新時代における文化財と観光

渡邉 創
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渡邉 創

観光創造は地域創造!

一昨年のことになりますが、乃村工藝社は北海道大学観光学高等研究センター(CATS)と、産学包括連携協定を締結しました。CATSとは、これまで赤れんが庁舎のリニューアル構想策定や文化遺産マネジメントに関する研究会など、地域の文化・自然資源を地域づくりに展開するための研究交流を続けてきましたが、近年、衰退する地域社会を支える産業として観光が注目される中で、両者の強みを生かしながら、地方創生につながるツーリズムに関する実践的な共同研究、産学連携の推進を行っていくために、 連携協定の締結に至りました。 乃村工藝社が大学などの研究・教育機関と連携協定を結ぶのも初めての試みです。

産官学、総勢107名の参加者により開催

この研究・交流活動の一環として、2018年1月12日、13日の2日間にわたり「観光創造研究会」を文化の街・京都、東山の「パビリオンコート」(国登録有形文化財)にて開催いたしました。新たに京都に一部移転した文化庁の方にもご参加いただき、北は北海道から南は竹富島の方々まで、歴史文化まちづくりを進める産官学の3者が一堂に集い、文化財を取り巻く新しい時代のシステムを、持続可能な観光とどのように結びつけていくかの議論を行いました。
日本全国より、総勢107名の研究者、行政、実務家らの参加を経て、活発な議論が交わされました。
そもそもこの研究会は、国立民族学博物館で石森秀三先生(初代CATSセンター長、現北海道博物館館長)が座長としてはじめられたもので、途中中断された時期があったものの、再び北大CATSの主要な行事として行われているものです。観光を軸に多様な分野の研究者、行政、実践家、企業が一堂に会し、ラウンドテーブル方式によって分け隔てなく議論を交わす、脳がフル回転する2日間でした。

研究会のテーマは「新時代における文化財と観光」

研究会の議論の一部と、それに対するわが国の動きと私たちの考えを紹介いたします。
2018年度文化庁が一部京都に移転し、さらに2018年6月に文化財保護法の改正の成立により、観光と保存活用の関係を見据えた動きが加速してきています。年間観光客がついに3,000万人を超え、2020年4,000万人の目標はすでに実現可能なものとなってきています。インバウンドをはじめとする増加する観光ニーズへの対応が新たな時代の日本を切り開く力となっていくことは疑う余地もありません。
文化・芸術や、文化財にかかる法律の改正が相次ぎ、観光という言葉が日本の文化・芸術振興のなかに深く位置づけられるようになりました。従来は地方自治体の教育委員会の所管とされていた歴史的文化財の保存活用も、政策を推進する首長部局の所管が認められるなど、文化財の観光を目的とした活用は、今後ますます活発化していくと考えられますし、全国を業務で訪問するなかで、そうした声は新年度を迎えどんどん高まってきています。
新たな年号「令和」にも、文化による平和な国造り、といった願いが込められているといえますが、祖先から受け継いだ貴重な財産を、いかに守り伝え、活用していくか、本質的な議論を行っていく必要があります。地域に点在する文化財を包括的に連携させ、歴史・文化財によるまちづくりを推進していくことは、これからの時代における重要なキーワードであることは間違いありません。

日南市「創客創人をコンセプトとしたまちづくり」

乃村工藝社が地方自治体とはじめて包括連携を結んだ日南市における「創客創人をコンセプトとしたまちづくり」では、飫肥地区における歴史的建造物保存地区の活性化が進められています。歴史的な武家屋敷を交流施設や宿泊施設として活用するとともに、街の住民たちの活用への機運を醸成し、ひとを創り、内外の人を集め、持続可能なまちづくりに向けた取り組みの実践が段階的に進められています。
ともすれば文化的な事業は、税金を投入する、補助金によりおこなうといった視点でとらえられがちですが、日南市でのポイントは、基本的に民間事業者の資金調達・投入によりこうした事業が実践されていることです。行政による規制緩和をはじめとするサポートが事業を後押しし、一つの東京資本による宿泊事業の成功が、地域住民による飲食施設の事業化につながるなど、連鎖的に産・官・民が一体となったまちづくりがひろがってきています。

地方創生を実現に導く考え方-pppによる公共サービス提供を考える。

公共財である文化財を維持・管理していくことは、維持管理費の面からも国や地方自治体にとって、非常に大きな課題とえいます。高度成長期のインフラ危機も同時に叫ばれるこの時代において、地方創生を実現に導く新たな考え方として、官民連携による公共サービスの提供手法PPP=Public-Private Partnershipが注目を集めています。
また、乃村工藝社が13年前から指定管理者として運営を行っている「長崎歴史文化博物館」の事例や、日本初の「監獄ホテル」としてPFIコンセッション方式で整備・経営が進められている「奈良監獄ホテル(仮称)」の事例を通じて、新たな仕組みと可能性についても議論が交わされました。
監獄をホテルに?と聞くと少々違和感を覚えるかもしれませんが、監獄というのは法治国家のある意味シンボルであり、明治近代国家が諸外国と対等に渡り合える国になったと示すため、法律はもちろん近代的な監獄の整備が求められ、作られたものです。赤れんがづくりで非常に美しい建物です。
(奈良監獄については、http://former-nara-prison.com/ 参照)
奈良監獄ホテルは、滞在型観光交流の拠点としての役割が期待されており、宿泊機能はドミトリータイプと上質なホテルサービスを提供する文化財ホテル(新設部分含む)との2つの機能を提供する予定となっています。2019年3月末に、星野リゾートがこのホテルのサービスを担うことが発表されました。
ヨーロッパでは既に監獄ホテルの事例はいくつか見られていますが、このような複合的な展開は初めての試みでもあり、どのようなホテルとして、また地域のシンボルとして活用されていくか、オープンが待たれます。国の号令のもとに様々に進められている観光立国施策は、少し性急すぎる気もしていますが、新しいチャレンジであることは間違いありません。

今後とも、北海道大学観光学高等研究センターとの包括連携・共同研究を通じ、
地方創生に対するさまざまな研究と実践アプローチを行っていきます。

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渡邉 創

渡邉 創

ミュージアム×観光創造プランナー
文化の力で、明日の地域を創ります

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