MUTEK 2019 レポート【後編】

高橋 侑希
高橋 侑希
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高橋 侑希

2019年12月に渋谷エリアで開催された
オーディオ・ビジュアルアートと電子音楽の芸術フェスティバル「MUTEK.JP」をレポート。
前編に続き、後編は舞台をLINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)へ。
LIQUIDROOMで開催された会期中唯一のオールナイトプログラムもレポートします。

最新ホールで着席鑑賞 アーティストに向き合う

Day4のプログラムは2019年10月に完成したばかりの最新ホール、
LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)でスタート。
電子音楽の鑑賞スタイルとしてはめずらしい、全席着席型です。

カナダの本家MUTEKで大絶賛
黒川良一のパフォーマンス「subassemblies」

黒川良一氏はベルリンを拠点とする日本人アーティストです。
2010年にアルスエレクトロニカでデジタルミュージック/サウンドアート部門のグランプリを受賞し、現在も世界的に活躍しています。
今回のプログラムは、自然・建造物・廃墟の点群データをレーザースキャナによって取得し、再構築した映像が見どころ。コンクリートの構造物から森林まで、目をみはるような高解像度の映像が3Dビューで展開しながら、切り裂くような鋭い電子音や、全身に響く重低音が映像とリンクし、独特な世界観を作り上げます。
「自然と人工の対比」というテーマにふさわしい、思わず何度も息を飲むような圧倒的なステージでした。

全席完売した人気プログラム
Rhizomatiks Research・ELEVENPLAY・KYLE MCDONALD

会期中に最も注目を集めたのが、著名トップクリエイターによるダンスパフォーマンス「discrete figures」。
真鍋大度氏と石橋素氏が率いるRhizomatiks Research、演出振付家のMIKIKO氏が率いるダンスカンパニーELEVENPLAY、メディアアーティストのKYLE MCDONALDによるコラボレーション・ステージです。
会場内の約2,000席が満席となるほどの盛況ぶりでした。

スタート後しばらくすると、舞台上にカメラマンが登場し、ダンサーのリアルタイムの映像が背景に映し出されます。踊りに呼応するように、光のトラッキングなど拡張現実(AR)の演出が映像上に現れます。

ショーのクライマックスでは、舞台上に存在しない「ダンサーアバター」が一人、映像上に出現。
実際のダンサーと協調するように踊ります。おそらく機械学習で生成されたであろう滑らかな動きが、リアルと虚像の境界をますます曖昧にしていきます。

終わった後は「とんでもないものを見てしまった…」というのが率直な感想でした。
拡張現実(AR)の更なる拡張…と言うと難しいかもしれませんが、目の前で踊るダンサーと背後の映像、どちらが現実でどちらが虚像なのか、のめり込むほどに区別がつかなくなってくる非常に不思議な体験でした。
観客と体験を共有する、リアルな舞台芸術だからこそ成立する表現だと思います。

LIQUID ROOMで一晩中踊り明かす

4日目の夜は、恵比寿のライブハウスLIQUID ROOMでオールナイトプログラムを開催。
日付が変わる頃からすでに多くの人が長い列を成しており、アルコールを楽しみながら会場の中は一気にリラックスモードに。

マインドに響くダンスミュージックを奏でるRrose

深夜1時からのメインステージには、アメリカのテクノアーティストRroseがプレイ。
嵐のような轟音で、音を超越した振動を全身に感じながらのスタート。生々しく民族的な、細部まで計算し尽くされたサウンドで、次第にリズムが刻まれていきます。アンダーグラウンドかつ前衛的な1時間のステージで、会場の熱気は更に高まりました。

ベルリンを代表するアンダーグラウンドテクノ・デュオLADA

ベルリン出身のDasha RushとLars HemmerlingによるLADA。
世界遺産に登録されたナイトクラブとして有名なBerghainや、テクノのメッカと呼ばれるTresorなど、ヨーロッパの著名なフロアでの実績があります。
深夜2時、二人の登場と共にステージに運び込まれた機材テーブルの長さにまず圧倒されました。
全身が揺さぶられるようなキック音や、何層にも重ねられたソリッドなサウンドなど、音の情報量の膨大さに衝撃を受けます。これぞインダストリアルテクノと呼べる、一音も聞き逃せない展開で1.5時間のプレイがあっという間に感じるほどでした。

ホール全体を使った 光と音のイリュージョン

いよいよ最終日。再びLINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)に戻ります。

モノクロの反射光と電子音の世界を作るFalaises

Falaisesは、作曲家のGuillaume CôtéとAlexis Langevin-Tétrault、映像作家のDave Gagnonでコラボレーションする、カナダ・ケベック出身の3人組です。
目に入るのはステージの左右にある巨大な反射板。会場後方まで届きそうなほどの反射光と、ノイズをベースとした電子音が調和し、迫力あるステージを作り上げていました。

梅田宏明によるノイズ・ダンス・錯視が融合するパフォーマンス

振付家、ダンサー、映像作家の梅田宏明氏は、ジャンルを超えた独自のステージを創造し、ヨーロッパを中心とする世界各国から招聘されるアーティストです。
今回のプログラム「Median」では、強弱づけられた様々なノイズ音と、梅田氏のダンス、背景に投影される洪水のような光の造形が見事に融合。「時間と空間を振り付ける」というテーマの通り、デジタルクリエイションの中にも身体性が感じられる、印象的なステージとなりました。

Robert Henkeによるレーザーと電子音楽のショー

5日間の最後を締めくくるのはドイツのアーティスト、Robert Henke。
高精度のレーザーを用いた独自のステージは「Lumière(リュミエール)」と題し、ヨーロッパを中心に世界各国を巡回しています。

この日はRobert自ら客席の一部に席を設けて操作する「観客目線」のパフォーマンス。
会場後方から発射される何本ものレーザーがスクリーンに投影され、あらゆる図形を形成しながら、音楽と呼応して変形していきます。
いわゆる「レーザービーム」のような鋭い音で直線が描かれていく場面もあれば、重低音で一定のリズムを奏でながら複数の円が大きさを徐々に変えていく…というパートもあり、観ている側を飽きさせません。
音に合わせて寸分のズレもなく動くレーザー図形はまるで生き物のようで、映像から音が鳴っているのか?と錯覚するほどでした。

終演後は会場中がスタンディングオベーション。大喝采の中、幕を閉じました。

終わりに

前編、後編に渡り、MUTEK JAPANをレポートしました。

元々電子音楽好きの筆者ですが、アーティストによって表現がこんなにも変わるのかと、サウンド&ビジュアルクリエーションの魅力を再認識できたイベントとなりました。
5日間参加し続けた後は、自動車の発進音から子供の泣き声まで、あらゆる環境音が音楽として感じるほど耳が肥えた状態がしばらく続くほどでした。

空間によって変化する 電子音楽の楽しみ方

3つの会場で異なる鑑賞スタイルを体験できたことも、今回の大きな特徴でした。

フロアの好きな場所で気ままに楽しむスタンディング、深夜ならではのムードで踊り明かすナイトクラブ、着座でじっくり集中する劇場スタイルなど…

“電子音楽=ナイトクラブorフェスで踊りながら楽しむ”というイメージが強い中、一つの芸術としてアーティストの世界観にじっくり向き合う、という鑑賞方法も楽しみ方の一つであると発見できました。

次回開催も期待されるMUTEK JAPAN。
今まで見たことも聞いたこともない、新しい表現の世界を堪能してみてはいかがでしょうか。

 

開催概要 ※会期終了しております
MUTEK.JP EDITION4
https://mutek.jp/
会期:2019年12月11日~15日
会場:渋谷エリア9会場(SHIBUYA STREAM HALL、LINE CUBE SHIBUYA、EDGE OF、LIQUIDROOM等)
主催:MUTEK JAPAN

Photo:MUTEK JAPAN

前編の記事はこちらから

MUTEK 2019 レポート【前編】

MUTEK 2019 レポート【前編】

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高橋 侑希

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