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- チャン ユエ
6月、都内で開催された株式会社グリーンディスプレイ様の内覧会「Emotional Forest」。
クリスマスをメインとした空間装飾のトレンドが紹介され、そのディスプレイの中に乃村が開発した「emograf」が取り入れられました。そこで、「emograf」が採用された経緯や、内覧会を終えての感想などをグリーンディスプレイ様と乃村の担当者が対談。「emograf」の可能性や今後の可能性なども語り合いました。
*emograf(エモグラフ)
乃村工藝社グループのイノベーション・ラボラトリー「NOMLAB(ノムラボ)」が企画・プロデュースする空間DX。利用者の笑顔を読み取りデータ分析、空間デザイン感情推測でウェルビーイング空間や活性化を支援する。これまで可視化されていなかった人の反応をemograf(エモグラフ)でデータ化し、空間デザインや運営・演出に活かすことで、誰もが心地よい空間づくりを目指す。
乃村工藝社のR&D:感情推測でウェルビーイング空間や活性化を支援する空間DXサービス発表 | 株式会社乃村工藝社 / NOMURA Co.,Ltd. (nomurakougei.co.jp)
【対談者】
株式会社グリーンディスプレイ https://www.green-display.co.jp/
事業推進室 坂本 晶子さん(写真前列右) 事業推進室 田中 秀俊さん(写真前列左)
株式会社乃村工藝社
クリエイティブ本部 コンテンツ・インテグレーションセンター クリエイティブ・ディレクション部 第3ルーム
デザイナー 中村 瞳(写真後列 右から二番目) *執筆記事はこちら *対談記事はこちら
クリエイティブ本部 コンテンツ・インテグレーションセンター デジタル・プランニング部
プランナー チャン ユエ(写真後列 左から二番目)
クリエイティブ本部 コンテンツ・インテグレーションセンター コミュニケーション・プロデュース部 兼務 未来創造研究所NOMLAB
部長 佐藤 昇(写真後列右)
ビジネスプロデュース本部 建築プロデュース部
デザイナー 松尾 尚紀(写真後列左)*ファシリテーター / 撮影 *対談記事はこちら
植物のある心地よい空間ディスプレイ
松尾
はじめに、グリーンディスプレイさんの事業についてお話しいただけますか?
坂本さん
植物を使って空間ディスプレイをする会社です。主に都市部にある商業施設やオフィスの空間などにおいて植物のある心地よさを体験していただく――そういった空間づくりを行っています。
創業当時から『GREENING』という理念を掲げており、そのコンセプトに基づき、人を取り巻く空間の快適性というものを生み出すことを目指して事業を展開しています。デザインから施工メンテナンスまで一貫して自社で行っています。
松尾
今回の展示会『Emotional Forest』での、おふたりの役割を教えていただけますか?
田中さん
展示の企画にあたるコンセプトの設定など監修全体を坂本が担当し、具体的な演出は私が担当しました。
*詳細は株式会社グリーンディスプレイ様の記事にて https://note.com/green_display/n/n36715fbf27af
NOMLAB(ノムラボ)とは? emografとは?
松尾
「emograf」を見つけていただいたのは……
坂本さん
私です。
松尾
ありがとうございます。弊社で「emograf」に取り組んでいるのは、NOMLAB(ノムラボ)という組織です。
NOMLAB(ノムラボ)について、佐藤さんから簡単に説明していただけますか?
NOMLAB(ノムラボ) https://www.nomlab.jp/jp/ ※2024年秋頃HPリニューアル予定
NOMLAB(ノムラボ)は、「デジタルイノベーション× 場づくり」をテーマに新しい集客創造を目指すラボです。様々なアーティストやテクノロジストと協働しながら、場づくりにおけるデジタルイノベーションとクリエーションに取り組んでいます。
佐藤
日々のクライアントワークで感じる課題や社会課題を研究・開発して、自分たちのコアノウハウやコアアイデアにしながらどう活用していけるのかを検証しています。
元々はデジタル技術に特化したチームでしたが、今年からはそれだけに留まらず、いろんな領域の技術を活用し、アイディアの種を生み出して育てていくことを目指しています。
松尾
佐藤さんは、以前から「emograf」に取り組まれていたんですよね。
佐藤
はい。「emograf」をどのようにコアノウハウにできるのか、いろんなものに役立てていけるのかを、中村さんやチャンさんも一緒にチームで研究してきました。
今回グリーンディスプレイ様に見つけていただき、しかも内覧会で展示できた。新しい一歩となったことが嬉しかったですね。
松尾
坂本さんと田中さんは、NOMLAB(ノムラボ)についてはご存知でしたか?
坂本さん
実は私、以前から存じ上げていたんです。
佐藤
え、本当ですか。それは嬉しいなぁ。
坂本さん
いつか仕事で関わらせていただくことはできないだろうかと考えていたのですが、きっかけが掴めないまま数年経って……
佐藤
それが今回繋がったんでしょうか。
坂本さん
今回はNOMLAB(ノムラボ)さん経由というよりは、『Emotional Forest』の企画を練る段階で『こういうものがあればいいな』とイメージしたものを探すために検索を繰り返して……「emograf」を発見したという感じです。
松尾
ではここで「emograf」とはどんなものか、チャンさん、説明をお願いします。
チャン
「emograf」は、エモーショナルとグラフィックを組み合わせた造語で、表情や感情にフォーカスし、それらを可視化していくシステムとなります。すでに5年以上研究を続けていまして、空間の中にいる人々の表情をリアルタイムで読み取り、そこから何かしらの演出を拡張していくという仕組みとなっています。来場者の感情に寄り添う楽しい空間を創ることができる。そこが「emograf」を提供する価値だと我々は考えています。
「エモーショナルな体験価値」をテーマにした内覧会で、「emograf」はどう活用されたのか
松尾
「emograf」を取り入れた今回の内覧会。経緯やテーマ、概要を教えてください。
坂本さん
最近はテクノロジーの急速な進化があり、世の中がどんどん便利になっていますよね。その一方で、コロナ禍があったことで、モノの消費より体験や思い出などが重要視されるようにもなってきています。そういった、人の持つ感情や気持ちに作用する体験を取り入れたいという思いがあり、『エモーショナルな体験価値』をテーマに企画をスタートさせました。そのうえで、人の気持ちや変化を空間演出と連動させて映し出せるシステムがないかと検索していた時に「emograf」に辿り着き、『まさにこれだ!』とすぐに問い合わせをしました。
田中さん
今回は絵本を題材にした体験型の展示で、絵本に出てくる主人公の感情の変化を、来場したお客様に追体験していただく展開になっています。ストーリーは、メインビジュアルなどをつくっていただいたイラストレーターさんと一緒に創作。それに合わせた空間演出を展開しました。主人公のウサギの女の子が月からクリスマスマーケットにお使いに行く途中で森を彷徨ってしまい、不安になるところからスタート。そこに星が現れて案内役となり、いろんな体験をして森の仲間たちと会うことができる。主人公の不安や喜び、驚きなどの感情の変化と呼応するような体験ができないかと考えていたときに、「emograf」のシステムがぴったりだとなりました。表情を分析して空間の中で可視化する――我々の企画と非常に親和性があると感じたんです。
中村
ありがとうございます。私はもともと映像業界におりまして、シナリオを書く機会もありました。映像を見る人の感情をどう盛り上げていくか――それを考えながらシナリオを書くのですが、乃村工藝社に来てからはそれを空間に当てはめるのにはどうしたらいいんだろうと考えるようになり……。シナリオが進むかのように、空間の体験を盛り上げる。それをアウトプットできる仕組みがないかと模索する中、デジタルの技術を用いて人の表情を組み合わせた「emograf」に発展していったという経緯があるんです。
松尾
「emograf」開発当初に中村さんが思い描いていたことを、今回グリーンディスプレイさんが取り入れてくださったということですね。
中村
はい、まさにその通りです。
松尾
開発者としては嬉しいですよね。来場されたお客様や社内の方の反応はどうだったんでしょう?
「emograf」を用いたディスプレイ、来場者の反応は?
田中さん
リアルタイムで来場者の表情を探知して、演出が変化する。そのインタラクティブな演出の面白さが、来場者の皆様に一番感動していただけたところだったのかなと思います。今回は2つのエリアで「emograf」のシステムを導入したのですが、『emografを取り入れることで、いろんな体験価値が生まれるんだ』と来場者さんだけではなく、私もとても感動しました。
中村
先ほど坂本さんがお話されていたように、いま消費より体験が重要視されていますよね。その流れの中、我々も空間をつくる企業として、どういう体験を提供できるのかを模索しているところです。人の感情というところにフューチャーしてアウトプットできる機会は、正直なところいまはまだ少ないんですね。ですから今回このようなチャンスをいただけて、さらに来場者アンケートでもいい評価をいただけたのはありがたいことだと思っています。
チャン
どんな場所で「emograf」の良さを活用できるのか――。我々はそこをずっと悩んでいたので、今回のお話は本当に嬉しかったです。「emograf」は空間演出にフューチャーしたプロジェクトではありますが、オフィスやその他の空間でも活用できる可能性があるのではないか。実は去年一年を通して、社内でそんなディスカッションを行っていたんです。その最中に今回のお話をいただき、また、それが「emograf」として一番得意な面を活かすような空間づくりだったので、我々もモチベーションが上がりました。
中村
展示の演出はイルミネーションと香りの2パターンありましたよね。個人的には私はイルミネーションにとても感激しました。
坂本さん
お客様にも好評でした。光で表現するというのが、シンプルでよかったのかもしれませんね。
emograf × twinkly(イルミネーション演出)
Twinkly|大型建築物の外壁をはじめ、クリスマスツリーなどの立体構造物まで、環境と場所を選ばずに使用できるスマートライティングシステム
S.E.I – Illumina Lighting – イルミネーション・空間演出をトータルプロデュース (illumina-lighting.com)
emograf × サンクサンス(香りの演出)
サンクサンス|特許取得のナノ化技術により圧倒的な噴霧効率を実現。香りの好き嫌いを超越した、「質の高い空間 」 を提供
佐藤
今回グリーンディスプレイさんが香り(サンクサンス)とイルミネーション(twinkly)
という2つのシステムと組み合わせていただいたことによって、社内のクリエイターたちからも『emografはいろんな場所で使えそうだね』の声が多く出て、話題になっていたんですよ。
*「emograf」とイルミネーション(twinkly)を掛け合わせた演出
チャン
「emograf」は笑顔を生み出す空間。我々はそこを目指して研究しています。そして笑顔を生み出したらどんなメリットがあるのか、これからはそこもしっかりとクライアントに説明していけたらいいなと考えています。
中村
五感を使って体験できる内容っていうのは今後も拡張していきたいところです。あと、例えばなんですが、「emograf」を使って植物の感情を知るということも可能性としてあるのかなと。
坂本さん
あ、それは私もできたらいなと考えていました。
中村
そうですよね。ぜひ一緒にそのあたりを一緒に考えていけたら嬉しいです。
田中さん
はい、ぜひ。
中村
ありがとうございます。人間の感情に話を戻しますが、例えば嫌なことがあった時や疲れている時、そういうネガティブな瞬間も全部感情として繋がっていると思うんです。それらを排除したり無視したりして笑顔だけにフューチャーしようとは決して思っておらず、それらの感情があることを理解した上でベストな空間を作り出す。そして、最終的に笑顔に繋がるという体験を作り出すというのが私の最終目標です。
チャン
ネガティブなものも含め、いろんな表情を受けて、最終的に笑顔にポジティブになる――そんな空間がつくれればいいですよね。
坂本さん
植物があることで生まれる人の賑わいや快適性などは、私どもも追求してきているのですが、なかなか数値化や可視化が難しく、長年の課題です。今後「emograf」を通してそこも可視化できればいいなと、いま皆さんのお話を聞いていて感じました。
「emograf」と香り(サンクサンス)を掛け合わせた演出
「笑顔は記憶にどう影響するのか」と、「emograf」がこれからできること
松尾
ふと思ったのですが、笑顔って、体験を脳にすり込ませるみたいな効果があったりするのかもしれませんね。例えば、『あの時私、笑顔だったけど、なんでだったかな?』と笑顔からその体験を思い出すというか。
佐藤
それはあるかもしれないですね。「emograf」を活用したコンテンツが笑顔をつくり、笑顔になった人たちが、いいサイクルで周囲にまた笑顔が増えていく。そんな循環ができたらいいなとは常々考えています。
チャン
笑顔が記憶にどう影響するか。実は笑顔と記憶の関係についてはたくさんの研究結果があり、私もいろいろな論文を読みました。その中に、笑顔によって記憶は強化されるというものがあったんです。
松尾
ぜひ詳しく知りたいです。
チャン
例えばこうやってみんな一緒に座っている中で、自分だけが笑う。その段階ではまだ意識はできていないのですが、みんなで一緒にドッと笑うと『あの時は楽しかったな』という思いが強く記憶に残るようなんです。笑顔によって記憶が強化され、よりポジティブな印象を残せる。そんな効果があるという研究があります。あの、これはジャストアイデアなのですが……。グリーンディスプレイさんはオフィスなどにグリーンを置いたり、植栽をされていますよね。それらを見て『わぁ~、いいな』と人が思う瞬間の気持ちを、「emograf」を用いてさらに拡大することもできそうな気がするんですよね。
松尾
なるほど、それは面白いですね。ところで、『オフィス空間にグリーンを置くことがなぜ人にとっていいのか』、グリーンディスプレイさんはクライアントさんに普段はどう説明されているんでしょう?
坂本さん
難しいところです。お客様にショールームなどで実際に植物のある空間を体験していただき、その心地よさを感じてもらう。つまり実体験として感じてもらうのが最もわかりやすいのですが、時にはそのエビデンスを具体的に求められることもあります
田中さん
その場合は論文で証明したり、いまはオフィスに最適な緑視率なども出ていますのでそれを説明したりして、グリーンの良さを分かってもらえるようにお話しています。でも、正直データはあんまり人の気持ちには響かないだろうなとは感じることはあります。
坂本さん
グリーンの良さが可視化できて、『あぁ、だからグリーンはいいんだね』と納得してもらえるような何かがあるといいなぁ……皆さんのお話を聞きながら漠然とですがそんなことを考えていました。
松尾
データはもちろん資料として必要。ですが、硬いデータを柔らかくする手段として、「emograf」には大きな可能性があるかもしれませんね。
佐藤
なるほど。「emograf」拡張のヒントとなりそうです。
松尾
まだまだお話ししていたいのですが、時間がきてしまいました。皆さん、本日はありがとうございました。
文:源 祥子
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