oto reaが導く、音響による空間体験の進化とは?(後編)

高野 次郎
高野 次郎
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高野 次郎

未来の都市「スーパーシティ」を見据えた未来のインフラづくりを目指すAR/MRスタートアップである株式会社GATARIと「デジタルイノベーション×場づくり」をテーマとする乃村工藝社のラボラトリーであるNOMLABとで共同開発した、「音」による空間体験拡張のプロトタイプoto rea(オトリア)。対談の後編となる本記事では、oto reaが持つ可能性や、アフターコロナを見据えた今後の展望にまで話が膨らみます。(前編はこちら)

3.oto reaの市場領域と可能性

岡村
体験者の声は今後につながる種になると思うのですが、それをどんな市場領域に活かしていく予定なのかをお聞かせいただけますか?


体験会のアンケート結果(「oto reaはどんな市場で活かせそうですか」という質問を設定していました)で言うと、美術館や博物館のような歴史的な価値を知らせる施設にエンターテイメント要素を加えていくとおもしろいのでは?といった声がいくつも挙がっていました。例えば、物体に情報を付加するだけでなく、何もない空間に情報を付加していくことができるので、「通路を歩いているとBGMが変わる」と言った体験が提供できます。博物館でも遊園地でも、単純に移動だけしていると退屈で疲れてしまいますが、移動することそのものに楽しみを見出してもらうという体験は、例えそこが大自然の中や倉庫の中だったとしても応用が効くと思います。特定の見る対象物がなくても、おもしろい体験がつくれる可能性は大きいと思います。

岡村
今まで価値があると意識されていなかったものに価値をあたえることができる訳ですね。

黒木
価値の存在に改めて気付ける仕組み
だとも言えます。

中村
一般に公開していないバックヤードを見学する“バックヤードツアー”を実施している施設のお話を伺ったのですが、もしかしたらそのツアーをoto reaを使って音を頼りに空間を巡る体験にすることで、バックヤードが持つ重要な機能やそこで働いている人々の息遣いをより強く感じることができるかも知れません。また、展示施設でも展示物の背景を立体感のある音で伝えることで、より興味深く、強い印象を与えることができるかも知れないと考えています。例えば、恐竜のジオラマのある展示室で、恐竜が生きていた時代の音、火山の轟音や逃げ惑う他の恐竜の声などが周囲から聞こえたら、「時空を超えた」と感じられるほど没入感のある体験が提供できると考えています。

黒木
私たちは「点の体験ではなく線の体験」と呼んでいるのですが、単に空間に音があるだけではなくて、特定の空間に入って出た時に、それぞれの空間のつながりと違いを音によって表現することが可能になります。

中村
乃村工藝社社内のoto rea体験会でも、エリアによってBGMを変えていますが、体験中に驚く方は多かったですね。

岡村
体験のストーリー作りが重要になってきますね。

中村
oto reaでは、前からも後ろからも右からも左からも音が立体的に聞こえます。ただ立体的なだけではなくて、自分の動作によって音が変化するので、それが実際の空間にリンクすることによって、より臨場感を感じられるゲーム的な空間になるとも言えます。

竹下
体験の付加価値の話で言うと、従来の施設で音声を解説や演出で使用する場合、スピーカーの設置ひとつとっても他のコーナーと干渉しないように音を絞っていたり、離して設置されていたりするので、理想的な音の環境づくりが難しかったんです。さらに屋外だと、条例などでそもそも音声を出せないといったことも多々あります。oto reaは、それらの縛りがなく、かつ音声をパーソナライズできる仕組みでもあります。


oto reaでは、サラウンドのように、自分のまわりを10台のスピーカーに囲まれているような状態で体験ができます。

竹下
耳が遠い高齢者の方々でも、ひとりひとりに合わせてボリュームを調整したりといった、ユーザーひとりひとりの聴力にに合わせたパーソナライズもできます。ボリュームだけでなくコンテンツの内容もパーソナライズすることで、今後も発展していく可能性を感じています。

岡村
パーソナライズの考え方は、集客施設だけではなく普段の日常生活でも大きな可能性を持っているのではないでしょうか?

竹下
oto reaは現状、ストラップに着けたスマートフォンを首から下げて体験するのですが、私たちはそれを「第3の目」と呼んでいます。スマートフォンのカメラ、いわば目によってデジタル世界と現実世界を繋げた今までにない体験創出が可能です。言わば、第3の目が開眼しているときにデジタルの世界が見えるという設定ですね。ARグラスをかければその第3の眼を日常化できると思っています。デジタルの世界を見ることができる目が日常化されてそれがインフラとなれば、広告などの可能性が広がるだけでなく、視覚障がい者の方へのナビゲーションにもつかうことができるようになります。言語の異なる外国からの観光客の方々も「空間に受け入れられている」と感じられる体験を提供できるのではないかと考えています。多様な人を受け入れられるまちづくりのインフラを目指していきたいです。

岡村
「多様な人が参加できる」というのは今後、イベントをはじめとした様々な空間の条件になっていくのでしょうか。

中村
いろんな人にどう対応するのか、一緒に体験したい、共有したい気持ちに応えることへの要求は、空間の企画をする上でも高まっている
ように感じます。

4.人と社会とデジタル技術のニューノーマル

岡村
コロナ禍でニューノーマルという言葉も生まれていますが、リアルとデジタルの融合が進むこともニューノーマルのひとつの方向性だと思います。例えば、ARグラスが日常化された社会では、人々はテクノロジーの存在を感じなくなっていくのでしょうか?

竹下
デジタルツインの情報を取得して、リアル空間と結びつけるなど、デジタル空間とリアル空間とがいろんな方法で接続されていることが価値をつけることで重要
だと思います。文脈的につながっていることが大切で、いきなり知らない(デジタルの)キャラクターが突然ここ(いま対談しているGATARIのスタジオ)に出現したとしても、それを見た人には意味不明なのですが、それがGATARIのキャラクターなら場所とキャラクターの関連性が文脈になるので納得感があります。自動販売機の前、エレベーターの前、それぞれで「意味のある/ない」が変わってきます。オフィスだったら、ドアの前に立てば鍵が開くとか、エンタメ空間だったら、椅子に座ったら天井の照明が消えて自分にスポットライトがあたるといった機能的な繋がりも欠かせません。いかにリアル空間とつながったデジタル空間をつくっていくのかが重要だと思います。

中村
将来的に物理的なスイッチはどんどん無くなっていって、(スイッチの替わりに)動作によって機器を制御できる未来が来るのではないかと思っています。手をかざすだけで電気がつくといった、より暮らしやすい生活が進化していくのではないかと。人の自然な動作によって空間を制御していくという考え方は今後も広がっていくと思います。


今も既に、スマートスピーカーに「電気消して」と言えば消せますもんね。

竹下
モバイルデバイスのインターフェースは携帯電話のポチポチからスマートフォンで画面を触って操作するようになり、ARによって画面の奥にあった情報に直接触れるようになっていきます。まさにリアル空間とデジタル空間とが等価になっていくと感じています。

黒木
デジタルなものを具体的に可視化することで「愛着がわく」のではないか
と個人的には思っています。自分だけが見られる、それを認識することで自分と(可視化されたデジタルなものと)の特別な関係性が生まれる、そこに生まれる愛着のようなものがあるのではないかと。


私だけかもしれませんが、都市をデジタルデータ化してみると本物よりもかわいく見えます。都市を見ていて感じる「距離感」や「自分の動作とのシンクロ」によって、デジタルならではの体験と空間の体験が融合したものが可能になっていくのではないでしょうか。

竹下
例えばおばあちゃんと孫で野球観戦をするとして、孫は野球場でリアル観戦、おばあちゃんはバーチャル観戦なのだけど一緒に観戦できる、というのは現在の技術でも可能ですね。試合中に会話をしたり、相手が野球場のどこを見ているのかもわかります。

岡村
新型コロナが収束しても、リモート参加を続ける人は一定数残るので、全体としてコロナ前よりも増えると言われています。リアルとバーチャルの境目がなくなると、リアル参加者とリモート参加者の境目がなくなっていきますね。

中村
リアルとバーチャルの融合の話で言うと、実際の空間企画の業務でもデジタルツインの表現をしたい企業は増えています。デジタルとつながったリアル体験提案のニーズが高まっていると感じています。

5.oto reaの今後の展望

岡村
今後oto reaは、聴覚以外の五感を使った体験に進化していくのでしょうか?


音声だけでなく、照明の演出や、振動の演出なども考えられます。
振動装置や香りデバイスなどで、さまざまな感覚を複合していくことも考えています。

竹下
oto reaはARグラスを使用デバイスと想定してつくっているので、ゆくゆくは聴覚に視覚情報を追加することができます。
今後の拡張性をもった取り組みなので、社会のニーズやデバイスの普及に合わせて最先端をキープできるシステムです。


どんどん空間のリッチ感を上げていけますね。

中村
例えば博物館のような施設で、企画設計した人が想定した動線を来場者が必ず歩いてくれるとは限らないのですが、oto reaではそれを誘導することができると考えています。音声や照明、映像を投影したり風を起こしたりすることで人を誘導するといった、複数の感覚を連動することでより新たな体験を提供できる可能性を感じます。

岡村
ここまでお話を伺っていて、oto reaはエンターテイメント分野だけではなくて、社会課題を解決できるデバイスだと感じます。最後に、おひとりずつ今後のoto reaおよび共同プロジェクトについての展望や期待をお話しいただけますでしょうか。

中村
政府がsociety5.0を提唱してフィジカル空間とバーチャル空間をつなげていく施策に取り組んでいます。私たちも政府の取り組みに合わせてoto reaを盛り上げていきたいと考えているので、もしこの記事を読んで興味を持っていただいた方々はぜひoto reaを体験いただき、一緒に新しい取り組みに参加していただきたいと思っています。

竹下
中村さんのsociety5.0の話を受けて…GATARIのテーマのひとつであるスマートシティ実現にあたって「とり残された人をつくらない」ということが重要になってきます。最先端の技術の開発だけではなくて、インクルーシブな取り組みもセットで進めていきたいと思っています。


oto reaを体験した人から「みんなと会話しながら体験できるのが良いね」と言われたことが印象に残っています。耳をふさぐAR体験と、耳をふさがないAR体験との違いだと思うのですが、会話のように人とのつながりを残すかたちでの体験を色々と考えて行きたいと思っています。

黒木
oto reaはコンテンツを幅広くつくれるのがよいところだと思っています。エンタメ空間でもゲーム寄りのコンテンツ、アトラクション寄りのコンテンツどちらでもつくれます。アトラクションは例えばライド型みたいに「乗って楽しい」、ゲームだとマルチエンディングで「自分で選んで結果が変わる」ところに魅力があると思うんです。(ライドのように)その人にしかたどり着けない結末、(ゲームのように)みんなで楽しめる結末、oto reaはどちらへも拡張性があるので、魅力的なコンテンツをどんどんつくっていきたいですね。

竹下
楽しみながら賢くなれる体験がつくれたら最高ですね。私は魚へんの漢字に異常に詳しい子供だったのですが(一同笑う)、友達とどちらがたくさん覚えられるか遊んでいたらいつの間にか詳しくなっていました。そのように好奇心をくすぐって楽しみながらいつの間にか学習ができているような体験がつくれればとても嬉しいです。oto reaはどんな空間でも使える仕組みなのですが、空間に価値があればあるほどその価値は掛け算で増幅されていきます。文化的な価値の高い場所で、その空間の価値をあますことなく伝えられるような「掛け算装置」としての機能があると感じています。スマホやARグラスだと、画面ばかりを見てせっかくのリアル空間をあまり見なくなってしまいますが、oto reaは「現実を大切にする(見せられる)」仕組みだと思っています。

岡村
oto reaは色々な空間が持っている多様な価値を、幅広い来訪者に向けて増幅する可能性をもった取り組みなのですね。まだコロナ禍は続きますが、ぜひとも取り組みを継続して新しい空間価値を生み出し続けてほしいと思います。本日はありがとうございました。

一同
ありがとうございました!

oto rea体験について
お台場の乃村工藝社、またはGATARI秋葉原スタジオにて体験が可能です。本記事をご覧になって興味を持たれた施設運営者の方々は、こちらまでご連絡ください。お手数ですが”お問い合わせ内容”入力欄の冒頭に「oto rea体験希望」と明記ください。新型コロナウィルス感染対策における政府や東京都の指導によってはご期待にそえない可能性もあります。あらかじめご了承ください。

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高野 次郎

高野 次郎

初代ノムログ編集長/NOMLAB ディレクター
これからもずっと、空間のことを考え続けます。

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