行政、地元企業、農家が連携した「KADODE OOIGAWA」

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行政と地元企業、農家の皆さんなど、大勢の関係者の力を結集し、農業振興と地域振興という2つの目標を掲げ、5年間の取り組みの末実現した体験型フードパークKADODE OOIGAWA。そのプロセスと、地域産業や地域社会のハブとして持続可能な運営を続けるための様々なアイデアや取り組みを語っていただきました。

本稿は、乃村工藝社グループの「ソーシャルグッド」なプロジェクトをご紹介するイベント「ソーシャルグッドウィーク 2021」のレポート記事です。

*「ソーシャルグッド」の詳細はこちら
乃村工藝社グループが考えるソーシャルグッド(前編後編
*「ソーシャルグッドウィーク2021」のレポート記事一覧はこちら


お茶と農業の体験型フードパークKADODE OOIGAWA

KADODE OOIGAWA株式会社 営業事業部マネージャー
杉山貴紀さん
JAの融資担当から保険の営業の仕事を経て、KADODE OOIGAWAに入社。主に飲食関係のメニュー開発に取り組み、地元企業との数々のコラボ企画を実現させる。また、地元農家の所得向上とフードロス削減をめざし、出荷されずに廃棄されるトマトを買い取り、地元企業でトマトソースに加工、施設のレストランで使用し、商品化も実現させた。

乃村工藝社 プランニング統括部 プランナー/クリエイティブディレクター
乃村隆介
商業施設の開発、地域活性化、ワークプレイスの空間デザインのコンセプト立案などに従事。さまざまな分野でお客様の課題解決に取り組み、コミュニケーションを構築し、それを空間化することに注力している。

乃村工藝社 クリエイティブ本部 デザイナー
田村憲明
2003年入社。ミュージアムデザインを起点に企業ショールームや展示会、飲食物販店舗、ワークプレイスまで市場や分野に捉われないプロジェクトを多数手掛ける。情報デザインとインテリアデザインの掛け合わせによる空間づくりと、そのプロセスにおける目に見えない関係性のデザインにより新しい価値を提供している。

 

地域の自信と誇りを取り戻す施設

(乃村)
本日は、静岡県島田市にあるKADODE OOIGAWAで、我々が地域とどう関わり、どう施設づくりを行ったかというお話をさせていただきたいと思います。
KADODE OOIGAWAは、静岡県のほぼ中央に位置する島田市につくられた体験型フードパーク施設です。新東名高速道路の島田金谷インターチェンジのすぐ横に位置し、施設内に大井川鐡道の新駅もあります。北には日本アルプスがあり、南には太平洋に面し、東京方面からも名古屋方面からも来やすい場所です。ここに「賑わい施設」をつくって地域を活性化させようというのがプロジェクトの狙いでした。

施設の敷地面積は約1.4ヘクタール。その中にカフェ棟、マルシェ棟、レストラン棟の3施設が建っています。レストラン棟には大井川鐡道のSLが通る新駅が併設され、新駅に隣接して島田市の観光協会が運営する観光案内所「TOURIST INFORMATION おおいなび」があって周辺観光の拠点となっています。

この施設がつくられた背景ですが、東日本大震災を機に防災・減災に対応した国土利用が強く求められました。静岡県は産業が海側に集中していて、南海トラフ地震が発生したときに津波による大きな被害が予想されます。そこで県は、海側に集中している産業を内陸部に増やしていく「内陸のフロンティア構想」を立ち上げました。
実は、それ以前の1991年に新東名高速道路が計画されたときに、このエリアに新しい産業を興そうという話が、行政から農家の人たちに持ちかけられましたが、当時は農業意向が高く実現しませんでした。しかし、近年になって高齢化や産業人口の減少、お茶の価格下落など農業を取り巻く環境に変化があり、地域の皆さまから土地利用転換を求める声が高まりました。並行してこの地域が「内陸のフロンティア」推進区域に指定されたこともあり、今回の賑わい施設建設が計画されました。そして、2016年に中日本高速道路、島田市、JAおおいがわ、大井川鐵道の4社が連携し、島田金谷IC周辺の「賑わい交流拠点整備事業」をスタート。そこに乃村工藝社も参画し、プロデュースと企画デザインを担当いたしました。

事業のミッションは、お茶とSLで地域に賑わいをつくり、地域に眠っている資源を活かせる施設をつくるということでした。そして、少子高齢化と農業人口の減少、茶業の衰退が見られる中で地域の農業をどう盛り上げていくかが大きな課題でした。また、当時はインバウンドが好調だったため、訪日外国人観光客や県内外からの集客も課題としてあげられていました。我々としては、最初に地域に施設をつくる“意義”をみんなで考えて決めるために「誰がやるのか?」「誰のためにやるのか?」「何のためにやるのか?」という問いを投げかけました。

地域を元気にしていくには、農業振興と地域振興が軸になります。農業振興とはお茶、野菜、果物といった農産物の話です。地域振興とは、このエリアに眠っている観光資源を活用しながら雇用を生み出し、交通機能の整備をしていくことです。

計画を進めるにあたって3つのポイントをあげました。一つ目は「地元に愛されること」。我々のような外から来た人間だけが勝手に企画し、施設をつくるのではなく、地域と一緒に考え、地域の人たちが誇れる施設をつくることが大切です。二つ目は「地域資源を生かすこと」。この施設をハブとして、人・モノ・サービスが交わるこの施設を拠点に、観光客を周辺の観光地に送り込み、情報発信するようにします。三つ目が、「わかりやすく魅力的な発信をすること」。お茶とSLというコンテンツを最大限に活かし、地域外からも集客を図ることを目指してプロジェクトをスタートしました。

日本の地方で足りないものがあるとすれば、地元の人たちの自信や誇りです。外から見ると景色もいいし、食べ物もおいしいのに、地元の人たちは「そんなことはない」と謙遜してしまいます。見方を変えると、こんなに素晴らしい地元のポイントを共有して、地域の誇りと自信を取り戻し、みんなが愛せる場所をつくることを表のテーマとしました。

裏のテーマとしては、農家の所得向上です。農家の人たちが農作物を売り、情報を発信する場所づくりに寄与したいという思いが施設づくりの根底にありました。同時に持続可能な農業の在り方を考えました。

ここからは、デザイナーの田村とKADODE OOIGAWAの杉山さんから、もう少し具体的にこの施設やコンテンツについて話をしていきたいと思います。

農業の6次産業化とエンタメ化を目指す

田村
地域と農業を元気にしたいという、事業者からの依頼を受けて、施設をオープンすることがゴールではなく、オープン後もしっかり運営できる仕組みをつくりたいと当初から思っていました。そのキーワードが6次産業化*です。農業の6次産業化に加え、その見える化を意識し、施設の中の至る所でそれを感じられる仕組みづくり。商品化だけでなく体験までも構築したいと考え、全体のデザインコンセプトを「農業の6次産業化とエンタメ化」に設定しました。

*農業の6次産業化とは、1次産業としての生産、2次産業としての製造・加工、3次産業としての流通・販売との総合的かつ一体的な推進を図り、豊かな地域資源を活用した新たな付加価値を生み出す取組です。

今回、私からは6次産業化をどう捉えたかについて二つのトピックスをご紹介したいと思います。
一つ目のトピックスは「コンセプトティー」を起点とした緑茶体験です。
静岡県は全国有数のお茶の産地ですが、お茶の種類が多すぎて違いがわからず、お茶の選び方、買い方がわからないという大きな問題があります。さらに、今はペットボトルのお茶が主流になり、リーフ茶が売れない時代になっています。そこで、コンセプトティーを起点として「蒸し」と「火入れ」を段階的に16種類に組み合わせ、MANDARA GREEN TEAと名付けたマトリックスを考案しました。

KADODE OOIGAWAさんのスタッフ、JAおおいがわの三つのエリアの茶業センターの茶匠さんなどお茶の専門家の方たちと一緒に、蒸し時間、火入れ時間、水色(すいしょく)という淹れたときのお茶の色も見比べ、最終的に16種類にまとめ、お客様がお茶を選びやすい仕組みをつくりました。
また、誰にでも気軽にお茶を楽しんでいただきたいというミッションもあったので、手軽にお茶を楽しめるティーバッグも商品化しました。

16のお茶の名前は、いろは歌から「い、ろ、は、に、ほ、へ、と…」と順番に名付け、ひらがなとローマ字を組み合わせたロゴで展開しています。お茶を販売するマルシェ棟には、16本のMANDARA茶柱を立て、売り場を回遊しながら、緑茶に出会う体験そのものを空間化しました。

MANDARA茶柱には、そのお茶に関する情報が表示されています

茶柱には、そのお茶に関する様々な情報が「#」のメッセージとして刻まれていて、店員さんとお客様、またお客様同士での会話のきっかけになり、自分の好みのお茶を選べるようになっています。さらに「茶みくじ」というおみくじや、絵馬をめくって気になるお茶を選べる「#絵馬」、スマートフォンで8つの質問に答えると今の自分にぴったりなお茶を紹介してくれる「緑茶診断」も用意し、お茶との出会いをつくっています。

ここまでは物販に関する取り組みですが、マルシェ棟には、「緑茶B.I.Y.スタンド」をつくり、“飲む”という体験の場も用意しました。お客様ご自身でティーバッグを使ってお茶を淹れ、温度、時間による味・香り・水色の変化を楽しむことができます。

さらに「緑茶ツアーズ」という体験型アトラクションを用意しました。製茶工場の「蒸す」「揉む」「火入れ」の3つの工程をエンタメ化し、お客様が緑色のカッパをかぶり、茶葉になった気分で茶づくり工程を体験できます。

この他にも、美味しく淹れたお茶を味わいたい方のために「茶寮」を設け、最高級の緑茶を数種類の最適な飲み方でご提供しています。

以上が、緑茶を体験し、販売し、プロモーションをするために構築したプラットフォームです。オープン後も、KADODE OOIGAWAさんが主体になって、商品企画やイベントと連携してこのプラットフォームを活用しています。このプラットフォームを構築したことが、この施設の大きな特徴になっています。

メニュー開発で農家や地元企業の所得向上を

田村
二つ目のトピックスは、緑茶や地域の農産物を使ったメニュー開発です。ここからは実際にメニュー開発に携わったKADODE OOIGAWAの杉山さんにも入っていただき、いろいろお話ししたいと思います。杉山さんは、メニューを開発するにあたって、どのような思いやお考えがありましたか?

杉山
食を通じて地域の魅力を伝え、さらにそれが農家や地元の企業の方々の所得につなげたいと考え、メニュー開発を進めました。この施設の主軸はコンセプトティーであるMANDARA GREEN TEAと地元の新鮮な野菜なので、それをどう上手くメニューに落とし込むかが、面白い所でもあり、難しい所でもありました。

最初は、お茶と野菜をどう組み合わせたら美味しいメニューができるかを考え、悩んでいたのですが、お茶の物販があるマルシェ棟ではお茶を使ったメニュー、レストラン棟では野菜をメインとしたメニューという二本立てやっていくことで整理できました。

田村
当初から施設にあるものはすべてお茶に関連すべきであるという基本計画があったので、杉山さんはとても苦労されたと思うのですが、いろいろなアイデアが出る中で、よりシンプルに、直感的に伝えられるメニューになりましたね。

杉山
そうですね。最後は無駄なところをそぎ落としたかたちになりました。
緑茶バーガーでいちばん悩んだのは、どこにお茶を入れるかということでした。もともと、島田市川根本町の茶舗 朝日園さんがイベントで出されていたハンバーガーがあって、それにはお茶を使った緑色のソースがかかっていたのですが、同じものをこの施設でやってもつまらないので朝日園さんと何度も話し合いながら開発したのが今の緑茶バーガーです。最終的にお茶はバンズに入れ、ソースの一部にもお茶を使うことで味の決め手としました。それとサイドメニューに、郷土料理でお茶の葉天ぷらがあるので、それを洋風にアレンジしてお茶の葉フリッターとしてフライドポテトと一緒に提供しています。一口食べたときに、バンズが緑色なのでインパクトがあり、わかりやすくお茶を使っていることをアピールできたと思います。

お茶が入って緑色のバンズが特徴的な緑茶バーガー

お茶漬けは、初め今はやりの出汁茶漬けにかなうわけがないと思っていました。その既成概念を崩してくれたのが、焼津にある鰹節屋さんの柳屋本店さんです。何度か営業に来てくれて、あるとき鰹節削り器を持ってこられて「鰹節を削ってみませんか」と言ってくれたんです。そのときの削りたての鰹節の味や香りに衝撃を受け、これをお茶漬けの上にかけたら…、ということで今のメニューができました。お店では、その場で鰹節を削っています。出汁茶漬けに負けない、美味しいお茶漬けができたと思います。

たっぷりと削りたての鰹節が乗ったお茶漬けも大人気

田村
杉山さんは、レストランでも地元のシェフと協業するなど地域のつながりを意識されていましたね。

杉山
レストランは、藤枝市にある人気イタリアン「NORI」のシェフに監修していただきました(2021年7月5日現在)。また、オリジナリティを出すために地元の農家さんやお惣菜づくりをしているJA女性部の方々にも協力していただいてメニューを開発しました。

レストランは開店時と少しメニューを変えまして、初めはパスタかピザを一皿お客様にお出しして、それ以外のお料理をビュッフェにしていたのですが、運営してみると食べ切れず残される方もいたので、今はフルビュッフェの形式で食べたい料理を好きなだけ取っていただけるようにしています。
また、お肉が少ないという声がありました。しかし、ただ料理の中にお肉をたくさん使うのでは面白くないので、肉に負けないくらい美味しい野菜を提供しようと考え、瞬間蒸し野菜のコーナーをつくり、お客様が選んだ野菜を目の前で蒸し野菜にすることができるようにしました。

レストランで今いちばんやらなければいけないと思っているのが、現場の声やお客様の声を大切にして運営していくことです。
それと開業以来、食材ロスをなくすことに取り組んでいます。施設内でのロスを少なくするだけではなく、農家さんの段階でのロスをなくすことにも取り組みました。お取引をしている農家さんで、形が悪かったり、少し柔らかくなったりして出荷されず廃棄されるトマトが半年間で2.5トンほど出てきます。それをすべてKADODE OOIGAWAで買い取り、地元の企業さんでトマトソースに加工してレストランで使用しています。レストランで使いきれない分は200gパックにしてお客様に販売していく予定です(現在2021年12月は冷凍の生パスタとセットで販売中)。フードロスをなくし、農家の所得向上に寄与し、施設の売り上げにも貢献することができました。

乃村
杉山さん、ありがとうございます。我々も5年ほど静岡に隔週で通い、官民連携で地域課題の解決に取り組んできました。最初は手探りの状態でしたが、最終的に地域の課題を解決するためのプラットフォームとしてこの施設が完成しました。今回のプロジェクトでは表層のデザインだけではなく、商品開発、人材開発、運営の仕組みづくりまで、一緒に考えていけたのが成功の要因だと思っています。

田村
結果的に何を自分がつくったというと、あの16本の茶柱に象徴されると思います。そこに至るプロセスと見えない関係性をデザインしていたのだと思います。

(乃村)
この施設の意義は、地元の人たちが自信と誇りを持つことだという話を先ほどしましたが、地域の「当たり前」に価値を見出すことがとても大切だと思っています。地元の人たちが当たり前と思っていたものを、解釈を変えてみたらこんなに素晴らしい施設になった、ということがKADODE OOIGAWAプロジェクトの意義だったと思っています。これからもこういう形で地域に貢献できる施設をつくっていきたいと思います。


空間は地域と農業を元気にするプラットフォームになる。その成功には、商品開発、人材開発、運営の仕組みづくりなど長い視点で取り組む必要があること、そのベースとして多様な関係者が一緒になって考えていけるような信頼関係づくりがいかに大事かであることを感じる内容でした。運営を通じて食のメニューを改良していったことや、プロセス全体で食品ロスを減らしてくなど、オープン後により良い活動が生まれていっていることが、この空間がプラットフォームになっている証しではないかと思います。今後のKADODE OOIGAWA、そして当社が取り組むプラットフォームとしての空間づくりにご注目ください。(ノムログ編集部)

文:岩崎唱/写真:安田佑衣(イベント時)

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“空間と体験”を追求するチーム
プロの目線で“空間と体験”の可能性を切り取ります

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