- text and edit by
- 井戸 幸一
新型コロナウイルスへの対策状況の観察から
ウィズコロナ時代のミュージアムはどうあるべきかを考えてみると…。
2020年5月25日に、全国で緊急事態解除宣言が解除されました。
それに伴い、経済が再始動し、街に行き交う人が戻ってきました。経済活動のみならず、ミュージアムをはじめ多くの文化的な諸施設も制約つきながら順次再開となりました。ステイホーム生活で我慢しながら、文化的な活動を希求していた人々にとって、大きな喜びだったことでしょう。実際知人から聞くところでは、「ミュージアムの再開を待っていた」という来館者の喜びの声に力を得たといいます。
■休館中に起こったミュージアム関係者の団結と悩み
休館中に再開に向けて頑張っていた、ミュージアムの職員や学芸員の方々の努力に注目してみたいと思います。
あまり一般向けにミュージアムの裏側の情報が発信されることは少ないのですが、多くのミュージアム関係者が、お互いの情報を交換し、共有する動きを見せていました。
そこでは同じ困難を乗り越えようという連帯意識から、現状でできることや再開後のことを議論していました。
(例えば、科学館有志グループを中心に、宣言解除前の5⽉19⽇から「科学館の再開館対策に関するアンケート」の調査結果の集約などが行われています。)
また、ミュージアムからの情報発信として、各館独自の動画配信など”オンラインミュージアム”を開催。
個々の取り組みを横断的につなげようと、北海道博物館の提唱によって、
3月の早い段階から学校がはじまるまで子どもたちが家庭で楽しく学べるプログラムの提供「おうちミュージアム」がインターネット上で開催されました(URLはこちら)。
参加館は北海道から沖縄まで200館を超えたことは特筆されます。
関連して、日本博物館協会からも、5⽉14⽇に「博物館における新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン」が公表されました(URLはこちら)。
但し、このような指針は大規模館の想定が多く、地方のミュージアムでは各自治体の指針に倣っているために、その対策は自治体ごとにバラバラであったり、模索が続いたりしていました。
現場においても、実際的に解決しなければいけない課題が多く、消毒ひとつとってもどの薬剤を使うか、どのように使うか、来館者や展示への影響はないかなど、悩みは尽きなかったといいます。
私自身も2件の企業ミュージアムを3月と5月に納めたのですが、オープンがままならない状態でした。
7月に入り、ようやく2つともオープンとなりました。
■再開したミュージアムで見た“ニューノーマル”な空間
そんな動きを経ての再開でした。
ミュージアムの展示づくりを支えるプロとして、今後何ができるかと考えながら、
近年オープンしてからまだ見ていない施設を中心に、
再開後のミュージアムを訪れています。
果たして、ウィズコロナ時代のミュージアムがどういう状況にあるのか?
そこには、以前とは異なる日常が目に見える形で展開したミュージアムがありました。
試行錯誤、困惑、不安。そういったものが凝縮されたような、滞在時間を費やすことも憚られ、空気の違いを重く感じます。一言でいえば、新型コロナウイルスを拡大させないための感染症対策ですが、多くの制約を来館者に課し、運営サイドにも大きな負荷やストレスを与えています。それが“ニューノーマル”であり、ウィズコロナ時代のミュージアム施設の実情でした。観察的視点で見学しながら、ざっと概観すると、以下の5つに対策の特徴を絞ることができそうです。
<ミュージアムの主な感染症対策>
感染拡大を防止する観点からは、距離・密度・換気や消毒・非接触・動線といったことが空間を構成する際のポイントです。実際に訪れたミュージアムでは、入館に時間がかかり、例えばパソコンをバックパックに入れていくと、どこもロッカーは全て利用不可。一方向動線で階段を使った上下移動、座るスペースも制限され、ステイホーム生活で歩くことが少なくなっており、非常に疲れたことが大きな印象でした。
対応策の事例を一部ご紹介します。
対応策の例(1)ご来館者カードの記入
感染者発生の際の濃厚接触者の追跡などに対応可能ですが、どこまで個人情報を取り扱うかといった課題が生じました。
対応策の例(2)消毒液の配置
消毒液をどこに配置するかで在庫量なども変わってきます。どうしても体験させたいアイテムは、消毒液と介助者の配置などの工夫が必要となってきました。
消毒液配置の工夫(写真提供:上越科学館)
対応策の例(3)物理的な撤去
タブレットの間引きや座席数の変更など、物理的な対策は有効である反面ミュージアムの持つワクワク感や魅力をそぐ可能性もあります。
対応策の例(4)ご協力の依頼周知パネル
アイコンを使って分かりやすく表現しつつ、館内利用のお願いを周知。どんな取り組みを行っているかで安心感を持ってもらうことも大切となりました。
ご協力依頼パネルの工夫(写真提供:もりおか歴史文化館)
■観察したウィズコロナ時代のミュージアムに思うこと
ここで1つ言及しておきたいのは、感染を防ぐことは第一ですが、全てを制限することは来館者サービスの質と内容の低下を招き、ミュージアムの「体験価値」を損なうのではないかという懸念です。
現時点で確定的だったり予見的なことは慎重であるべきですが、少なくとも現状に近い状態がワクチンの開発まで続くとしたら、その期間に全てを制限することは、ミュージアムにとってかなりのダメージになることが考えられます。それを緩和する工夫やアイデアが必要かもしれません。
2つ目の言及ですが、今後ミュージアムに行くこと自体が、より目的がはっきりしないと行きづらい可能性があるということです。言葉を換えると、ストーリーのある特別な体験や発見が空間の中にあるなど、リアルな体験価値がより求められるのではないかということです。その視点をきっかけに、再検討をしていく作業も必要かもしれません。
付記
積極的な取り組みとして、再開館に向けた日本科学未来館の「COVID-19 対策ガイドライン」とその展示は注目されます。全国のミュージアムの指定管理を行う当社PPP事業部でも、事業拠点向けのチェックリストを作成し、各館でマニュアル作成を行うなど組織的な取り組みがなされています。
なお、上記の文章を書いている途中で、Go To トラベル事業がはじまり、全国で感染者が増加し始め、まだまだ確定的なことを書くのに躊躇が生まれました。さらには、独自の宣言を発した県では、再度のミュージアムの休館が起こっています。いろいろな戦略や文化のサポートが今後必要になってくるといった思いを強くしています。
当社では現在、ウィズコロナ時代の科学館の展示アイテムを研究しています。個別の対策としては、抗菌抗ウイルスのコーティング施工やインタラクティブコンテンツを非接触型のセンサー方式に変えることも可能です。リニューアルの機会の改善対策や運営と合わせた対策のアドバイスも可能なので、お悩みの方はお気軽にご相談ください。
まだまだ試行錯誤が続きますが、ウィズコロナ時代の悩みを解決しながら、
ミュージアムの明日を考えていきたいです。
参考元
「おうちミュージアム」
日本博物館協会「博物館における新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン」
日本科学未来館の「COVID-19 対策ガイドライン」
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