空間づくりの“裏側”に広がる信頼とつながりの軌跡 DESIGNART TOKYO2025『CREDIT -手間のかけら-』展 

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2025年10月31日から11月9日まで、渋谷や表参道、六本木など都内各所で開催された「DESIGNART TOKYO 2025」。サステナビリティをテーマとした出展も、今回で3回目となった乃村工藝社。今年も、サステナブルな社会に向けた問いとデザインアプローチをベースに、展覧会『CREDIT -手間のかけら-』を開催しました。

私たちは日々、「一人ひとりのクリエイティビティを起点に、空間のあらゆる可能性を切り拓く」というビジョンのもとで空間づくりに携わっていますが、本展は、「もし、空間作りの“裏側”をお見せすることができたら、モノや空間への思い入れがさらに深まるのではないか」という仮説から構想を広げていきました。

本稿では、展覧会とその会期中に開催したトークイベントの模様などを通して『CREDIT -手間のかけら-』のプロジェクトを振り返ります。

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<再展示のお知らせ>

本展含め、2023年~2025年までの展示を、2026年2月2日(月)~6日(金)まで乃村工藝社で開催される「NOMURA OPEN LAB」内でご覧いただけます。この機会にぜひご覧ください。

DESIGNART Archives
・会場 乃村工藝社 N棟B1階 ノムラスタジオ
・会期 2026年2月2日(月)~6日(金)
・時間 10:00-17:30
・主催 乃村工藝社 クリエイティブ本部 未来創造研究所
・公式サイト NOMURA OPEN LAB 2026
https://rd.nomurakougei.co.jp/topics/event/page/nomura-open-lab-2026

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CREDIT –手間のかけら』原宿 SASで開催

2023年、24年と、「サステナブル」をテーマにDESIGNART TOKYOでのプレゼンテーションを重ねてきた乃村工藝社は、2025年は「そもそも、長く使える、とか、ものを大切に思う、ということをどのように表現するか」「空間の大切にする、という感覚を抱いてもらうには、どんな表現をしたらいいのか」という問いが起点となりました。

プロジェクトのメンバーは、企業PR施設やホテル・レジデンス、博覧会などの空間デザインや、ブランディングのデザインを手掛ける若手のデザイナー6名と、現場の統括や施工管理などを担当する制作管理1名で構成されています。

株式会社乃村工藝社 清水 茂美、安田 紘基、渡辺 耕太郎、西原 海、豊田 真由、山梨 蓮(以上デザイナー)、新井 幹央(制作管理)
※肩書き・所属は2025年11月時点の情報です。

原宿のスペース「SAS」で行った展覧会『CREDIT -手間のかけら-』は、モノそのものの価値や意匠を問うのではなく、「選ぶ基準」や「見方」に少しだけ変化をもたらすきっかけをつくることが、サステナブルな社会に向けた実験的な取り組みである、として構想されました。

展示に向けて普段、乃村工藝社の空間づくりをあらゆる場面で支えていただいている、全国各地の協力会社の方々、とりわけ、工場や施工の現場でものづくりを担っている職人の方々のもとを実際にデザイナーや制作管理者が訪れました。日々使っている道具や工場の隅に残された試作の断片など「かけら」を集め、展示では、実際の道具や試作品を、映像やストーリーとともに展示。誰がどんな作業で使っているか、どうやって作られたものかなど、空間づくりに携わる職⼈の⼿間や⼯夫を可視化することで、空間を大切にする思いを⾼めることを目指しました。

展覧会の会期に先立ち、DESIGNART TOKYOの公式ページで公開されたスペシャルインタビュー(https://www.designart.jp/designarttokyo2025/interview/13591/)で、デザイナーの安田は本展について、「日頃現場や工場に検査などで行くことはあっても、職人の方々の、生の声を聞くような機会がなかなかない、という課題感を逆転の発想で捉えて、作り手側とデザイン側の目線が重なるような展示をすることに、意味が生まれてくるんじゃないのかなと考えています。」と語りました。

また、渡辺は、
「インスピレーションの源になったのが、スーパーマーケットでよく目にする顔が見える野菜。他より多少値段が高くても選びたくなるのはどうしてだろう、と考えた時、もしかしたら生産者の顔というものが、デザインにおける手間や職人さんの工夫に置き換えられるのかもしれないと、考えました。手間や工夫が見えることで信用度が上がったり、映画のクレジットのような、ものづくりの裏側を見てもらうことで価値が上がったり。そういった意味も込められています。」と話しています。

10日間の会期中は、多くの来場者が訪れ、在廊したプロジェクトメンバーや、道具や試作品を提供してくださった協力会社や職人の方々らと交流いただきました。ほんの一部ですが、皆さまから寄せられたコメントをご紹介します。

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  • 乃村工藝社がこのような展示をやってることに意義を感じた。施工会社や職人の立場と、デザイナーや見る側の立場を同等な見せ方で、優劣が無い展示をみせてるのによさを感じた。(デザイナー)
  • モノを売るときには、背景を知ることが大事だと気づくことができた。(メーカー)
  • 普段何気なく目にするものも、見せ方を変えるだけでこんなに格好よく見えるのかと驚いた。(自分たちでは)ボロボロと思うモノでも価値を感じる人もいると気づくことができた。(施工会社)
  • モノ(道具)を使って、それをまた使い、またモノを作るという工程が面白かった。(小学生)
  • デザイナーたちが説明して、会話しながら鑑賞することで理解が深まることもよかった(アート・デザイン関係者)

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『商店建築』塩田編集長を聞き手に、トークイベントを開催

会期中の11月4日に開催したトークイベントは、『商店建築』の塩田健一編集長を聞き手にお迎えし、プロジェクトメンバーを代表して、清水、渡辺、安田の3名が登壇。会場の皆さんへのクイズからスタートしました。

「この道具は何を作るもの、どんな作業をするときに使うものでしょうか」と、展示スペースからピックアップしたアイテムを掲げた塩田編集長。

正解は、細長い木製パーツを丸ノコでカットする際、手を添える代わりに使われている道具、通称「蛇の護り」でした。このほか、金属製のレーザーカッターで正確に作業を行うための走り書きで埋められたメモや、左官壁に模様をつけるためのスポンジやローラー刷毛などが紹介されました。

本展を観た塩田編集長は「いろいろなことを考えさせられたし、感じられた展示だなと思いましたね。」と語ります。

塩田編集長
まず、どういう人がどういうプロセスで作ってるか、を見せていくという手法が、今の時代に合っているな、と。

飲食店のオープンキッチンや、食材のトレーサビリティの考え方は以前からありましたが、例えばスキンケアブランドで製造工程を紹介したり、カフェやイベントスペースを設けたりと、物販の業態においても増えてきています。プロセスを透明にしてお客様に知ってもらうことで、ファンをつくったり理解者を増やしていく見せ方は、今の空間づくりにおける大きな流れのひとつでもあり、本展はまさにその流れに合っていて面白いですね。

そして、展示を見る前と見た後で、街の見え方が変わりました。渋谷駅まで歩いて帰ったのですが、お店のドアノブや、曲がった鉄製のパイプでできた街灯、ガードレールなどが目に留まるんです。“どうやってあんなに直角に曲げたんだろう”とか、“この緩やかなカーブをどうやって曲げたのかな”とか。ものを見る時の解像度が上がり、誰がどうやって作ったか、というところまで想像が及ぶようになって、なんだかやられたなって実感しました(笑)。

清水
とっても嬉しい感想をありがとうございます。まさに“ものづくりの背景の沼”にはまってくれたんだな、と思いました。

これまで伝えられていなかった「手間」「工夫」を見える化

今春ごろから取り組んでいたという本展の準備でしたが、「始まって3か月ほどは、空間がよりよく見えるようなことがこのデザインとしとでできたら、という共通認識はあったものの、なかなか具体的には進んでいなかった」と、渡辺は明かします。

渡辺
メンバーでブレストを続けていく中で浮かんだのが、スーパーで売っている顔が見える野菜に抱いた価値でした。こちらを買いたい、と思う理由って何だろう、と。そして、これを空間作りに落とし込んだら、新しい価値や気づきにつながるんでは、と考えました。

『商店建築』の誌面などでも、関わったスタッフや施工会社などのクレジットが入っていますが、どういう伝え方をしたら顔が見える野菜のようにもっと価値が伝わるんだろう、と。

熟考していった中で、僕らなりの問いかけとして、職人の方々の手間や工夫を見える化することで、空間を大切にする思いを⾼めたり、空間自体の価値を上げていけるのではないか、と。

塩田編集長
なるほど。出来上がった空間をみんなに体験してもらう中で、そこにある手間や工夫を知ってもらうことで、より深く楽しんでもらえるんじゃないか、よりよく見えるんじゃないか、ということですね。

安田
私自身も本展の企画が始まる前から、どこかで展示できたらいいな、と思っていたので、いろんなアイデアを出しましたね。例えば、本展の展示物の一つに、この会場を設営するとき、職人の方々がボードやベニヤ板をカットする下敷きに使ったスタイロフォームを紹介していますが、一つの現場が終わるまでにあれだけ無数にカットした跡が残るんです。でも、設営が終われば捨てられてしまいますし。

「フレームをつけて内照式の照明を当てると、まるで石や木のように見えますが、スタイロフォームなんですよね」と塩田編集長

清水
振り返ると、空間って、出来上がったものに対しての価値だけになっていて、人も時間もたくさんかかっているのに、誰がどうやって作ったのか、というところがこれまであまり見えていなかったと思います。

塩田編集長
言われてみれば確かに大事なことですよね。手間や痕跡と、知識や情報が一緒に伝わることで、楽しい・面白い・きれい、だけではない深い感動を得られるのは、人間ならではの楽しみ方でしょう。

映画のエンドロールのような空間、役割がわからない道具の展示

本展の空間全体について「映画のエンドロールのような、一枚の紙が浮遊してるようなイメージで、その上に携わった方々の痕跡を並べた」と安田。

塩田編集長
まさにデザイナーの腕の見せ所ですね。私たちのものの見方を変える、現代アートのような楽しみ方もできる空間ですね。

今回の展示のタイトル『CREDIT -手間のかけら-』には、本展のコンセプトがよく表現されていますが、リサーチを経て、ここに展示しているものを全国の工場やお取引先から集めてくるのも、相当な手間がかかっていますよね。

渡辺
そうですね、まずは今回、道具展ではなくて、空間づくりってこんなに変わったものやいろんな人が携わっていて面白いんだ、ということや、その価値をお見せしたい、と考えて集めてきました。

空間づくりって、全てがオートクチュール、特注です。その道具も全て、そのためだけに作られていますし、工場へ行くと、見たこともないような道具がたくさんあるんですよね。
なので展示するものは、オートクチュールなものづくり・空間づくりならではの、人間らしい道具や、職人の方々の愛情を感じるような道具を選んでいます。

清水
僕が集めてきたときのポイントは、いい意味で、クセのあるもの、ですね。持ち主にお話を聞いて、その方の知恵がもののかたちに現れているもの。

安田
僕も、単にカッコいいから、美しいから、というより、どれだけ時間をかけてできたものなのか、という、時間的価値の視点もあるかもしれません。

塩田編集長
なるほど、人間らしい道具とクセのあるものって近しい意味合いがありそうですし、道具から、そこにかけられた手間や時間を感じ取れるかどうかって大事ですね。だから、役割がはっきりしていなくて、何の道具かがわかりにくいんですね、面白いです。

ちなみに、登壇した3名に、お気に入りのアイテムを聞くと、安田は、前述したスタイロフォームを紹介。渡辺は、カラフルなベニヤ板を挙げました。

渡辺
まるでジャクソン・ポロックの(ドリップ・ペインティング、床に置いたカンヴァスに絵の具をまき散らして描かれた)作品のようにも見えますが、塗装工場で使用済みの一斗缶から流れてくる塗料が、倉庫の壁や床につかないように置かれていたものです。

今回の展示のためにお借りしようとしたら、なぜゴミを持っていくんだ?と言われましたが(笑)、20年くらい前から置かれてきたもので、その時間の積み重ねにも価値があるのでは、と。現場の工夫によってたまたまできたもので、作ろうと思って作れるものじゃないですし。

塩田編集長
面白いですね。単に工場の壁に立てかけてあるだけだったら、多くの方は目にも留めないかもしれませんが、まさに見え方が変わって、鑑賞に堪えうるアート作品のようですね。これを選んだ渡辺さんの感覚もユニークです。

そして清水は、特注の照明器具を組み立てるときだけに使う、柄の長い延長ドライバーを「発想が面白い」と紹介。

その持ち主であり、来場していた茅野照明製作所 茅野さんからは、「全ての照明器具が特注なので、そのための工具は都度、工夫して作っています。わりと簡単に作れるものもあれば、ちょっと試行錯誤して作ったものもありますね。」とコメントいただきました。

最後にマイクを渡されて登壇した、制作管理担当の新井が挙げたのは、C型のフック。「塗装の年輪」というタイトルがつけられています。これは塗装作業に使用されたC 字フックで、断面に積み重なった塗料層は長い時間と作業の跡を示されています。

新井
塗装するアイテムをここに引っかけて使うものですが、最初はもっと細くて、塗料を重ねれば重ねるほど、厚みが出て層になっていっていました。ここに、塗装をかけただけの年月と手間が、まるで年輪のように現れているところが気に入りました。

CREDIT」と「手間のかけら」から広がるもの

トークイベントの終盤、塩田編集長から、「今後のものづくりにおいて重視していきたい本質的な価値とは」、「空間デザインにおいて届けていきたい価値とは」という問いかけには、今の社会において大切なものとは何か、を考えるような時間へと広がり、とても興味深い対話がなされました。

清水
我々デザイナー、作り手や職人の方々、両者をつなぐ制作・施工の担当者などいろんなメンバーが関わっていますが、まずはやっぱり、お互いがプライドとリスペクトの気持ちを持って、良いものをつくろうと思い続けて取り組むことがポイントかな、と思います。適切な距離感で、もっといいもの作りたいからこうしたいけれど、どうしたらいい?と、コミュニケーションをとれることが大切かな、と。

塩田編集長
それは雑誌作りにおいても感じることですね。伝え方って大事だし、そこを壊してしまうと、お互いが良いこと考えていても、優れた技術があっても、うまくいかなくなってしまいますよね。

安田から「一社一社にフォーカスした展示はあるものの、こうしてさまざまな企業や個人を一堂に紹介する機会は少ないと思いますが、率直にどう思われましたか」と問いかけられた塩田編集長は、「すごく珍しいものを見せていただいて、僕自身もすごく勉強になったし、ありがたいっていう感じがします。」と話したあと、

「すごく大きな話ですが、戦後、とりわけここ30年ぐらいでしょうか、我々の社会、特に都会で暮らしていると、いろんなものがブラックボックス化されているように感じます。」と続けました。

塩田編集長
今は、出来上がったものを一方的に享受するしかなくて、途中のプロセスに個人が介入できないような感覚を覚えますが、それはとても不健全ですよね。
でも、ものづくりの過程にはたくさんの人が介在していて、相談や折衝や、工夫していくことで変えていける、という気持ちを持てるって、とても大事なことだと思います。
そういう意味で、この展示のように、これまで見えていなかったものを見せ、誰もがそこに介在できる・参加できる、と思えることは、ものすごく重要だ、という気がしました。

渡辺
本展のタイトル『CREDIT』を直訳すると信用ですが、空間デザインって、まさに信頼関係で成り立っている業界だと思います。我々が書いた図面や完成イメージから想像してもらって、こんなことができます、という提案を、いかにクライアントや協力会社の皆さんに信用してもらえるか、ですから。

安田
メンバーとも、この展示の場が、体験する側やものを買う側と、作り手の側との間をつなげていく場であったり、いろんな信頼やつながりが生まれていく機会になったらいいよね、と話していました。

清水
信頼、って、人間しかできないことかもしれませんね。そしてこうやっていろいろ考えられるということも面白いですよね。

ものづくりにおいてはもちろんですが、こうやっていろいろな視点や言葉にふれて考える、その考えを深めていく機会にこの展示がなっていたら嬉しいですね。

塩田編集長
信頼、大事ですね。このトークイベントを通して人間らしさとか時間とか、知恵、工夫、手間、痕跡、キーワードがたくさん出てきましたが、信頼関係は重要ですね。

そして、本展のサブタイトル『手間のかけら』のかけらからも、いろんなインスピレーションがわいてきます。断片的なもの、かけらのようなものがずらっと並んだ展示だからこそ、どの順番でも、どこから見てもいいし、新たな用途が浮かんだりもします。展示を見た人それぞれが、いろんなことを感じて考えられる。開かれたオープンエンド、開かれた面白さがある展覧会ですね。

このプロジェクトを通じて、私たちは、ものづくりの現場に息づく手間や工夫、そしてそこに込められた人々の思いに触れることができました。普段何気なく目にしているモノも、見せ方や語り方によって新たな価値が生まれ、誰もがものづくりのプロセスに関わることができる可能性も感じました。
職人、デザイナーや制作管理者、参加者の方々――それぞれの立場や視点が交わり対話することで完成した展示で、「空間を大切にする思い」が育まれた10日間でした。
この取り組みが、ものや空間の背景にある物語やつながりを感じるきっかけとなり、豊かな社会に向けた気づきになれば幸いです。

本トークイベントのハイライト動画(10分)はこちらからご覧ください。
https://youtu.be/KsdX8fVOb_8

プロジェクトメンバー:株式会社乃村工藝社 責任者 山口 茜/クリエイティブディレクション 清水 茂美/デザイン・展示構成・制作 安田 紘基、渡辺 耕太郎、西原 海、山梨 蓮(以上デザイナー)、新井 幹央(制作管理)/ビジュアルディレクション 豊田 真由/プロジェクト・マネジメント 隅田 真衣、井部 玲子/広報 岡村 有希子、佐々木 敏恵、安藤 俊太郎、春名 宏美

※肩書き・所属は2025年11月時点の情報です。

文:Naomi
写真:山梨 蓮/ナカサアンドパートナーズ

関連リンク:

DESIGNART TOKYO 2025『CREDIT -手間のかけら-』 出展概要ページ、インタビュー

https://www.designart.jp/designarttokyo2025/interview/13591/

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“空間と体験”を追求するチーム
プロの目線で“空間と体験”の可能性を切り取ります