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- 乃村工藝社 アーカイブチーム
2025年8月上旬、当社は大阪事業所内にある「EXPO GALLERY」の一般公開を行いました。これまでEXPO GALLERYは、主に顧客や研究者を対象とした限定公開として運営してきましたが、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)を迎えた今年、より多くの方々と「万博の意義」や「空間づくりの力」を共有したいという想いから、一般公開に至りました。
当初の想定を大きく上回る応募があり、4日間で6回開催し、総勢67名の方にご来場いただきました。好評のうちに終わったイベントの様子をレポートします。
乃村工藝社と博覧会資料
まずは当社が所蔵する博覧会資料とEXPO GALLERYについて簡単にご紹介します。
当社は現在、約2万点の博覧会資料を所蔵しています。ベースとなっているのは、博覧会の実務者で研究者だった寺下勍氏から寄贈されたおよそ1万点の資料です。「私蔵することなく、世の中に役立てること」という条件のもと寄贈いただき、2005年には「博覧会資料COLLECTION」としてデータベースも公開しました。
そして、大阪・関西万博の開催に向けて、2022年に「EXPO GALLERY」を開設。資料を保管するライブラリーと、その中からピックアップした資料を公開する展示室からなるギャラリーとなっています。
当社コーポレートサイトにて「博覧会資料COLLECTION」を公開
博覧会のメダル紹介
イベントの最初は、大阪事業所の受付フロアで展示しているメダルの紹介からスタートです。ここでは、明治時代から昭和初期にかけての日本の博覧会のメダルを展示しています。
当時の博覧会には褒章制度があり、これらのメダルが授与されていました。この制度が後にオリンピックでのメダル授与につながったと言われています。
メダルはデザインや形もさまざまで、中には四角形のメダルもあります。
さっそく参加者のみなさまは興味津々な様子で、展示ケースをのぞき込んでいました。
大阪事業所19階受付フロア
万博の魅力とその影響
メダルの紹介のあとは、フロアを移動し、「万博の魅力とその影響」と題しておよそ30分間の講演です。「万博とは」「博覧会と乃村工藝社」「変わらぬ万博の魅力」「人間の営みを変えた万博の影響」と4つのテーマに沿ってお話しました。
最初の万博は、1851年に開催されたロンドン万国博覧会です。このときは、産業革命に成功したイギリスの繁栄を世界に知らしめるような内容で、ポータブル型の蒸気機関などが展示されていました。そして1900年に開催された第5回パリ万国博覧会は19世紀最後の万博となり、馬車と自動車が並んで展示されるなど、まさに世紀末といったような展示風景が見られました。
1967年のモントリオール万国博覧会は映像展示が花開いた万博と言われ、新しい技術を駆使した数々の展示がありました。この映像展示は1970年の日本万国博覧会(大阪万博)の企業パビリオンに大きな影響を及ぼしたとされています。
時は進み2005年。万博の開催意義が問われ、大きく方向転換した日本国際博覧会(愛知万博)が開催されます。1990年代初頭、赤字収支が続く中で果たして万博は必要なのか、という議論が起こりました。それを受けて1994年に博覧会国際事務局は「地球的課題解決の場となることが21世紀の国際博覧会の方向性である」と決議しました。それを受けた最初の万博が愛知万博だったのです。
「世界を把握」するために始まった万博は、さまざまな技術の発展を見せていきながら、次第に「世界を映す鏡」といえるような文化イベントとなっていきました。
では当社と博覧会の関わりはというと、1914(大正3)年の東京大正博覧会までさかのぼります。そしてその25年後、1939(昭和14)年に開催されたサンフランシスコ万国博覧会が、当社として最初の万国博覧会への参入となりました。この時は、日本館にあった観光部の施工を担当しました。その後、現在に至るまで、当社は200件以上の万博や国内博に携わってきました。
さて、博覧会の魅力のひとつに、「現物が見られること」があります。1970年の大阪万博では月の石が展示され非常に話題となりました。今回の万博でも日本館では火星の石が展示されたり、イタリア館では次々と貴重な資料が届き展示されていると話題になっています。
また、万博は、社会に大きな影響を与えるものでもあります。いまでは当たり前のものが、実は大阪万博がきっかけだった、というものも数多くあります。例えば、缶コーヒーが広がったのも万博がきっかけですし、回転寿司も万博が初めての出店でした。メディアやインターネットの登場に、万博は大きな影響を受けながらも発展し続けてきました。
講演の様子
ライブラリー:資料2万点の収蔵庫
講演のあとは、場所を移して、実際に資料をみていただきます。
ライブラリーには、書棚や引き出しに所狭しと資料が並びます。所蔵する中で一番古いものは、1851年ロンドン万博の資料、そこから現在の2025年大阪・関西万博まで、多種多様な資料が保管されています。
公式記録やグッズはもちろん、開催前に行われていた会議の議事録など準備段階の資料まで、実にさまざまな資料がありますが、中には、本来であれば捨ててしまうような紙コップや缶ビールの空き缶も。これらを紹介すると参加者からは「へえ!」と驚きの反応がありました。
特に関心が強かったように感じたのは、1970年大阪万博のポスターです。デジタルではなく手書きで生み出されたであろうポスターのため、線の滲みなども見て取れます。そんな説明を受けて、みなさん熱心にご覧になっていました。
書棚には所蔵資料の中で最も古い1851年ロンドン万博の資料も
1970年大阪万博のポスターを紹介
展示室:「博覧会と乃村工藝社」をテーマに100点を展示
ライブラリーからつながる展示室では、「博覧会と乃村工藝社」をテーマに、およそ100点の資料を展示しています。壁面にはこれまでに開催された国際博覧会の年表や、国内で開催された5つの万博での当社実績を紹介。また、当時の企画書や図面、積算書や、1970年大阪万博開会式の台本など、貴重な資料を展示しています。さらに幻の万博となった1940年の万博チケットも公開しています。残念ながら使われることがなかったチケットですが、1970年の大阪万博や2005年の愛知万博でも使用でき、実際に使用された記録も残っているというエピソードに参加者のみなさんも驚いていました。
展示室では、社員の説明を受けながら、みなさん思い思いに資料をご覧になっていました。
展示ケースにはEXPO70関係者のサインが寄せ書きされた現場ヘルメットや積算資料などが並ぶ
2025年大阪・関西万博での取り組み―記録映像上映
最後は、2025年大阪・関西万博の当社の取り組みを記録した映像を上映しました。今回の万博においても、当社は25のパビリオン、50以上のプロジェクトに携わっています。プロジェクトに関わる社員のインタビューを中心に構成した映像となっており、どのような思いで携わっているのか、そしてこの経験をどのように継承していくのか、その強い思いを感じていただけたのではないかと思います。
2025年大阪・関西万博の記録映像上映
おわりに―実際に資料を見るということ
イベント後のアンケートでは、「貴重な資料をたくさん見ることができて良かった」「資料の豊富さに圧倒されました」「現物の力がすごい」など、資料についてのコメントをたくさんいただきました。「1970年のポスター、もう一度見せていただけますか」と声をかけてくださった方も。
見学風景を見ていても、みなさんが非常に関心を持って展示資料をご覧になっている姿がとても印象的でした。
飛び出す絵本のような資料(2010年上海万博パンフレット)に小学生も興味津々
このイベントを通して、現物資料の良さを改めて実感しました。参加者のみなさんが食い入るようにして資料を見ている様子がとにかく印象的で、日々デジタル技術が発展し、どこからでも情報が得られる世の中にであっても、やはり本物の資料を見て体感することが心を動かすのだと思いました。
目の前にある資料からは、その材質や色が肌で感じられたり、時には実際に触れたりもできます。その資料がどのように作られ、使われていたのか思いをはせることもできるかもしれません。これはデジタルにはない、現物資料だからこその魅力ではないでしょうか。これからもそんな魅力を伝えていければと思います。
文:ブランドコミュニケーション室アーカイブ課 久米谷りさ子
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