「曖昧なビジネス用語」を大切りする vol.1

阿部 鷹仁
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阿部 鷹仁

押  忍

突然ですが、この押忍って言葉、使ったことはありますか?
私は高校・大学と学生時代の多くを空手部ですごしたこともあり、押忍の魔力に魅せられた人間の1人です。

押忍は一説に「はようございま」が簡略化されたもので、「耐え難きを耐え、忍び難きを忍ぶ」という押し忍びの精神が、後に漢字としてあてがわれたと言われています。それはさておき…、この押忍、実は「コミュニケーションの万能薬」でして、学生時代の私は随分と依存していました。
その後、言葉を多用するプランナーという職種に就いてはじめて、この事実を痛感するわけでありますが…。

押忍の三段活用

では一旦ここで、押忍の魔力を体感いただくべく「押忍の三段活用」をご紹介します。

❶ 応答(稽古で辛いとき)
先輩 : 全然声出てねーぞ!気合い出せー!!
わたし: 押忍!!(意味:はいぃー!)

❷ 返答(先輩から詰められたとき)
先輩 : で、忘年会の段取りはできたのか?
わたし: 押忍…。(意味:完全に失念していましたが、今夜お店予約しておきます!)

❸ 疑問(いまいちわからなかったとき)
監督 : 前膝が支えている力を脱いて、重心が自然と傾く推進力を利用して突くんや、素早くな。
わたし: 押忍??(意味:えっ、どういうことですか)

と、こんな風に、お互いの暗黙知の中で大方の会話を「押忍」で成立させることができるわけです。
限られたコミュニティでの、超ハイコンテクストな文化で成立していた押忍ワールド。これは捨てたものじゃなくって、反復練習(ルーティーン)がものを言う厳しい鍛錬の世界では、己を無我の境地へ誘うマジックワードとして、非常に機能していたのだと思います。

その言葉、正しく理解して使っていますか?

で、苦労したのがプランナー人生のはじまり。ビジネスコミュニケーションには言葉が欠かせない。ましてや戦略を言語化していくプランナーなら尚更。企画書にしたためるのはできるのに、会話となるとどーもまどろっこしくなる、話がなが~い奴になる…。あぁ…、とりえあえず「押忍」って言いたい…。
あうんの呼吸では運ばないビジネスの場面において、言葉の使い方・選び方はとてもクリティカルなのだと実感させられる日々でした。

ところで、わたしの席向かいに中国出身のプランナーがいるんですが、彼女が時折する日本語への質問には、いつもハッとさせられます。

「おざなり」ってナニ?
「なおざり」ってどーゆうイミ?

あらためてそんなふうに問われると、明確に説明がしきれないことがあり、普段いかに雰囲気だけで言葉を使っているのかと痛感させられます。

正しい言葉づかいは「ショートカットキー」みたいなもの

ことビジネスでは頻出する言葉があります。この言葉が互いに正しい(同様の)認識であると、共通言語としてスムースに話が運ぶ一方で、互いに認識がずれている(あるいは意味を知らない)と、なんだか腑に落ちなかったり、わかったふりをしてモヤっと進めがちだったり…。
言葉を多用するプランナー職だからこそ、言葉の正しい意味を理解して正しく使いたい。互いの言葉の共通認識ができていれば、それはまるで「ショートカットキー」のようにビジネスをパチッと前進させてくれるはず!

ということで、当エッセイでは「よくビジネスで出てくるけど、曖昧に使いがちな言葉」を選出し、その差分について大切りしてみたいと思います。

曖昧なビジネス用語①|問題と課題

「この案件を成功させるためには問題がありまして…」「いやぁ、これは実に困った課題だなぁ…」、普段何気なく使いがちな、問題と課題という言葉。一見似たものに聞こえますが、この両者には明確な差分があります。例えば、

朝、会社へ向かうべく玄関を出たら、大雨が降っていた・・・』

こんなシチュエーションがあったとすると、ここでの問題と課題は何になるでしょうか?
結論から言うと、

問題は「大雨が降っていて容易に出かけられない事象」、
課題は「大雨で容易に出かけられない事象への対応」となります。

つまり、

問題: 困った事象そのもの(Problem)
課題: 困った事象への対応(Task)

であり、発生した問題(Problem)に対し、課題(Task)を設定する、というに関係性になります。
なので、家から出たときの「まいった、今日は雨かぁ…」の問題(Problem)に対し、「いかに雨に濡れないように出社するか…」と課題(Task)設定をするわけです。

昨今、「問題発見」や「課題設定」といった、「課題解決」に取り組む以前の川上ワードに触れる機会が増えていますが、上記の差分で考えるとこの二者も随分違うものであることがわかります。

新しく立ち上げた飲食店がうまくいってない・・・

仮にこんな状況があったとすると、「問題発見」はその状況をつくっている痛みを探ること。「うまくいっていない」の裏にある、収益性が低い…とか、顧客が少ない…とか、満足度が低い…などといった、痛みの問診のようなものです。

一方、「課題設定」は痛みを取り払うための方針を設定すること。つまり、いろんな痛みがある身体の内、どこにどう対処すべきなのか治療の方針を定めることと言えます。同じ風邪でもお医者さんによって治療や処方が異なるように、問題に対する課題設定は、戦略の方向性を左右するキーサクセスファクターになり得ます。

例えば先程の「収益性が低い…」は確かに問題の1つですが、それに対する課題が「売上の増大」なのかといえば、必ずしもそれだけに限りません。「コストカット」や「マージンミックス」も課題設定になり得ます。つまり、1つの問題に対して課題は幾通りも設定することができ、ここの掛け違いをすると、いくら課題解決に取り組んでも、問題を根本から解消することには至れません。

ともすれば、混同して使いがちなこの「問題」と「課題」。ProblemとTaskの関係性を理解しつつ、取り組むべきが「問題発見」なのか「課題設定」なのか、はたまた「課題解決」なのか、冷静に判断したいものです。

今回の「曖昧なビジネス用語」の大切りは一旦ここまで。
次回は「顧客層と顧客像」について大切りをしてみたいと思います。

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