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- ノムログ編集部
以前、ノムログでご紹介した『商業施設にAR体験を導入する3つのメリット』と、XRコンテンツ「じーずの森とあしあとのヒミツ」。
今回は、本プロジェクトを手掛けた乃村工藝社NOMLAB(ノムラボ)の金原彩季と、太陽企画株式会社(以下、太陽企画)プロデューサーの日下部泰寛さん、株式会社デジタルワークスエンタテイメント(以下、DWE)の武田拓弥さんをお招きし、プロジェクトの経緯やそれぞれの役割、開発段階での苦労話や工夫、大切にしていたことなどを語っていただきました。インタビューアーは、乃村工藝社 NOMLABコンテンツディレクター/デザイナーの中村瞳です。
左から、乃村工藝社 NOMLAB中村瞳、太陽企画株式会社 tip/プロデューサー 日下部泰寛さん、乃村工藝社NOMLAB 金原彩季、株式会社デジタルワークスエンタテイメント 武田拓弥さん
NOMLAB金原彩季
本プロジェクトではアートディレクターとして、キャラクターデザインからストーリー設計を担当。
太陽企画株式会社 tip プロデューサー 日下部泰寛さん
3社間のコミュニケーションやスケジュール調整などの進行管理を主に担当。
株式会社デジタルワークスエンタテイメント 武田拓弥さん
エンジニアとして、NOMLABのエンジニアと共に、じーずの森の構築を支えた。
ファシリテーター: NOMLAB中村瞳
統括ディレクターとして、全体構想・企画、映像やアニメーション、エフェクト等の演出面を担当。
プロジェクトメンバーの推し! じーずの森のキャラクター
金原と日下部さんの推し、ムム。 武田さんの推し、ボン。
「じーずの森とあしあとのヒミツ」
「じーずの森とあしあとのヒミツ」とは、NTTコノキュー「XR City」アプリ内のコンテンツの1つで、SDGsを意識した森「じーずの森」からSDGsを普及するためにやってきた個性豊かなキャラクターたちと出会う回遊型AR体験です。今後ショッピングモールなどの商業施設を中心に展開され、第一弾は、キャナルシティ博多にて2022年7月14日より体験していただけます。
NTTコノキューのアプリ「XR City」
スマートフォンやタブレットで楽しめるAR体験アプリケーション。ARとは「拡張現実」を指し、「XR City」の専用アプリをダウンロードした端末を、特定のスポットでかざしてARコンテンツが楽しめるサービスです。
https://xrcity.docomo.ne.jp/
中村
今回のプロジェクト「じーずの森とあしあとのヒミツ」では、私たちが所属するNOMLABのメンバーが中心となって開発を進めました。そもそも、NOMLABの特徴や、どんな取り組みをしているか、金原さんより解説をお願い出来ますか?
金原
NOMLAB( Nomura Open Innovation LAB )は、「デジタルイノベーション×場づくり」をテーマに、デジタル領域を軸とし、新しい集客を目指すオープンイノベーションラボです。さまざまな企業様と協業し、例えばプロトタイプの制作を行うなど、幅広い領域においてデジタルでの空間体験をつくる活動を行っています。映像制作やCG、システムエンジニアリングなど、さまざまなバックグラウンドと知見を持ったメンバーが所属しており、アプリケーション開発やWebサイトの構築なども、自社内で行うことができます。
中村
乃村工藝社というと、内装設計や空間デザインの会社、というイメージがあるかもしれませんが、社内にはエンジニアリングに強いメンバーがおり、コンテンツ開発から手がけることが可能です。金原さんも元々は、CGの制作会社での勤務経験がおありですよね。
金原
はい。今回はアートディレクションを担当しています。プロジェクトリーダーの中村さんの他、システムエンジニアとプランナーが各1名、アカウント2名の計6名のチームで取り組みました。
NOMLAB 金原彩季:アートディレクター
中村
ここに今回、太陽企画とDWEの皆様にも加わっていただきました。日下部さんは、XR Cityのコンテンツ制作のご経験がすでにおありだったんですよね。
太陽企画 tip プロデューサー 日下部泰寛さん:制作進行
日下部
はい。キャラクターやアニメーション制作を担当したことがありました。普段もXR関係の仕事や、施設内で視聴する映像コンテンツなどを制作しています。
中村
そして日下部さんからご紹介いただいたのが、DWE様でした。
DWE武田拓弥さん:エンジニア
武田
最初にお話しを伺ったときは、どういうコンテンツになるんだろう?と。私は普段、家庭用ゲーム機やスマートフォン向けのゲーム開発に携わっていまして、ARのお仕事は、実は今回が初めてで、貴重な機会でした。
NOMLABのエンジニアをはじめ、それぞれが得意分野を活かして構築
金原
限られた開発期間の中でここまでクオリティを高められたのは、日下部さんや武田さんと、NOMLABのエンジニアとが、さまざまな提案やアイデアを交わしていけたことが大きかったです。
「じーずの森」では、ユーザーがキャラクターの足跡をたどっていった先で、彼らの落とし物を見つけます。それを拾うと落とし主に出会う、というストーリーですが、タップして操作する方法が良さそうだ、その場合、足跡はタップする毎に表示させる演出が組み込めそう、など、技術的に実現可能なアイデアをご提案いただきました。
中村
規模の大きなプロジェクトでしたが、振り返ってみると、わたしたちが表現したいこと・やりたいことを、的確に日下部さんがまとめ、DWEさんと弊社のエンジニアが良いチームワークで取り組んでいけた、という印象がありますが、率直にいかがでしたか。
日下部
限られたスケジュールやシステム上の制限などの中で、どんなコンテンツなら楽しんで体験いただけるか、非常に考えました。モデリングやアニメーションの動きなどは、私よりずっと精通しているエンジニアの方にお任せするなど、それぞれが得意なことを担当し、密に、正直に、コミュニケーションをとって進めていけたと感じています。
武田
我々も、日下部さんが伝えてくれることがとても的確でしたし、金原さんからいただく素材も、開発が進んでいくにつれ、より具体的なビジョンになっていたので、非常に進めやすかったです。
開発の途中、挙動がうまくいかない、機能が正常に動かない、などの問題も起こりましたが、(乃村工藝社とDWEの)エンジニアの間でやりとりできたことで、企画とシステム面の実装とをバランスよく行き来しながら構築していけました。
武田
PCの開発環境から、スマートフォン上でアプリケーションとして動くようになって以降、さらにチームとしてまとまって、アイデアや意見を活発に交わしながら、目指す方向へ進むスピードが増したように感じましたね。
金原
私自身は、自分が二次元上で描いたキャラクターが3Dになり、アニメーションがついて動いて、と、まるで命が吹きこまれていくような感覚でした。今回のためにつくったオリジナルのキャラクターでしたが、名前や個性といった設定を、構想段階から弊社のプランナーとかなり綿密につくっていました。そのおかげで世界観が最後までブレなかったですね。
加えて、例えば、りすのムムちゃんがサンドイッチをつくるアニメーションでは、ポケットにパンが入っている、という設定をDWEさんがくみとってくださって、ポケットからパンを取り出ししてつくる、という動作がついていたことに、とても感動しました。
ポケットからパンを取り出す、りすのムムちゃん
武田
ありがとうございます。こんな動きがしたいよね、と想像して、完成したアニメーションでした。金原
ユーザーはこのアプリケーションで初めてキャラクターと出会います。まずは「じーずの森」から来た、という世界観に没入していただくため、画面全体のデザインと、キャラクターたちの会話を特に意識しました。DWEさんが設定を細かくくみとってくださり、セリフの内容や量、テンポ、語尾にも、キャラクターの個性を取り入れて実装してくださいましたね。中村
弊社がつくったビデオコンテを的確に理解して形にしてくださったのはもちろん、"システムを組むだけではなく、全体の体験や、細かなUI、タップしたら何が起こるか、など全ての要素を含めて「じーずの森」ですから"と仰って取り組んでくださっていたのが素晴らしかったです。
NOMLAB 中村瞳:統括ディレクター
楽しくSDGsを学んで、ソーシャルグッドなショッピング体験へ
中村
そもそも今回のプロジェクトで私たちが目指したのは、ショッピングを楽しみながら親子でSDGsを学べるコンテンツ。ものを購入するだけではない体験をつくること、そして、楽しいだけではなく、クライアントの課題解決にも繋がることがキーワードでした。
金原
もちろん購買につながる、ということは大前提ですよね。さらに乃村工藝社が得意とする空間の活性化や、ショッピングモールという場所でしかできない体験、そこだからできる体験をいかにつくるか。加えて、回遊性や集客面もポイントに、コンテンツを設計していきました。子どもからお年寄りまで誰もが訪れるショッピングモールで、エンターテイメントの要素を楽しんでいただきつつSDGsを学ぶ体験を通して、商品やお店への興味、購入につながるようなコンテンツが実現できたら、と。
武田
私は今回のコンテンツ開発がSDGsを学ぶきっかけになりました。キャラクターたちの設定や動きにもSDGsにまつわることが反映されていましたし、コンテンツでの体験を通して、ユーザーに何を伝えたいのか、どんな表示をしたら伝わるのか、も考えました。
金原
制作に携わった側もSDGsに興味を持った、というのは、このプロジェクト全体がソーシャルグッドですね。
コンテンツの中に登場する草木や看板の配置、そこに表記する文言なども、事業者様でカスタマイズできます。SDGsに取り組んでいる企業はたくさんあるものの、ショッピングをしている最中はなかなか気づけません。「じーずの森」を通して、お店の情報やSDGsの取り組みを発信いただくことで、ユーザーが楽しみながらSDGsに興味を持つきっかけになったら嬉しいです。
XRコンテンツの広がり、デジタルとリアルが融合する新たな体験価値とは
中村
商業施設におけるAR体験や、課題解決型のAR体験のコンテンツは、今後も広がっていきそうでしょうか。
金原
はい、広がっていくと思います。その場所へ行ったから得られる価値、実物を直接見て、触れて、着て、食べる、というリアルならではの体験価値と、AR体験とをどう絡めていくのか。新しい企画がどんどん生まれていきそうで、楽しみですね。
また、5Gの広がりやデバイスの発達、新しく登場する技術なども、ストーリーや企画に活かしていきたいです。例えば、キャラクターと食事が楽しめたり、キャラクターと会話しながら自分のことを知ってもらって、好みやスタイルに合った洋服を選んでくれたり。まるで友だちのように、キャラクターとコミュニケーションできたら楽しいですよね。
中村
なるほど。日下部さんはいかがでしょうか。
日下部
XRコンテンツのアプリケーションをやってみる最初のハードルをいかに下げるか、そして、継続的に楽しんでもらえるようなインセンティブや仕掛け、コンテンツの面白さが大切かもしれません。
さらに言うと、もっとXRコンテンツを世の中に知ってもらう、広めていくPR活動そのものが大切だと思いますが、現状、そこまで設計して取り組んでいるコンテンツがあまりないな、という印象があります。
中村
多くの方に楽しみながら使っていただくためにも、PRの視点は確かに大切ですね。
武田
可能性はつきないですね。ゲーム業界ではスマートフォンがメインの端末となりつつありますが、この先も市場はどんどんと広がっていくはずです。商業施設でも、例えば、コンテンツ体験ができる、実際に行って試着できる、だけではなく、その体験を家に持ち帰り、興味を深堀りしていくこともできたら魅力的ですね。
金原
その場所を訪れることで楽しめる、プラス、その時間、一瞬のタイミング、今この場所この瞬間でしかみられないコンテンツ、というものも面白そうです。時間や天気、持ち主の気分次第で、観られるコンテンツが変わる。時間軸まで加わると、違う面白さが生まれそうですね。
武田
時間軸と接触日数の指標が加わって変化していくコンテンツ、楽しそうですね。
中村
デジタル上でできる体験とリアルでできる体験が組み合わさったり、メタバース会場とリアル会場を連動させたり。エンジニア視点の意見は刺激になります。
中村
では最後に、お一人ずつの感想をお聞かせください。
金原
このメンバーで集まって、密にコミュニケーションをとりながら、わからないことは何でも聞ける、とても良いチームで取り組めて良かったですね。今後、ユーザーがいろんな場所で「じーずの森」のキャラクターと会って、親子や友だち同士で、SDGsに興味をもち、テナントさんの取り組みに興味をもって、と、広がっていってくれたら嬉しいです。
日下部
無事に完成、ローンチできたのはこのチームだったからこそ、でしょう。団結力も連携も高まっているので、またぜひ別のお仕事でもご一緒したいですね。
「じーずの森」は、はじまりでしかないと思っています。これからもっとユーザーの方に楽しんでいただけるよう、ブラッシュアップして進めていけたら、と同時に、キャラクターたちがもっと知られるようになったら良いですね。例えば、5分番組のアニメーションをつくってYouTubeで公開する、とか。夢が広がるようなことができたら楽しいですね。
武田
それ、いいですね!私も今回、改めて貴重な体験となりました。ご当地のキャラクターが登場する、とか、今後もいろいろな展開ができそうです。コンテンツを通して、キャラクターたちとふれあって好きになってもらえたら、作り手としても嬉しいです。
中村
皆さん、ありがとうございました。
本記事掲載にあたり、「株式会社NTTコノキュー」中野紗希さんにもプロジェクトを振り返ってのコメントをいただきました。
弊社「XR City」アプリで提供する「じーずの森とあしあとのヒミツ」は、乃村工藝社様と弊社とで密にコミュニケーションをとる中で作り上げることができたコンテンツです。商業施設で体験できるARコンテンツとして、ユーザーに楽しんでもらえるのはもちろんのこと、施設への集客・回遊・購買促進にもつなげられるコンテンツにするため、互いにアイデアを出し合いながら進めることができました。
アイデアが少しずつ形になり、思い描くコンテンツが出来上がっていくのを見て、楽しみながら進められたプロジェクトとなりました。
さまざまな制限もある中で、ユーザーの体験価値を検討し合い、結果的にたくさんのアイデアが反映されたコンテンツだと感じております。さまざまな想いが詰まった「じーずの森とあしあとのヒミツ」をより多くの方に知っていただけると嬉しいです。
インタビューの中でさらなる展開案が飛び出すなど、改めて本プロジェクトチームの一体感を感じるとともに、XRコンテンツのさらなる可能性を考える機会となりました。また、普段はリアル空間を手掛ける乃村工藝社だからこそわかった施設側の懸念点や顧客行動などの議論も様々な部分で飛び交い、今後増えて行くであろうAR体験制作への学びに繋がりました。
「じーずの森とあしあとのヒミツ」を是非多くの方に楽しんで頂けると嬉しいです。
(文:naomi )
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プロの目線で“空間と体験”の可能性を切り取ります