子どもたちに人気でしたが、“リンゴちゃん”を知っている子は少なかったです。でも、魔法の文学館では、シアターで“リンゴちゃん”に出会って、本を読んでみようという子が多いんです。子どもだけでなく、大人の方からもおっしゃっていただけることに感動しました。
――怒ったり、泣いたり、喜んだり、感情をストレートに表現する “リンゴちゃん”に、誰もが共感できる部分があるのかもしれませんね。
中岡さん
ライブラリーの“リンゴちゃん”シリーズの本はボロボロになるほど読まれていますし、“リンゴちゃん”のぬいぐるみを持って、また遊びに来てくれる子もいるんです。物語の世界と現実がつながっているのを感じます。栄子さんご本人も“リンゴちゃん”に自分の思いを重ねているとおっしゃっていました。お母さんがいない子どもの気持ちが物語に込められていて、「感動した」という声も多いです。
角野栄子さんの “リンゴちゃん”シリーズ(全4作品)
“リンゴちゃん”は、シアターで出会ってファンになる人が多い(写真提供:魔法の文学館)
――リピーターの方も多いと聞いていますが、実感はありますか?
市野さん
はい。来館者の方が、演出の中で紹介している栄子さんの本を「読んだよ!」とか、カフェ・メニューを「食べたよ!」と報告してくださるんです。そういう時に、リピーターの方が増えているな、と感じます。土日はお客様が多いので、1日1回だけシアターを観覧できる券をお渡ししているのですが、もっと見たいとおっしゃる方もいます。シアターは1回見たからもういい、というのでなく、何度も体験していただいているのがうれしいです。
中岡さん
シアターは、見るだけでなくコミュニケーションの場にもなっていると感じます。“おばけのアッチ”や“リンゴちゃん”とお話ができるのもそうですが、お客様同士が声をかけたり、協力したり、いろいろなコミュニケーションがあるんですよ。一度体験したコンテンツでも、参加者との対話と相互コミュニケーションによって毎回違う体験になるのが、「黒猫シアター」の魅力だと思います。
――中岡さんは、地元に住んでいらっしゃいますよね。地元の人たちにはどのように利用してもらいたいですか?
中岡さん
「魔法の文学館」が児童文学に親しむきっかけになっていることを感じますし、地元の名物として自慢の施設にもなっています。「なぎさ公園」にはポニーランドもありますので、一緒に楽しむ方も多いんですよ。
建物のデザインや色使いも素晴らしいので、若い人たちにも見てほしいです。細部へのこだわりや景色の美しさも、ぜひ体験してもらいたいポイントです。
一番のおすすめは2階の窓から見える桜です。館内のいちご色が縁取りになって、とても美しいので、写真撮影にもおすすめです。
「魔法の文学館」の隣にあるポニーランド。小学生以下の子どもは無料で乗馬を体験できる。(写真提供:魔法の文学館)
オリジナル・メニューが人気のカフェ・キキ
最後に、魔法の文学館の3階にあるカフェ・キキで副店長を務める白濱さんに聞きました。

魔法の文学館「カフェ・キキ」副店長
白濱 由佳さん
お客様に物語の世界を味わってもらうためのメニューやサービスを日々更新中。
――カフェ・キキの楽しみ方についてお伺いします。開館から2年目を迎えて、メニューも増えていますが、おすすめは何ですか?
白濱さん
おすすめしたいのは「JIJIカレー」と「いちご色クリームソーダ」です。
白濱さんが開発に携わった「JIJIカレー」(写真提供:魔法の文学館)
――どうやって生まれたのか教えてください。
白濱さん
JIJIカレーは、「くろねこJIJI」という企画展のコラボメニューを作ろうということになって、店長と一緒に開発しました。最初は“黒猫のJIJI”というテーマに合うメニューということで、何がいいかとても悩みました。いろいろ試行錯誤しましたが、最終的にカレーが一番しっくりきました。こだわりは見た目の可愛さです。期間限定メニューだったんですけど、お客様に人気で、その後通常メニューになりました。
――いちご色クリームソーダも人気ですね。
白濱さん
はい、「星屑ソーダ」という夏のドリンクメニューが好評だったので、新しいソーダメニューを作ろうということになったんです。私の好きなレトロ喫茶の雰囲気を意識して企画しました。お客様からは魔法の文学館のいちご色の世界観に合うと好評をいただいています。写真を撮る方も多くて、季節を問わず注文されています。
いちご色クリームソーダ(写真提供:魔法の文学館)
――多くの方に楽しんでいただくために、意識していることはありますか?
白濱さん
カフェには本当に様々なお客様がいらっしゃいます。平日は大人同士で、お食事やお茶の時間をゆっくり過ごされる方が多いです。一方、土日や祝日は親子や三世代で、いろいろなメニューを注文する方が多いですね。ですので、第一に考えているのは、小さな子どもから大人までが楽しめるメニューづくりです。例えば同じカレーでも「かくれんぼカレー」はスパイスのきいた大人向けの味、「JIJIカレー」はマイルドでお子様でも食べやすい味にしています。子ども向けのバニラアイスも、大人向けにはエスプレッソをかけたアフォガートとしてご提供しています。
――卵アレルギーの方に対応したメニューもあるそうですね。
白濱さん
はい、「キキ ライス」はオムライスなのですが、卵の代わりに豆乳ベースの食材を使っています。卵アレルギーのある方にも安心して食べていただけますし、卵よりも軽く食べられるので、デザートまで楽しめるとおっしゃってくださる方もいます。
卵アレルギーのある方も食べられるオムライスとして開発された「キキライス」(写真提供:魔法の文学館)
――その他に、カフェのおすすめはありますか?
白濱さん
お客様に人気のカレーをおみやげとして買っていただけるようになりました。大人向けでスパイシーな「Kiki’sカレー」と、マイルドで子どもにもお勧めの「Jiji’sカレー」があります。
また、カフェで写真を撮影されるお客様も多いので、入口にフォト・スポットをつくっています。来るたびに違う雰囲気を味わっていただけるように、スタッフが季節ごとに手作りで飾り付けをしています。
秋は、丘の上の芝生でピクニックを楽しむ方も多いので、カフェのメニューをテイク・アウトしていただくのもおすすめです。

季節ごとにカフェ・スタッフが作るフォト・スポット。「Kiki’sカレー」と「Jiji’sカレー」のディスプレイも
――魔法の文学館の世界観と四季折々の季節感で、訪れる楽しみが増えそうですね。
白濱さん
魔法の文学館は、オープン当初からいろいろなメディアに取り上げていただいていますが、まだ知られていない魅力も多いです。カフェのメニューやサービスも、ショップの商品も増えていますし、様々なイベントもあります。新しい楽しみ方もぜひ知っていただきたいです。

『魔女の宅急便』 出版40周年記念イベント告知サイト
https://kikismuseum.jp/post-1629/
【企画/担当】
株式会社乃村工藝社
ビジネスプロデュース本部 第三統括部 施設事業運営部 開発推進課
森 美樹 プランニングディレクター
山崎 純二
青木 莉沙
構成・文:森 美樹、青木 莉沙 撮影:山崎 純二、青木 莉沙
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