Google検索窓は魔法の鏡か

齋藤 雄一
齋藤 雄一
share
  • Facebook
  • Twitter
  • Line
text and edit by
齋藤 雄一

 

ICT時代の考え方を考えてみる

ジョブズのプレゼンのすごいところは?

先日、部下の若いコと雑談してたら「スティーブ・ジョブズのプレゼンはどこがすごいのか」という話題になりまして。自分なりの見解はあるのですが「いい機会だから分析してみたら?」と促して数日。

― ネットで調べたらいろいろ分析されてるんですが、結構みんな言ってることが違ってて。
― ん?・・・映像は見た?
― あ、まだ見てないです。

見てないんですよ、YouTube。ジョブズのプレゼンを分析するのに、映像を見てない。もちろんこれまで、やれコピペ文化だとか、やれデジタルネイティブだとかの論評は目にしていましたが、さすがに驚きました。
あ、まだ、ってなんだよ。お前、言わなきゃ見ないつもりだな。

世の中のすべてに「正解」がある幻想

大学の論文書くのにちょっとググって拝借しちゃったり、企画書書くのにそれっぽいエビデンス借りてくるのはいいと思うんです。自分も大変お世話になっております。しかしこのジョブズの件はもっと本質的で、根本的な闇を感じます。
いろいろ思い返しながら彼らの心理を洞察してみると、たぶんネットのどこかに「正解」が書いてあるというフワッとした前提があるんじゃないかと思うんです。世の中には頭のいい人がたくさんいて、しかもジョブズのプレゼンという有名なテーマに対して、必ずどこかに正しい分析をしてる人がいるだろうと。それはまあ、あながち間違っちゃいないので参考にするのはいいんですけど、それはあくまでも「誰かの考え」です。

自分で見たもの感じたことを捕まえて、言葉にする

ネットの情報は玉石混交、しっかり見極めないといけないというのは彼らも重々解っているのです。
だってデジタルネイティブですから。
しかしだからこそ、どこかに真実があるとも思ってしまう。
決して「手抜き」や「ショートカット」をしたいわけではないのだと思います。
ただ「検索」という手段があまりにも目の前にあり過ぎて、それがもう、脊髄反射のようになってしまうのでしょう。
やはり我々企画を生業とする人間としては、まずはYouTubeを開いて、観客を離れた冷めた目線でプレゼンを見てみる。
すべてはここから始まるはずです。
自分で見たもの感じたことを捕まえて、言葉にする。前提や常識を疑ってかかるのがプランナーの基本姿勢です。
そりゃ恐竜は見に行けませんから既存の情報を参考にするしかないですけど、google で論考探すならYouTube見ようよ。

食べログの情報をもとに独自分析

これが転じるとどういうことが起こるか。
みなさんは食べログ使いますか?私は有料会員のヘビーユーザーです。食事の予定が無くても検索するくらい使ってます。だからこそなんですが自分なりのコツみたいなのがあって、

  1. 点数はエリアによって傾向が違うので参考程度に。
  2. コメントは自分と好みが似た人を見つけてしっかり読む。
  3. ヘタクソな料理写真でも旨そうに見えるところは間違いない。

といった観点でマニアックに分析します。
そうすると結局、点数が3.9だとしても好みじゃない店はいっぱいあるわけです。
けれども食べログ点数を「味の正解」だと思ってしまうと、自分があんまり美味しくないと思っても「世の中的には美味しい」と思い込んで、自分の味覚の方を調整してしまう。
インターネットが無かった時代はTokyo Walkerとか読んでお店探したりしてた訳で、行ってみてイマイチだったら「ハズれかー」で済んでたものが、食べログだと「これが世の中的に美味しいものなんだ」となる。つまり主観と客観の境界がものすごくあいまいになっていく。
これってものすごく怖いことですよね。

心に刻みたい言葉

同期のスーパーデザイナーがすごくいいこと言ってました。

「大切なのは、自分の好きなものを、相手にも好きになってもらうこと。」

なんて素敵な言葉でしょう。

クリエイティブに正解はない

クリエイティブに正解は無いのです。
結局、最後は誰かの好き嫌いで判断される。だからといって、好き嫌いで判断されないために変な理屈をこねくり回したり、エビデンスをとって理論武装したりするのは、結局誰の得にもなりません。
まさしく「正解っぽいもの」の幻想を作りだしてるだけに過ぎないのです。
ある課題に対して、今、自分はこれがいいと思う、これが好きだ、という企画やデザインをつくる。
エゴのようにも見えますが、しかし世界にたった1人だけでも「それが最高だ」と思う人がいるわけで、そこに共感する人はきっと現れるはずです。
しかしお気づきの通り、Googleで「正解」を検索してしまうメンタリティとは全く正反対のアプローチであり、社会的にはむしろ少数勢力なんだとは思います。

鏡よ鏡、世界でいちばん―、のフレーズでおなじみの魔法の鏡は、世界で唯一の正解を映し出してくれました。しかし、まだまだGoogleは魔法の鏡ではないのです。
でもあと何十年かしたら、AIの能力が人間を遥かに超えて、魔法の鏡になる日がくるのかなぁ。

イラスト:伊山 由香

最後に生き残るのは「考える力」。
AIとは善き友達になりたいです。

この記事は気に入りましたか?

editor
齋藤 雄一

齋藤 雄一

ルールチェンジャー
人々の感性を豊かに、世界を楽しく

1つ星 (まだ評価がありません)
読み込み中...